高橋睦郎『深きより』(16)(思潮社、2020年10月31日発行)
「十六 新じま守として」は「後鳥羽院」。
「十五 なべて泡沫」の「藤原定家」の存在など知らないかのように、この詩のことばは展開する。後鳥羽院は「男」を相手にしていない。藤原定家は多くの男から一人の男を選び、選び取ることで自分自身を一人の男にするのだが、後鳥羽院は最初から「一人」でしかないからだ。だれを選ばなくても、すでに「一人」なのだ。もっともその「一人」は兄が死ぬことによってもたらされた「一人」だから、絶対的な「一人」ではない。そこに後鳥羽院の苦悩がある。
もしかすると、これは高橋自身の「告白」かもしれない。私は高橋の個人的なことは何も知らないが、彼の周りには何人かの人間がいる。そして、その何人かの人間によって「一人の男」であることを強いられている。それがこの作品に反映しているような気がする。
唯一人の帝となつたのちも 朕は剣を帯びぬ最初の帝
じつは贋の帝ならずやとの不安に 日ごと夜ごと苛まれつづけた
たとえば家族・親族のなかでたった一人の男。そのために自分自身を「贋の男」ではないかと苦悩し続ける。女であるべき人間なのに、「家」のために男を生きている「贋の男」。
その「家」から出てしまうと、高橋はどうなるか。
朕は贋の帝から真の人に ひとりの男になつたのだ
「贋の男」から「ひとりの男」、つまりだれでもない「自分自身」になる。「自分自身」になることで「真の人」になる。「真の人」とは「自分自身」である。
新じま守とは 運命の任けのまにま島を守る すなはち防人
守るための武器は一振りの剣ならず 三十一文字一行の歌
甦へるべき歌の島 言霊の国の前衛として いま此処に立つ
そして「真の人」にならしめるのは「三十一文字一行の歌」、「ことば」である。
ことばはだれのものでもない。だからこそ、それを「自分自身のもの」にするとき、そこに「唯一人」が甦るのだ。
人間ではなく、ことばを選ぶ。それは「ことばになる」ということかもしれない。
私はいつも高橋の詩に「死」を感じるが、それは「ことばになる」という高橋の生き方に、何か「いのち」を否定して、「いのち」を超越していこうする絶望のようなものを感じるからかもしれない。この絶望は、「頭」では理解できるような気がするが、私は「肉体」ではついていけない。どこか拒絶したい、拒絶しなければいけないものを感じる。
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