詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

小松弘愛「白いガーゼのマスク」

2021-05-13 08:51:19 | 詩(雑誌・同人誌)

小松弘愛「白いガーゼのマスク」(「兆」190、2021年05月05日発行)

 小松弘愛「白いガーゼのマスク」は、いましか書けない詩である。いや、いま読まないとわかりにくくなる詩である、と言った方がいいか。

  新型コロナが
  ひろがりを見せ始めた頃
  わたしは自転車に乗って
  川縁の道を下っていった

 とはじまる。「いま」というよりも「去年(2020年)のことなのだが、いま、それを思い出しているのは、新型コロナが一年たっても終息していないからである。
 小松は白木蓮の花が散って、道を「彩っている」のを見る。

  その彩りの傍まで来たとき
  わたしは自転車を止め
  散り敷いた花びらの中に
  捨てられた一枚の
  白いガーゼのマスクを見ることになった

 気になるね。「捨てられた」か「落ちていた」からわからないが、どうしても目に留まってしまう。「彩り」ということばがあるから、よけいに、目立ってしまう。風景を汚している。以前なら、「彩り」と見えたはずのものが、いまは「彩り」には見えない。
 汚い、とか、不潔とかは書いていないのだが、「彩り」が反射してきて、そういうことばを思い浮かべさせる。そして、それは汚い以上の何か不吉なものである。
 そういう意味では、誌の前半に繰り返される「彩り」はとても重要なことばだ。

  その翌日
  夜も更けていた
  広い道路から入った裏道で

   闇のなか道を曲がれば自転車のライトに咲くは白木蓮の花

  このような
  白木蓮の姿を見ることになったが
  実は
  一瞬のことだけれど
  わたしは
  自転車のライトを受けて
  浮かびあがった花の中に
  一枚の
  白いガーゼのマスクを見たように思った

 もしコロナがなかったら、たとえ道に落ちているマスクを見ても、あ、汚いなあと一瞬思うだけだろう。しかし、いまはそれ以上のことを思ってしまう。その一瞬の思いは、一瞬だけれど根深い。こころに生きつづける。翌日、別の場所で別の白木蓮を見る。
 その一瞬は、短歌に詠まれているように美しい光景であるはずだった。しかし、美しい(彩り豊かな)瞬間が、壊されていく。あるはずのない「白いガーゼのマスク」を花の中に見てしまう。
 小松は「見たように思った」と書いているのだが。
 そして、この「見たように思った」は、もしかすると、「見た」よりも強烈かもしれないと思う。いや、強烈である。「見た」で終わっていたら、私はきっとこの詩の感想を書かない。「見たように思った」の「思った」に衝撃を受けたのである。いまでしか書けない、いましかこの感じは読み取れない。
 思うは、こころの動き。こころの動きであって、現実ではない。いや、こころの現実といいなおせばいいのかもしれない。
 私たちは、新型コロナの影響は肉体や日常生活ではなく、こころにまでしっかりと響いてきている。そして、それは根深く私たちを支配している。小松は「一瞬のことだけれど」とことわっているが、ことわってでも書かずにはいられない。無視できない。
 新型コロナの不気味さ、影響力の大きさを伝える詩である。

 

 

 

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