池田清子「今」、徳永孝「春」、青柳俊哉「冷雨」(朝日カルチャーセンタ福岡、2021年05月17日)
四か月ぶりの講座。受講生の作品を読んだ。
今 池田清子
2 16 -8 9
8 7 1 5
-2 … 1 -1
-1 2 … 5
今
わけがわからなくて
ずっと
あいまいの中にいる
フフッ
数字が
浮遊している
「最初に数字が並んでいる。規則性がわからない。だから意味もわからない」「数字を見ると、規則性を見つけたくなる。規則性はないだろうが、不思議に共感するところがある」「斬新。数字が絵のように見える。ふわっとした霧のような雰囲気」「提示の仕方が独特」というような感想が飛び交った。
「わからないことが、いやではない」という、とてもいい感想も飛び出した。わかる、わからないよりも、好き嫌いの方が詩の読み方として楽しいと思う。意味がわからなくても楽しければいい。
「三連目のフフッ、がおもしろい」「浮遊しているに、よくあっている」「わけがわからなくてと、あいまいの感じも似合っている」
こうした感想が成立するのは、ことばのうごきに無理なリズムがないからだろう。ことばが自然に動いている。
数字はデジタルであり、ほんらい「あいまい」ではない。でも、ここではあいまい。
「一連目の…が効果的。数字ではないものが、あいまいを生かしている」
この考え方(読み方)も楽しいね。
*
春 徳永孝
梅はずいぶん昔のことに思える
椿も木蓮も終った
桜は葉桜にかわっていく
シュンランが咲き
キンポウゲ チューリップは今が盛り
さつきの花も開きだした
枯れたかと心配したかん木は新芽でいっぱいだ
道ばたの畑で
豆のつるが日に日に高くなっていく
みんなに置いていかれないように
わたしはわたしの足どりで
新らしい学びへ進んでいく
「いつも散歩しているときに見かける光景が、そのまま目に浮かんでくる」「散歩のリズムを感じる」「見たままの自然な感じ」「春の豊かさがつたわってくる」「枯れたかと心配したかん木は新芽でいっぱいだは、新鮮な感じがする」。私は「豆のつるが日に日に高くなっていく」がいいなあ、と思う。それまでは花だとか、新緑だとか、多くの人が春を伝えるものとして、自然に見ている。でも「豆のつる」というのは、あまり多くの人が目をむけるものではないと思う。そこが新鮮だった。
作者は、最終連に苦労したという。私は「学び」ということばが堅苦しい感じがした。自然から何かを吸収していくことを伝えたかった、と作者は言う。「最後の三行は悩んだ」とも。
私も最後の三行につまずいた。
そこでこんな提案をしてみた。三行ずつ四連。起承転結というわけではないが、そういう動きにつながるものを感じる。そして、その「結」が少し異質。言いたいことがそこにあるのはわかるけれど、なんとなく重苦しい。連を入れ換えてみるとどうだろう。
たとえば、三連目と四連目を入れかえると、こうなる。
梅はずいぶん昔のことに思える
椿も木蓮も終った
桜は葉桜にかわっていく
シュンランが咲き
キンポウゲ チューリップは今が盛り
さつきの花も開きだした
みんなに置いていかれないように
わたしはわたしの足どりで
新らしい学びへ進んでいく
枯れたかと心配したかん木は新芽でいっぱいだ
道ばたの畑で
豆のつるが日に日に高くなっていく
「最後の三行の、浮いた感じが消えた」「かん木の新緑が、作者を祝福している感じ」「一体感が出てきた」
つかわれていることばはみんな同じ。でも、順序を入れ換えるだけで、印象がぜんぜん違ってくる。型苦しい感じがした最後の三行、意味が強すぎる感じがしたことばも、「転」の部分におさめてみると、あまり違和感がない。「転」だから、もともとその部分には「異質」なものが来てもいいのだ。最後に「異質」を取り込んでもう一度春の情景に戻る。
谷川俊太郎が実際にどうやって詩を書いているか私は知らないが、谷川はこういう「切り貼り」感覚がとても鋭敏だと思う。別なところにあったものを、ここにもってくる。ここにあったものを別な場所へ移す。そうすると、それだけで世界が違ってくる。
書いたときは、書いたときのリズムがあり、なかなか「切り貼り」はしにくいのだけれど、少し時間を置き、「他人の作品」として読み直してみる。そのとき、思い切って、いままで書いた順序をかえてみるのも効果的かもしれない。
*
冷雨 青柳俊哉
冷雨のふる二月の朝に
雨の音がわたしを連れていく
池水のうえにひらく無数の円に
無思惟にただよう水草の茎の中の響きに
葉陰に休む鳥の耳殻の襞のしずけさに
そして 水のうえを越えて
空にひらかれた造形の石の園へ行く
石に彫られた文字 石に挿された花
人の命の系譜と 鎮魂の形式
それらも 無限へとながれる
わたしは雨にまじり
異空の石にそそぐ
「情景描写がこまやかで美しい」「雨の音がわたしを連れていく、わたしは雨にまじりという行が美しい」「葉陰に休む鳥の耳殻の襞のしずけさに、も印象的」「でも、鳥の耳殻の襞のしずけさ、というのは何ですか?」
何だと思います?
池水のうえにひらく無数の円は、誰もが見たことがあると思う。水草の茎も鳥も見たことがある。鳥の耳殻になると、見たといえる人は少ないと思う。さらに、その襞となると、見た人はどれだけいるだろう。しかし、見たことがなくても想像することはできる。その想像が正しいかどうか(科学的かどうか)は別にして、意識が知らない世界へ動いていく。そして、耳殻の襞にとどまらず、しずけさまで想像する。しずけさと、その前の行の響き、さらには水面に開く円ができるときの音なども想像すると、そのなかに重なり合うものが出てくる。それをことばの力を借りて想像する、というのが楽しいと思う。
正しいとか間違っているとかは問題ではなく、想像力を動かすということが大事なのだと思う。
一連目は水、三連目は石が中心に描かれ、水と石が対比され、そのなかで「想像力」が何かをつかみ取ろうとしている。
この石について、「墓」「霊園」と読む声が多くて、私はびっくりした。たしかに「鎮魂」とか「彫られた文字」も墓なのかもしれないけれど、私は水との対比で枯山水(石庭)を思い浮かべたのだった。それも地上にある石庭ではなく、空に浮かんでいる石庭。
池に空が映るように、空に池が映るのだけれど、その空の池は「石庭」のように石の水紋を描いている。
私は「誤読」が好きなのだ、とあらためて思った。
**********************************************************************
★「詩はどこにあるか」オンライン講座★
メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、skypeでお伝えします。
★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
(郵便でも受け付けます。郵便の場合は、返信用の封筒を同封してください。)
★skype講座★
随時受け付け。ただし、予約制(午後10時-11時が基本)。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。
費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。
お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com
また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571
**********************************************************************
「詩はどこにあるか」2021年4月号を発売中です。
137ページ、1750円(送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
リンク先をクリックして、「製本のご注文はこちら」のボタンを押すと、購入フォームが開きます。
<a href="https://www.seichoku.com/item/DS2001228">https://www.seichoku.com/item/DS2001228</a>
*
オンデマンドで以下の本を発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『高橋睦郎「深きより」を読む』76ページ。1100円(送料別)
詩集の全編について批評しています。
https://www.seichoku.com/item/DS2000349
(4)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
(5)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
(6)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com