詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

高橋睦郎『深きより』(16)

2020-12-04 10:50:13 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(16)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「十六 新じま守として」は「後鳥羽院」。

 「十五 なべて泡沫」の「藤原定家」の存在など知らないかのように、この詩のことばは展開する。後鳥羽院は「男」を相手にしていない。藤原定家は多くの男から一人の男を選び、選び取ることで自分自身を一人の男にするのだが、後鳥羽院は最初から「一人」でしかないからだ。だれを選ばなくても、すでに「一人」なのだ。もっともその「一人」は兄が死ぬことによってもたらされた「一人」だから、絶対的な「一人」ではない。そこに後鳥羽院の苦悩がある。
 もしかすると、これは高橋自身の「告白」かもしれない。私は高橋の個人的なことは何も知らないが、彼の周りには何人かの人間がいる。そして、その何人かの人間によって「一人の男」であることを強いられている。それがこの作品に反映しているような気がする。

唯一人の帝となつたのちも 朕は剣を帯びぬ最初の帝
じつは贋の帝ならずやとの不安に 日ごと夜ごと苛まれつづけた

 たとえば家族・親族のなかでたった一人の男。そのために自分自身を「贋の男」ではないかと苦悩し続ける。女であるべき人間なのに、「家」のために男を生きている「贋の男」。
 その「家」から出てしまうと、高橋はどうなるか。

朕は贋の帝から真の人に ひとりの男になつたのだ

 「贋の男」から「ひとりの男」、つまりだれでもない「自分自身」になる。「自分自身」になることで「真の人」になる。「真の人」とは「自分自身」である。

新じま守とは 運命の任けのまにま島を守る すなはち防人
守るための武器は一振りの剣ならず 三十一文字一行の歌
甦へるべき歌の島 言霊の国の前衛として いま此処に立つ

 そして「真の人」にならしめるのは「三十一文字一行の歌」、「ことば」である。
 ことばはだれのものでもない。だからこそ、それを「自分自身のもの」にするとき、そこに「唯一人」が甦るのだ。
 人間ではなく、ことばを選ぶ。それは「ことばになる」ということかもしれない。
 私はいつも高橋の詩に「死」を感じるが、それは「ことばになる」という高橋の生き方に、何か「いのち」を否定して、「いのち」を超越していこうする絶望のようなものを感じるからかもしれない。この絶望は、「頭」では理解できるような気がするが、私は「肉体」ではついていけない。どこか拒絶したい、拒絶しなければいけないものを感じる。




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安倍の今後

2020-12-04 09:59:27 | 自民党憲法改正草案を読む
安倍の今後

 2020年12月04日の読売新聞(西部版・14版)1面。

「桜」前夜祭/安倍前首相聴取で調整/東京地検 月内にも実施か

 この見出しは、いよいよ安倍逮捕か、という期待(?)をいだかせるが、4面の「内幕記事(?)」を読むと、私の期待は消えてしまう。
 途中を省略するが、記事をつないで読んでいくと、読売新聞がこの問題をスクープした理由というか、読売新聞に「リーク」した人の狙いがみえてくる。見出しは「自民 安倍氏捜査を注視/国会閉会 幕引き狙う」となっているが、そんな「狙い」など記事を読まなくても想像がつく。いつもの自民党の手口だからだ。
 実際には、何が起きているか。読売新聞に書かれているさまざまな発言者の声をつなぐと見えてくるものがある。(番号は、私がつけた。)

①安倍氏の出身派閥の細田派幹部は「一応話を聞くということだ。安倍氏本人への刑事処分はないと結論を出すためにも必要な手続きだろう」と語り、事態を注視する考えを示した。幹部は、来年中とされる安倍氏の細田派への復帰には影響しないとの見通しを示す

 「刑事処分はない」とまず、「結論」が語られる。
 そのうえで、今回の「報道の狙い」がどこにあるかが、少しずつ語られる。

②首相経験者が事情聴取されれば、衝撃は大きい。閣僚経験者は「以前のように表舞台で活動するのは難しいだろう。首相への『再々登板』を口にする人もいなくなるのではないか」と解説する。

 「桜報道」は安倍の「再々登板」を封じるためである。まず、そう「大筋」が語られる。
 これを補足する材料として、

③安倍氏は、(略)衆院解散・総選挙の時期を巡り、「私だったら1月に衆院を解散する」と繰り返し発言し、波紋を呼んだこともあった。

 (菅)首相の権限である「解散権」に口出ししている。それが気に食わない。
 この安倍の「野望」については、もうひとつ追加事項がある。

④3日夜には参院細田派議員の会食に参加し、前日の2日夜は麻生副総理とともに、東京都内での細田派と麻生派の若手議員による会合に出席した。2日の会合は最大派閥の細田派と第2派閥の麻生派の蜜月ぶりを示し、菅内閣で存在感を増す二階派をけん制する意図もあったとみられる

 「安倍の聴取打診」が報道されたのは3日の夕刊。つまり2日夜の麻生を加えた会合のあと。「まだ麻生と組んで再々登板を画策しているのか、許せない」ということだろう。そして、「聴取打診」が報道されたにもかかわらず、安倍はその3日夜にも「会食」を開いている。菅の怒りが安倍にはつたわっていないと判断して、きょう4日の「特ダネ」の「年内にも安倍聴取か」になったのだ。きょうの「特ダネ」は菅の怒りがどれだけ激しいかを証明するものなのだ。これは菅の「脅し」を代弁しているのである。
 それが証拠にというのも変だが、きょう4日の朝刊には、安倍のうろたえぶりが、こんな具合に書かれている。「安倍氏は3日、東京・永田町の衆院議員会館で報道陣の取材に応じ、特捜部による聴取の打診について『聞いていない』と述べた。」。
 特捜部が「打診している」というニュースなのに、聴取を受ける安倍が何も知らないというのは、安倍が嘘をついているのかもしれないが、とても奇妙なことである。

 話を元に戻すと、菅は安倍に対して不満を抱いている。それを明確にするために、
 そして、わざわざ、

④安倍氏本人が事情聴取される方向となり、再始動に冷や水を浴びせられた格好だ。

 と、だめ押しのように、「再始動」の動きを批判している。
 おもしろいのは、この③④の部分には、「だれ」が批判しているのか、「主語」がない。「再始動に冷や水を浴びせられた格好だ」はだれの発言なのか。
 だれでもない。「読売新聞」の状況判断である。これは、言い換えれば読売新聞は、安倍の動きに冷や水を浴びせるために、この記事を書いているということである。一連の記事は安倍に冷や水を浴びせるために「リーク」したものである、ということである。その「リーク元」の怒りを、読売新聞は、そのまま反映させている。
 「正直」が出てしまう読売新聞は、こういうことを隠せない。
 で、問題の「リーク元」には、つぎのように語られて記事を締めくくっている。

⑤政府関係者は最近の安倍氏の言動について「衆院解散は菅首相の専権事項で、安倍さんの発言は余計だった。少し静かにしていた方がいい」と苦言を呈した。

 ここに再び「衆院解散」は「菅首相の専権事項」が登場し、すべてをバラしている。
 安倍の発言に菅が怒り、安倍封じをするために「リーク」した。そのことを「政府関係者」は「少し静かにしていた方がいい」と露骨なことばで説明している。それを、読売新聞は、わざわざ「苦言を呈した」と解説し直している。
 読売新聞は「正直」がうりもの。こういう「正直」は、読んでいて、たまらなくおかしい。

 で、まとめると。
 安倍の動きさえおさえることができるなら、菅はそれで満足。それが目的の「桜問題の再掘り起こし」なのだから、もちろん立件は狙いではない。逆に言えば、政治資金規正法違反(不記載)で秘書を立件すればおしまい。そのために(というか、そうさせるために)、3日の朝刊では、わざわざ「4000万円」という額を出して、問題は「桜」ではなく、秘書の帳簿処理という「方針転換」を説明している。
 菅としては、秘書の処分で桜問題を隠蔽するのだから、ありがたく思え、と恩を売っているんだろうなあ。

 それとは別に、私は、こんなことも考える。
 すでに読売新聞の「特ダネ」第一報の直後に書いたことだが、この「桜」とコロナウイルス(GoToキャンペーン)の問題がクローズアップされたために、「学術会議」問題が見えにくくなった。「6人任命拒否」は菅の違法行為であるという問題が見えにくくなった。野党の追及がどうなっているのか、新聞などでは、わからなくなっている。
 これを考えると、菅は菅自身が問われている違法行為を隠すために、安倍の違法行為をひっぱりだしたということになる。
 推測だけどね。

















#菅を許さない #憲法改正 #読売新聞



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「情報の読み方」は10月1日から、notoに移行します。
https://note.com/yachi_shuso1953
でお読みください。
 

#菅を許さない #憲法改正 #読売新聞



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