中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(3)
「大いなる拒絶をなせし者……」は、自分の信条にしたがって、「拒絶」を貫いたひとのことを描いている。それは絶対的に正しかった。
しかし、この拒絶は下にひきおろし続ける、その者を、一生涯。
「ひきおろし続ける」。「ひきおろす」がつづくわけではない。ある高みから低いところまで「ひきおろし続ける」のではなく、低いところに「ひきおろし」たあと、そこに留めおくのである。だれがひきおろされたのか。その「者」を見る。いつまで、その低いところにいるのか。「一生涯」である。「続ける」は「続く」にかわって、「一生涯続く」へとつながっていく。
明確に書かれていない「続く」、それを隠した訳文が非常に強靱だ。これは「口語」ではなく、中井が持っている「文語」の強さと美しさである。
この語順でなければならない。「この拒絶はその者を一生涯、下にひきおろし続ける」では「続く」が入り込む余地がない。主役は「ひきおろす」だれかになってしまう。「悲劇」が消え、「恨み」が表に出てしまう。カタストロフィー(浄化)がないから、だれも、その悲劇に涙を流さない。
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