斎藤茂吉『万葉秀歌』(4)(岩波書店、1980年、06月25日、第58刷発行)
香具山と耳梨山の会ひしとき立ちて見に来し印南国原 天智天皇
「立ちて見に来し」と呼びかけられたのは「阿菩大神」だと茂吉は書いている。しかし、そのことばは歌のなかにはない。だから、私は、私に対して「立ちて見に来し」と呼びかけられたような気持ちになり、ちょっとこころが浮き立つ。それは「香具山と耳梨山」がけんかしたとき(戦争したとき)という「神話」でしかありえない世界に立ち会うおもしろさに通じるし、「立ちて見に来し」という動詞の「立ちて」が、山が「立って」(立ち上がって)戦争をしたと錯覚させるのも、とてもおもしろい。
渡津海の豊旗雲に入日さし今夜の月夜清明けくこそ 天智天皇
声に出して読むと、とても読みやすい。茂吉は「入日さし」のあとに「小休止」があると書いている。なるほどなあ。茂吉は声に出して読んでいたんだなあ、と思う。実際に声に出さずとも、読むときに発声器官が動く。それをきちんと言語化できる。
私は同時に「今夜」と「月夜」の重なりがおもしろいと思う。意味的には「入日さし」(夕方、まだ明るい)「今夜」(暗い)「月夜」(月に焦点が当たっている、明るい)と明暗の変化がある。夜が暗いからこそ、月が明るい。この変化がおもしろい。その転換点というか「夜」の文字の重なりで強調される。(原文も「夜」を重ねているかどうか、私は知らない。)
それに、なんといっても。
まだ日が沈まないうちに、夕日の明るさがあるうちに、満月(?)の明るさを想像するというのは、ものすごいことだなあ、と思う。夕景色をながめながら、それを超えて「宇宙」が広がる。いや、「時間」が広がる。「超(メタ)時間」と言ってもいいかなあ。とても「現代人」には持つことのできない「絶対的」な時間感覚だなあ、とも思う。
「かっこいい」と思う。
「歌」がかっこいいのか、歌をつらぬく「時間感覚」がかっこいいのか。これは、聞いている人に意味を考えさせないくらいの「大声」で読んでみたい歌だなあ。聞いているひとは「今の声は大きかったなあ」とだけ感じてしまう。歌の意味は忘れる。そういう感じがいいだろうなあ。
**********************************************************************
★「詩はどこにあるか」オンライン講座★
メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、ネット会議でお伝えします。
★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
★ネット会議講座(skypeかgooglemeet使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。
費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。
お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com
また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571
*
オンデマンドで以下の本を発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com