詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

高橋睦郎『深きより』(22)

2020-12-21 10:00:38 | 高橋睦郎『深きより』


高橋睦郎『深きより』(22)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「二十二 魔界へ 虚無へ」は「一休宗純」。

 世阿弥で語られていた「自然」が言い直されている。

大悟とは何の大悟 悟りを求めぬこそ真の悟りならずや

 「真の悟り」とは「悟りを求めぬ」こと。この「真」が「自然」である。「自然の悟り」。「自然」の定義はむずかしいが、「ほんらい」、もとのかたちとつかんでみよう。
 たとえば、それは

やむなく許されて 腰萎えの老師の屎尿の濯ぎ役
昼は都に出ての香袋づくり・雛人形の顔描き稼ぎ

ということと、

印可状など破り去り 昼も夜も入り浸る魚肆・淫房
老い耄けては盲の女芸人を仏と崇め 啜淫・雲雨の契り

は同じことと。「違い」を持ち込まない。この「違い」は「境」と言い直されて、最終行にあらわれる。

入り難い魔界を得たとは 即ち詩禅一如の虚か無の境?

 「境」などない。「境」に人間の「理性」が持ち込んだものであって、「迷い」にすぎない。「理性」をとっぱらえば、世界は「一つ」になる。それが「自然」の状態であり、「悟り」ということになる。
 そう「頭」で理解して(あるいは、誤読して)、その上で思うのだが……。

記憶の如きはないではない 仄かな乳汁の匂ひと
白い胸乳の暖かさ あれが世に母というものか

 この「母」の描写には、乗り越えられない「境」がある。「母」は「私」ではない、「母」は「私」から切り離された存在である、という「認識(理性)」がある。
 高橋が「悟り」に到達できないとしたら、それは「母」の記憶があるためだ。また高橋が「悟り」を求めずにはいられないのは「母」の記憶があるからだ。高橋を個人的に知っているわけではないが、「母」は高橋にとって非常に重大なテーマなのだということが、この詩から感じられる。
 「母」は「自然」であると同時に「自然」を否定する。「母」を「ことば」と言い換えるなら、「ことば」は「自然」を求めて「詩」になろうとする。「ことば」が「詩」になったとき、そこに「自然」が姿を現わす。高橋は、その「出現」を待っている。






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ニュースの価値判断(情報の読み方)

2020-12-21 08:39:14 | 自民党憲法改正草案を読む


 2020年12月21日の読売新聞(西部版・14版)1面にに驚くべき記事が載っている。コロナ感染拡大に関連する記事である。

「静かな年末年始を」/全国知事会、緊急メッセージ
 全国知事会は20日、新型コロナウイルス対策でオンライン会議を開き、国民に対して「静かな年末年始」を過ごすよう求める緊急のメッセージを出した。感染拡大地域とそれ以外の地域を往来する帰省や旅行を控えることを含め、慎重な行動を呼びかけた。

 会議には40道府県の知事が参加。メッセージでは、「家族や友人とふるさとで穏やかに過ごす期間だが、今が肝心な時。力を合わせて感染拡大を防ぎ、自分、大切な人、ふるさとを守ろう」と訴えた。帰省や旅行は、行き来する都道府県の感染状況を確認した上で家族らと相談して判断するよう求めた。初詣を含めて「3密」を避け、移動する際は時期を分散するよう呼びかけている。

 なぜ驚いたか。
 緊急メッセージを出したのが「国」ではなく、「全国知事会」だからだ。知事会は、お盆の帰省のときもメッセージを出してた(8月8日)。メッセージは二度目であり、驚くべきことではないと思うひとがいるかもしれないが、私は二度目だからこそ、驚いた。
 菅は内閣支持率の急下落に驚き、急いで「GoToキャンペーン」を中止したが、中止したことについては二階の忘年会にかけつけ、二階に謝罪しただけで、国民に対して記者会見などをつうじて直接呼び掛けるということをしていない。知らん顔をしている。
 そういう事態に耐えられなくなって、知事会が声を上げたということだろう。一度目のメッセージ(批判)よりも、二度目のメッセージの方が重いのだ。二度もおなじメッセージを知事会が出したということを、菅は認識すべきだが、菅にはそれができていない。ここには菅への強い批判がこめられていると受け止めるべきだろう。
 それを読売新聞は、1面で伝えている。このことに驚いた。
 だが。
 同時に、菅批判をするなら、もっとそれを強調すべきだろうとも思った。読売新聞はトップに「不動産 対面取引見直し」、二番手に「再エネ目標 自治体に義務」というニュースを掲載している。いずれも「特ダネ」なのかもしれないが、「案」や「方針」である。それよりも3週間で5万人もが感染したコロナとどう向き合うべきなのか、それを伝えるべきだろう。「忘年会」は終わったところが多いだろうが、その影響はこれからあらわれる。それが年末年始を直撃する。


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