詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

小島数子「丘」

2021-05-05 09:11:19 | 詩(雑誌・同人誌)

小島数子「丘」(「るなりあ」46、2021年04月15日発行)

 小島数子「丘」の一連目。

冬の日の
今日
丘の頂き近くにある
小さな展望台へ
長い石段を
呼吸の翼を動かし
脚を浮かせるようにして
何も考えずに上っていく


 「冬の日の/今日」という少し変わった書き出しに誘われ「呼吸の翼を動かし」という行に驚かされる。次の「脚を浮かせるようにして」との呼応が、こころを解放してくれる。
 しかし、呼応はこれでおしまいではないのだ。
 三連目で、もっと大きな呼応にかわる。

いつだったか一度
丘の向こう側にある道から来て
見上げる頂きに立ったのだろう
どこかの楽団員らしい男の人が
アコーディオンを弾き始めたことがあった
音に振り返り
初めてその姿を見たときには
丘に棲む精霊が現れ出たと
思わなければならないのだろうかと
とまどったが


 「いつだったか一度」のために「冬の日の/今日」が書かれている。その「伏線」が「いつだったか一度」を鮮烈に思い出させる。「いつだったか一度」の「一度」は「初めて」と言い直され、さらにことばを緊張させる。そのあとに「丘に棲む精霊」が出てくる。これは「呼吸の翼」(天使)に呼応する。
 ここまでなら、ちょっとしたメルヘンである。
 それでも十分におもしろいが、私が、あっ、と声を上げたのは、これにつづく部分。

青空を背にして
景色を聴衆にして
胸に
もう一つ
光る胸を重ね
澄んだ空気を呼び入れ
自分の声を出すように弾いていた
しばらくして音が途絶え
その人がいなくなったあと
艶を増したように感じた丘


 「胸に」からの五行。これが一連目の「呼吸」そのものに重なる。「胸に」「澄んだ空気を呼び入れ」るは息を吸い込む、呼吸のはじまり。それがただの「呼吸」ではなく「胸に/もう一つ/光る胸を重ね」であると語られている。
 これは

「その男の」胸に
もう一つ
「別の誰かの」光る胸を重ね

 だと思う。「別の誰か」は楽曲の作曲家かもしれない。しかし、私は一連目の「翼」から「天使の」ということばを補いたくなるのである。「天使の光る胸」。
 天使になって、音楽を奏でる。
 私は天使の存在を信じているわけではないし、精霊の存在を信じているわけでもないが、おもわず天使と言ってしまうのである。精霊が天使に昇華(?)していくのもいいなあ、と思ってしまうのである。
 その天使を目撃した「記憶」があるからこそ、一連目で「呼吸の翼」ということばが出てきたのだ。
 この呼応に、目があらわれるような気がするのである。
 そして、その新しい視界のなかに、

艶を増したように感じた丘


 この「艶」もいいなあ。「色」が「豊か」になる。何かが新たにつけくわわって、存在が、そして生きていること自体が豊かになる。
 小島の書いている「丘」へ行ってみたくなるではないか。

 

 

 


**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、skypeでお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
(郵便でも受け付けます。郵便の場合は、返信用の封筒を同封してください。)

★skype講座★
随時受け付け。ただし、予約制(午後10時-11時が基本)。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

**********************************************************************

「詩はどこにあるか」2021年4月号を発売中です。
137ページ、1750円(送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
リンク先をクリックして、「製本のご注文はこちら」のボタンを押すと、購入フォームが開きます。

https://www.seichoku.com/item/DS2001228


オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「深きより」を読む』76ページ。1100円(送料別)
詩集の全編について批評しています。
https://www.seichoku.com/item/DS2000349

(4)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(5)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(6)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする