「現代詩手帖」12月号(26)(思潮社、2022年12月1日発行)
高田昭子「風の吹く日」。
初夏の風が渡る街の交差点で
信号が青に変わるのを待ちながら
遠い草原を思っている
人々の暮らしは
馬の背にまたがり
土埃をあげながら歩み続けてきた
来歴に来歴をつなぎ続け
その先には いつも
すこやかな赤児の産声が聴こえていた
「遠い草原」の「遠い」がどれくらい遠いのかわからない。「来歴に来歴をつなぎ続け」から想像するに「時間的に遠い」のだと思うのだが。しかし、私はどんなに「時間」をたどってみても、私の知っている「暮らし」のなかには「馬の背にまたがり/土埃をあげながら歩み続けてきた」人がいないので、高田の書いていることが理解できない。
この詩の最後は、「馬」ではなく「魂を運ぶ鳥」に変わるのだが、この「馬」と「鳥」の関係もわからない。最初から「鳥」で押し通せば、まだ、何かが伝わるかもしれないが。
高野尭「マルコロード」。
どこからかながれてくる、ヒヤッとした、どこからかきこえて、もやっとしたやまでもうみでもない、このへやでもないどこか、空でさえないそらから、どこからかながれ、よるべなく声にならず、
ことばを重ねると近づいていくのか、遠ざかっていくのか。遠ざかって行くにしろ、その「遠い」には何かが意識されているから「遠い」のだろう。つまり、「肉体」が遠ざかって行っても「意識」は近づいていく。そういうときの、ことばの動きを、読点「、」でつないでゆく。
これはもちろん「わざと」である。つまり、この「わざと」は、「わざわざ」をめざすのである。そのとき「空でさえないそら」というような「表記」は意味があるだろうか。私は、「意味」も「効果」もないと思う。
鍋島幹夫「帰りたい庭」。
子供たちの顔の上をすべっていく
草色の雲
この解像途中の あるいは 接続をやめた残像 みたいなものは
回線の向こう岸に見る 村々や校舎への 敵意のなごりだという人もいるが
それは違うと思います
「それは違うと思います」が、この詩のキーワードである。その特徴は「それは違うと思います」というときにも、相手(だれか)の主張をていねいに聞くことである。
「それは違うと思います」のあとに、鍋島が何と思っているかが、またていねいに語られるが、きっとその自分自身のことばに対しても、鍋島は「それは違うと思います」と言っている。
一回、彼自身の「正しいと思っていること」を語るのではなく、それを何度も言い直している。その果に、「思う」は「考えている」にかわり、最後は、こう締めくくられる。
ぼくの複製で埋めつくされる 庭の暗いわななき--
別のホームの庭から
夢精のめざめの履歴で
何度でも取り出す ことができる
「何度でも」。この「何度でも」の何か「遠い」と「近い」が同居している。固く結びついている。遠ざかったのか。「違うと思います」。近づいたのか。「違うと思います」。「何度でも」繰り返されるもの、繰り返してしまうもののなかに詩がある。
「わざと」繰り返すのではない。「わざわざ」繰り返すのでもない。「自然に(何度でも)」繰り返すのである。
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