森文子『野あざみ栞』(思潮社、2020年08月01日発行)
森文子『野あざみ栞』の「なめくじを生きる」。
人目につかないのが大切 生きのびるには
うごきまわるのは夜中 昼間は ひそむ
だが ぬめっと這った跡をけすのが むずかしい
くいちぎられ きのう 植えたサラダ菜
ぬるぬるの大集団が まずは 頭にうかぶ
ぱらのつぼみも あわれな
きらわれることをすなおに 受けいれる
二本の触覚 フルに使いこなす
なめくじを したたかに 生きる
今の世 わたしが学ぶべきかもしれない
ここには二つの視点がある。
なめくじは、害虫といえるだろう。つくった野菜をだめにする。こまったものだ。
しかし、そのなめくじに学ぶべきものがある。嫌われていることを知っていて、(というのは、人間の解釈であって、ほんとうは違うかもしれない)、それでも生きている。
で、この「思い入れ/勘違い?」を、森は、
きらわれることをすなおに 受けいれる
と書く。
ここにおもしろさがある。
森がどういう人間かわたしは知らないが、詩を読む限り野菜を作っている人(農家の人)という感じがする。いまの時代、農家を生きるのはなかなか厳しい。農家の人間関係も、時代が変わったとはいえ、厳しいものがあるだろう。「人目につかないのが大切」ということばが、そういうことを暗示している。森は、人目を避け(家族の目をさけ)、夜中に自分のしたいことをしているのかもしれない。そして、それは評価されるとはかぎらない。いっそう「不評」を買うこともあるに違いない。
「きらわれる」という一言には、いろいろな思いが去来しているだろう。
しかし、きらわれることを「すなおに」受けいれる。この、「すなおに」がとてもいい。不思議な「深さ/強さ」をもっている。
「すなおに受けいれる」と決然として言ってしまうのではなく、「すなおに」といったあと、ちょっと間がある(一字あき、の間がある)。その「間」のなかで動いているこころを、わたしは思うのである。ほんとうは受け入れるべきではないかもしれない。しかし、ぐっとがまんして受け入れる。その「がまん」のようなものを「すなおに」と言い直す。
そこにある「矛盾」。
そこから森は一気になめくじに近づいていく。なめくじのなかに「したたかさ」を感じる。その瞬間の変化、その変化をささえる「すなおに」と、そのあとの「一字あき」でつかみとるというか、表現している。
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