「現代詩手帖」12月号(38)(思潮社、2022年12月1日発行)
唐作桂子「根も葉も」。どの詩にもあるのだろうけれど、この詩にも省略がある。あるいは欠落がある。その省略、欠落と、どう共振することができるか。中井久夫なら「チューニング・イン」ということばをつかうだろうなあ、と思いながら読んだ。
根も葉もなく
たっている
私は「うわさ」を省略、あるいは欠落したことばとして読んだ。「うわさ」は自分自身の力で生まれてくるのではないが、生まれてしまったら「自立」してしまうところがある。そして、それは「チューニング・イン」を要求してくる。あるいは、人間は、それを要求されてしまう。そのまま、無傷でいることは、なかなかむずかしい。
というようなことを書いたかどうか忘れたが、この詩は、私はとても好きである。ブログに感想を書いたことがあるので、興味のある人は探して読んでみてください。
北川透「岬にて」。北川の詩にも「省略」はあるかもしれない。しかし「欠落」はない。
なぜか 理由もなく
私たちは三つの形式を持っている
北の果ての海に臨んだ凍土という形式が一つだ
と、はじまる。「理由もなく」の「なく」は「欠落」を意味するかもしれない。しかし、「欠落」ではない。なぜかというと、かわりに「三つの形式」を持っているからである。言い直せば「理由もなく」の「ない」は「象徴/比喩」なのである。
「象徴/比喩」は、それだけでは「意味」を持たない。というか「不完全」であり、全体を表象することができない。だから、それは必ず繰り返される。つまり、言い直される。そうすることで「チューニング・イン」が強まっていく。徐々に細部が重なり、全体になり、「実在のもの」と「象徴/比喩」の区別がつかなくなる。
北川は、これをとてもていねいに書いていく。
どんな舞台もドラマも失われたが
わたしたちはなお岬を演じなければならない
これが第二の形式だ
岬は南の青い海に没しながら
なおリズミカルな点滅を繰り返している
最後の灯台を愛惜する岬という形式が三つ目だ
「三つの形式」と書き始めたら、ちゃんと「第一」「第二」「第三」と展開する。その過程で「ない」は「失われた」「没する」という具合に変化しながら「チューニング・イン」をつづける。「海に臨んだ凍土」は「岬」に、「岬」は「灯台」にという具合に描写の「対象」の大きさは、いわば「大、中、小」という感じで凝縮してゆき、その過程(リズミカルな点滅)のなかに「愛惜(する)」という感情を浮かび上がらせる。
「チューニング・イン」の最終的な到達点(?)は「感情」である。感情が「チューニング・イン」してしまう。
「欠落」も「省略」もない。
私は、この北川のことばの運動の「形式(スタイル)」を、なぜか、とても「自然」なものとして読んだ。読みながら、あ、私はこのスタイルの詩を読み続けてきたのだと気がついたと言った方がいいかもしれない。
若い人の詩は、北川の詩のように、読むことができない。しかし、これは、北川が完全に古典になってしまっているということを意味するかもしれない。私は若い人の書くことばの動き、ことばの変化についていけなくなっているだけなのかもしれない。
なんの疑問もなく、北川の詩は読みやすいなあ、気持ちがいいなあと思ってしまう私をみつけ、そこで少し(かなり?)、つまずいた。「なぜか、理由もなく」。
草間小鳥子「適切な距離を保って」。
問われた罪
問われなかった罪
これで手打ちだ、と本を閉じ
つじつま合わせの長い夜を越えた
「罪」を「形式(比喩/象徴)」と読み直せば、私の、北川の詩への態度になってしまうかもしれない。私はテキトウに「つじつま合わせ」を書いただけなのだろう。
草間は、先の四行を、こう言い直している。
やさしさに似た諦めが
ぎりぎりの肺を満たしている
結論は出せない
出せるものでもない
まあね。
私は、結論は常に壊していくためにあると考えている。書いたことを無効にするために書きつづけるとだけ書いておこう。しかし、それは
なにもないところから
ただ なにもないところへ
というような感じにはしたくないなあ。たしかに人間は必ず死んでしまうんだけれど。
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