詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

高橋睦郎『深きより』(9)

2020-11-24 10:08:14 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(9)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「九 物語が始まる」は「藤原道綱母」。

男が女を求めるのは 誰のためか

 という書き出しで始まる。ここでは肉の欲望は語られない。「意識」が語られる。「意識の欲望」は「目の欲望」でもある。詩の最後の方で、こう語られる。男は男にどう見られているかを意識して女を求めている、と。このとき目と意識は一体である。

そのじつ 意識してゐるのは男の目のみ

 そして、つづける。

苦しみの果て そのことに気づいた女がある

 ここから詩が急展開する。
 なぜ、女、藤原道綱母に、そう語らせなければならなかったのか。「気づいた男がある」と、高橋自身が語ってもいいではないか。男が、男のまま「意識してゐるのは男の目のみ」と主張して不都合があるわけではない。
 たぶん、「意識してゐるのは男の目のみ」は高橋自身の体験を含んでいる。だが高橋は体験をそのまま語るのではなく、「体験」を「意識」という抽象にして語りたいのだ。
 その「方法」を、高橋は「蜻蛉日記」に見つけたのだろう。高橋は、高橋自身を「物語」に閉じこめることで、「意識の記録=日記」を完結させる。
 女、藤原道綱母になった高橋は、こう語り直している。

それがわたくし 日記を借りて物語を始める
実の日記 物語はここに始まる 女たちよ

 「日記」は「事実」を書くものである。「物語」は「虚構」であり、「事実」ではない。しかし、虚構の「日記」こそは、真実を表現する方法である。「虚構」であると言い張って「真実」を書くとき、その「書く」という行為、意識の運動、ことばの運動こそが「事実=真実」になる。
 
 この詩のなかには、高橋が男のままでは書けなかった行がある。

そのじつ 意識してゐるのは男の目のみ

 これは高橋の自覚だが、女になって、女から告発するというかたちでしか書けない高橋の「苦しみの果て」の叫びなのだ。告白なのだ。







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「桜」続報(情報の読み方)

2020-11-24 08:01:03 | 自民党憲法改正草案を読む
「桜」続報(情報の読み方)

 2020年11月24日の読売新聞(西部版・14版)の1面。

安倍氏側 800万円超補填か/東京地検 「桜」前夜祭 5年間

 安倍晋三前首相(66)側が主催した「桜を見る会」の前夜祭を巡り、会場のホテル側に支払われた総額が、昨年までの5年間に計約2300万円に上ったのに対し、参加者からの会費徴収額は計1400万円余りにとどまっていた疑いのあることが関係者の話でわかった。東京地検特捜部は、差額の計800万円超を安倍氏側が補填していた可能性があるとみて、捜査している。

 デジタル版には「独自」のマークがついている。「特ダネ」ということらしいが、この800万円は、すでに23日夜のNHKで報道されていた。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201123/k10012727211000.html?fbclid=IwAR1tJbsfGhUAc0A-7Tw3k2HphU4AKE4KH6dcBGr-t9L8PZrm7QmlHxfKWYY

 23日の「特ダネ」を、後追いのNHKに追い抜かれたかたちだ。
 23日の新聞にはすでに、

 特捜部はこれまでに、安倍氏の公設第1秘書や私設秘書のほか、地元の支援者ら少なくとも20人以上から、任意での聴取を実施。安倍氏側からは出納帳などを、ホテル側からは明細書などの提出を受けて分析を進めている。関係者によると、前夜祭の飲食代などの総額は、参加者の会費だけでは不足していたという。

 と書かれていた。たぶん、このときすでに「800万円」はわかっていたはずである。わかっていたけれど、「続報」として書くために「隠して」おいた。
 ほかのメディアが読売の記事を追いかけても、「秘書ら任意聴取」までしか取材できなはずと想定して、そういう書き方をしたのだと思う。他のメディアが「任意聴取」と報道しているときに「800万円」を報道すれば、読売の「特ダネ」が際立つからである。
 しかし、そういう小賢しい小細工をしているから、NHKが先に「800万円」を報道し、それを追いかけるかたちになってしまた。
 さらに、毎日新聞デジタルは、こう書いている。
 https://mainichi.jp/articles/20201123/k00/00m/040/210000c?fbclid=IwAR0XkMdkbpk3pl5pR0KueAc7OGNsMnXenXJN4WNJHiukzDwoa6KgkStO5CY

特捜部は立件の可否を判断するため、前首相への事情聴取も検討している模様だ。

 「模様だ」という憶測だが、この「前首相への事情聴取も検討」くだりは読売新聞にはない。
 読売新聞は「特ダネ」を大事にかかえこんでいる内に、他のメディアに大事な部分を攫われてしまった感じだ。

 で、ここからちょっと思うのだが。
 読売新聞は続報で「800万円超補填か」ということまでしか書けなかったということは、ニュースはここでおしまいになるおそれがあるということだ。
 それ以上、「リーク」されていないというよりも、これ以上ニュースは進まない。いや、進むのだが、野次馬の私が期待しているようには進まない。安倍の逮捕というようなことはおきないなあ。

 前夜祭を巡っては、差額分を安倍氏側が補填していたのではないかと野党が追及。市民団体なども政治資金規正法違反や公職選挙法違反の容疑で特捜部に告発状を提出していた。

 と読売新聞は書いている。きっと「政治資金規正法違反」が適用されるくらいで終わるのだろう。そういうことを「暗示」する書き方だ。安倍は「記載ミスでした。秘書の処理が間違っていました」と、いままでの主張を言い直すだけなんだろうなあ。
 それではいけないのだが。
 なんというか、メディアの「本気度」がぜんぜん伝わって来ない「続報」なので、がっかりしてしまった。






#菅を許さない #憲法改正 #読売新聞



*

「情報の読み方」は10月1日から、notoに移行します。
https://note.com/yachi_shuso1953
でお読みください。
 

#菅を許さない #憲法改正 #読売新聞



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