草野早苗『ぱららん』(金雀社、2020年11月30日発行)
草野早苗『ぱららん』には不思議な音がある。
ここには一つの共通の音がある。情緒的な意味ではなくて、即物的な意味での「共通音」がある。「ン」である。「新米」は漢字で書いてあるのでわかりにくいが「ん」がある。「交信す」にも「ん」が隠れている。
で、この「ン/ん」なのだが、日本語の「ん」の音は実は一つではない。
舌が口蓋にきちんと接触する閉鎖的な「ん/N」と、舌が口蓋にきちんとつかない「ん/n」、さらにフランス語に通じるように鼻音がある。(N/nという書き分けは正しいかどうか知らないが、便宜的に、書き分けてみた。)
そして、このNとnなのだが、私は実はNの音が苦手である。ついついnになってしまう。Nを発音するときは、非常に意識しないとできない。「新年」のように次にな行の音が来るときはNの方が楽というか、必然的に感じるが、このNにしても私の場合はnで発音することが多い。(鼻音は省略)。
どこが違うかというと。
感覚的なものを含むので、説明がむずかしいが、Nは前後の音をぶつんぶつんと切る感じ、nは音が消えて前後の音を繋いでいる感じ。
なぜ、こんなことにこだわって書いているかというと。
俳句は5・7・5の音から成り立っているがNはそのうちの明確な一音。でもnは数えなくてもいい音。前の音に含まれてしまう「呼吸」のようなもの、という感覚が素人の私にはある。俳句を専門に書いているひとは、一定の決まりを持っているかもしれないし、「歳時記」のように決まりそのものがあるかもしれない。
そして。
草野はきっと「ん」をしっかりと「一音」として指を折って数えるひとだろうなあ、と思ったのだ。私が曖昧にしているn音もN音として数えている。そういう感じがある。
そのため音が「ごつごつ」している感じが生まれる。
俳句とか和歌とか、日本伝統の文学は、万葉をのぞけば、あるいは古今以後は「ごつごつ」が少なく「さらさら/すべすべ」という感じだが、草野の音には「角」がある。ぶつかりながらすり減るのではなく、ぶつかりながら「音」の奥を貫いているものが流動する感じ。表面的ではなく、内部の大きな流動が、表面のぶつかりあいを押し退けて進む感じがある。私の感じる「万葉調」がある。
「万葉の俳句」というと、変だけれど、そう呼びたいものを感じる。
草野が俳句を声に出して読むかどうか知らないし、草野の日頃の口調を知っているわけではないのだが、きっと「ん」をNとしっかり発音するひとなのだろう。
たまたま開いた42、43ページの見開きには、
とやっぱり「ん」の音を含む句がならび、私はそこに「音」を感じてしまう。「ジャンパーに」を5音と数えるには「ジャ」「ン」「パ」「ー」「に」となるのだろう。私の感覚では「ジャン」「パ」「ー」「に」になる。音引き(伸ばされた音)を一音と感じるのはnと違って肉体に力が入るからだろうなあ。
「ん」を含む句は、ほかにも
どれも、なんとなく「好き」と思ってしまうのは、やっぱり「ん」の音が妙に響いてくるからである。こういう句も。
で、句集のタイトルになっている、
この句にも「ん」があるでしょ? トランペットに「ン」があるのだから「ぱっぱらら」でもいいはずだし、私の感覚ではトランペットの音は最後は閉じずに開放的だから「ん」はなじまないのだが、草野は「ん」と閉じる。その結果、その前の「ぱらら」が強調されるのかもしれないけれど、草野は「ん」の音が書きたくて「ぱららんと」したんだろうなあ。句集のタイトルにするとき「と」があると「ん」が目立たなくなるから「ぱららん」にしたんだろうなあ、と私は思うのだった。
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草野早苗『ぱららん』には不思議な音がある。
春夕焼けキリンが角で交信す
スペインの牛黒さ増す秋の雨
ただならぬ卵殻のひび新米来
青セロファンが重なる大気冬木立
ここには一つの共通の音がある。情緒的な意味ではなくて、即物的な意味での「共通音」がある。「ン」である。「新米」は漢字で書いてあるのでわかりにくいが「ん」がある。「交信す」にも「ん」が隠れている。
で、この「ン/ん」なのだが、日本語の「ん」の音は実は一つではない。
舌が口蓋にきちんと接触する閉鎖的な「ん/N」と、舌が口蓋にきちんとつかない「ん/n」、さらにフランス語に通じるように鼻音がある。(N/nという書き分けは正しいかどうか知らないが、便宜的に、書き分けてみた。)
そして、このNとnなのだが、私は実はNの音が苦手である。ついついnになってしまう。Nを発音するときは、非常に意識しないとできない。「新年」のように次にな行の音が来るときはNの方が楽というか、必然的に感じるが、このNにしても私の場合はnで発音することが多い。(鼻音は省略)。
どこが違うかというと。
感覚的なものを含むので、説明がむずかしいが、Nは前後の音をぶつんぶつんと切る感じ、nは音が消えて前後の音を繋いでいる感じ。
なぜ、こんなことにこだわって書いているかというと。
俳句は5・7・5の音から成り立っているがNはそのうちの明確な一音。でもnは数えなくてもいい音。前の音に含まれてしまう「呼吸」のようなもの、という感覚が素人の私にはある。俳句を専門に書いているひとは、一定の決まりを持っているかもしれないし、「歳時記」のように決まりそのものがあるかもしれない。
そして。
草野はきっと「ん」をしっかりと「一音」として指を折って数えるひとだろうなあ、と思ったのだ。私が曖昧にしているn音もN音として数えている。そういう感じがある。
そのため音が「ごつごつ」している感じが生まれる。
俳句とか和歌とか、日本伝統の文学は、万葉をのぞけば、あるいは古今以後は「ごつごつ」が少なく「さらさら/すべすべ」という感じだが、草野の音には「角」がある。ぶつかりながらすり減るのではなく、ぶつかりながら「音」の奥を貫いているものが流動する感じ。表面的ではなく、内部の大きな流動が、表面のぶつかりあいを押し退けて進む感じがある。私の感じる「万葉調」がある。
「万葉の俳句」というと、変だけれど、そう呼びたいものを感じる。
草野が俳句を声に出して読むかどうか知らないし、草野の日頃の口調を知っているわけではないのだが、きっと「ん」をNとしっかり発音するひとなのだろう。
たまたま開いた42、43ページの見開きには、
冬賞与二箇月分で犬を飼ふ
息詰めて開く骨盤オリオン座
ジャンパーに包みて猫の爪を切る
とやっぱり「ん」の音を含む句がならび、私はそこに「音」を感じてしまう。「ジャンパーに」を5音と数えるには「ジャ」「ン」「パ」「ー」「に」となるのだろう。私の感覚では「ジャン」「パ」「ー」「に」になる。音引き(伸ばされた音)を一音と感じるのはnと違って肉体に力が入るからだろうなあ。
「ん」を含む句は、ほかにも
初夏の横須賀線が弾み来る
林檎一個カードで買ひぬ乗り継ぎ地
どれも、なんとなく「好き」と思ってしまうのは、やっぱり「ん」の音が妙に響いてくるからである。こういう句も。
満月に飛ぶほど父に叩かれて
ベランダにいづこから来て石榴ある
ビニールのペンギンを置く冷蔵庫
で、句集のタイトルになっている、
ぱららんとトランペット鳴り梅雨明くる
この句にも「ん」があるでしょ? トランペットに「ン」があるのだから「ぱっぱらら」でもいいはずだし、私の感覚ではトランペットの音は最後は閉じずに開放的だから「ん」はなじまないのだが、草野は「ん」と閉じる。その結果、その前の「ぱらら」が強調されるのかもしれないけれど、草野は「ん」の音が書きたくて「ぱららんと」したんだろうなあ。句集のタイトルにするとき「と」があると「ん」が目立たなくなるから「ぱららん」にしたんだろうなあ、と私は思うのだった。
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(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
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講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
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週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。
費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。
お申し込み・問い合わせは、
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また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571
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嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
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『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
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(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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