詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

なぜ今、真珠湾慰霊?

2016-12-06 12:15:17 | 自民党憲法改正草案を読む
なぜ今、真珠湾慰霊?
               自民党憲法改正草案を読む/番外50(情報の読み方)

 安倍が真珠湾慰霊をすることになった。同時にオバマと「最後の首脳会談」もすることになった、と2016年12月06日の読売新聞(西部版・14版)は伝えている。3面に「裏話」が載っている。「裏話」というのは、こんな具合にすべてが決まってから出てくるのが常識。先日の「日露外相会談」で出てきた「安倍の方から、5月に経済協力(経済投資)の話が出た」というようなことは、極めて異例。途中で「裏話」が出てしまうと、交渉過程そのものが批判対象になる。いわゆる「静かな雰囲気」というものがなくなり、交渉に影響が出る。
 で、話を戻して……。
 この「真珠湾慰霊」の「裏話」が傑作である。読売新聞は「昨年から検討「広島訪問」が転機」という見出しで全体の流れをあらわしているが、とてもそんなふうには読めない。「昨年から検討」というのは、いつでも言える。「一昨年から」とでも「首相就任当時から」とでも。「証拠」がない。
 オバマが「広島訪問」をした。それがきっかけ、という部分を記事はどう書いているか。

真珠湾訪問に関して、首相は積極的ではないとみられてきた。今年5月のオバマ大統領による広島訪問の際は、米国務省が首相の真珠湾訪問を水面下で働きかけたが、日本側は断っていた。(略)
 潮目が変わったのは、オバマ氏が広島訪問に踏み切ったからだ。オバマ氏が米国内の慎重論を押し切って決断したことに対し、「首相は意気を感じ、真珠湾訪問の機が熟したと判断した」(政府関係者)という。

 変ではないだろうか。
(1)今年5月のオバマ大統領による広島訪問の際は、米国務省が首相の真珠湾訪問を水面下で働きかけたが、日本側は断っていた。
(2)オバマ氏が米国内の慎重論を押し切って決断したことに対し、「首相は意気を感じ、真珠湾訪問の機が熟したと判断した」
 この間の「時間」は? というよりも、「時系列」はどうなっている?
 オバマは広島訪問を決断した(意思)→広島を訪問した(行動)。人間の行動は「決断」が先行し、それを「実行」する。
 オバマが広島訪問をしたときは、安倍は安倍がオバマを広島に呼んだという具合に「宣伝」していたと思うが、そのこととも「矛盾」する。
 安倍がオバマに広島訪問を働きかけ、オバマが米国内の批判を押し切って広島訪問を決断し、実行したというのが、これまで語られている「時系列」。
 そうであるなら、オバマが広島訪問を決断した時点で、安倍はオバマに共感するのではないのか。ふつうの人間なら、そうする。共感し、「それでは(お返しに)私(安倍)は真珠湾を訪問する」と応じると思う。
 「機」は、そのとき「熟している」。半年もたてば「熟す」から「腐る」にかわる。
 書かれていることは「政府関係者」による「作り話」なのではないか、と私は疑ってしまう。
 「水面下」の交渉では、日本側(安倍側)は真珠湾訪問を断っている。オバマが広島訪問をしたあとも、即座には動いていない。5月から半年もたって、やっと動いている。こんな奇妙な、ある意味では失礼な「返礼」はないだろう。
 ほんとうの「裏話」は違うのでは、と思う。
 次のくだりがおもしろい。

 首相は11月20日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれたペルーの首都リマでオバマ米大統領に会い、真珠湾訪問の意向を直接伝えた。オバマ氏は「2国間関係にとって意義深い(略)」と応じた。首相にとって、オバマ氏の返答は「我が意を得たり」とでも言うべきものだった。

 安倍はペルーに行く前にトランプと会っている。アメリカに行きながらオバマとは会わずに、まだトランプと会った。これに対してオバマ側が「大統領に非礼である」と激怒した、とニュースでは言っている。安倍のトランプ訪問後、他の国の首脳がトランプに会うことができなくなった、とも。まだ大統領ではない人間を大統領よりも優先するとは何事か、ということだ。
 安倍はペルーで必死になってオバマのご機嫌とりをしたということだろう。
 しかし不思議だ。「我が意を得たり」(安倍がほんとうに言ったのかな?)というのなら、なぜ、即座に、少なくとも日本に帰って来てすぐに発表しないのか。訪問をするなら、12月7日(日本時間8日)の式典に合わせればいいのに、なぜずらすのか。オバマのハワイ休暇と日程を合わせるためと言うかもしれないが、日程が「正確」に特定できなくても、オバマもハワイ休暇にあわせて「年末に」くらいは発表できそうである。
 日程については、読売新聞はこう書いている。

 米国内では、現地時間の12月7日に行われる真珠湾攻撃から75年の追悼式典に安倍首相の出席を求める声が出ていた。しかし、米政府は、大統領も8月の原爆忌に出席したわけではなく、伊勢志摩サミットで訪日したのにあわせて広島訪問を実現したことから、別の方法を模索していた。

 私は違和感を覚える。オバマは確かに8月に広島慰霊をしたわけではない。しかし、それは「前倒し」。日本に5月に行く予定があったから、それに合わせて日程を調整した。わざわざ8月を避けて5月にしたわけではない。
 こういうことはふつうの人もするのではないだろうか。墓参り。お盆、お彼岸に行けない。でも先に帰省する機会があるので、それに合わせて「前倒し」。もちろん「あとで」というのもあるが、それは「事前」にあとでいくということがわかっているから。調整してまで「遅らせる」ということはしないだろう。法事などの日程も、たいていは「前倒し」。よほどのことがないかぎりは「後回し」にしない。急な場合でも「葬儀」にいけないから「通夜」にゆく。これも「前倒し」の感覚。わざわざ「あとまわし」にしない。
 「別な方法を模索した」のはアメリカ側ではないのではないか。したとしても、日本が「別の方法」を依頼したからではないのか。

 私は「妄想魔」だから、どんどん違うことを考える。
 直近の政治テーマは「日露首脳会談」である。「事前会談(根回し、調整対作業)」であるはずの「外相会談」は日露の対立を鮮明にした。ロシアは歯舞、択捉の返還には絶対に応じないということが明らかになった。「経済協力(共同経済化活動)」は安倍が持ちかけ、その見返りに北方領土の返還、平和条約締結を持ちかけたという「時系列」だけが見えてきた。日露首脳会談の「成果」は何もあげられないだろう。
 安倍は、焦っている。外交で何かの「得点」を稼ごうとしている。アピールしようとしている。そのためにオバマと真珠湾慰問を「利用」しようとしている。

 少し振り返ると。
 安倍・トランプ会談で「成果」があったか。トランプはTPPに反対している。ペルーの会議では、他国の首脳は、安倍がトランプを説得したかもしれないと期待しただろう。けれど、トランプはAPEC会議の直後に、改めて「TPPに反対」と語った。
 安倍・トランプによる「日米関係」というのは、単なる「顔見知り」で終わっている。これを何とかしなくてはならない。
 読売新聞の記事のつづき。

 米側は、首相のハワイ訪問を、オバマ政権下で確立された強固な日米同盟を世界に示す機会としても生かしたい考えだ。5日の声明では、「首脳会談は、安全保障や経済、グローバルな課題における緊密な協力を含む、日米同盟を強化するこの4年間の共通の努力を両首脳が振り返る機会になるだろう」と述べた。

 これでは、オバマの「花道」を飾るだけ。(アメリカ側、オバマ側の狙いはここにある。安倍はその機会を提供してくれるのだから、それこそ「我が意を得たり」だろうなあ。)安倍がオバマとどんな関係にあったとしても、それはトランプに引き継がれるかどうかわからない。安倍は引き継ぎたいと願っているかもしれないが、トランプは新しくやり始めたいと思っているだろう。そのために大統領になったのである。
 アメリカ側の「声明」は、安倍に泣きつかれて、最後だから聞いてやるかという感じがするなあ。4年間を「振り返る」だけなのだから。トランプが大統領に就任したら自分の首はどうなるのかなあ、とそっちの方を心配している米側の政府関係者が多いのではないだろうか。安倍・トランプのことなんか気にしていないだろう。




*

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監督 ルカ・グァダニーノ「胸騒ぎのシチリア」(★★)

2016-12-06 10:31:07 | 映画
監督 ルカ・グァダニーノ 出演 ティルダ・スウィントン、ダコタ・ジョンソン、レイフ・ファインズ、マティアス・スーナールツ

 特におもしろいわけではないが、見どころがふたつ。
 ひとつはティルダ・スウィントンの演技。声帯を痛めたロック歌手。台詞がほとんど内。「肉体」で演技する。「ことば」を聞くよりも説得力がある。「意味」ではなく「感情」の説得力。目の色の変化が激しい。視線の届いている距離(焦点がどこにあたっているか)、何を見ているかによって、輝き方が違う。
 レイフ・ファインズがティルダ・スウィントンを訪ねてくる。そのレイフを目当てに女が集まってくる。飲みながら歓談しているとき、女がレイフにじゃれつく。気に食わない。きっとにらみ、素足でテーブルの上のコップを落とす。足の動きでも怒りをあらわしているが、それ以上に目つきが厳しい。相手を突っぱねる。
 マティアス・スーナールツに抱かれているときは、自分自身を見ている。自分の官能を見ている。視線は外へ出ていかない。
 マティアスがダコタ・ジョンソンとセックスしたのではないかと疑うときは、マティアスの内部に視線が入っていく。脇腹の傷を見ながら、傷の「過去」を探る。足でコップを落としたときとは違う鋭さがある。鋭い何かがマティアスを傷つけるだけではなく、ティルダ自身をも傷つける。そういうことを自覚した、苦しい視線。
 さらにおもしろいのが、マティアスがレイフを殺したとわかったあと。何もかもわかっていて、犯行を難民に押しつける。犯人は特定されないが、マティスは容疑者ではなくなる。その過程での、「嘘」を捏造する、「嘘」を発見するまでの、非常に緊張感に満ちた目。
 そして、追いかけてきたパトカー(警官)が「嘘」に気付いたからではなく、ティルダのサインが欲しかったとわかったあとの、安堵の目。
 ティルダの顔には贅肉がない。余裕がない。目の変化が顔全体に拡がり、顔そのものを別人にしてしまう。この七変化を見るのは、なんともいえない興奮である。特にレイフが殺されたあと、誰が犯人かわかり、わかった上で「嘘」をつく。その過程の動きにぐいぐい引きつけられる。
 何も語らない。「ことば」がない。「ことば」にしなかったことを「目」(顔)が語りつづける。サスペンスが凝縮する。
 こういう演技はイングリット・バーグマンのような美人ではないとできないと私は思っていた。美人が苦悩する顔というのはとてもセクシーである。かわいそう。でも、同時に、もっと苦しめ、もっと苦しめ。苦しむ顔が見たい、という欲情をそそる。
 ティルダ・スウィントンは私の基準ではブス。ぎすぎすしていて、ひきつけられない。それなのに、いやあ、みとれてしまった。
 もうひとつは、レイフ・ファインズの演技。ティルダ・スウィントンとは対照的にノーテンキ。体の中にあるものが、体のすみずみにまで広がって、さらにその外へまで広がっていく。女にモテル秘訣だね。それが一番よく出ているのが、ローリング・ストーンズ(だったかな?)の曲に合わせてダンスするシーン。ドラムの音が気に入らずに、ドラムのかわりにゴミバケツをつかっている、というような「裏話」をしながら、音楽そのもののなかに入っていく。音楽がレイフの体から弾き出てくる。上手いダンスではないと思うが、あ、こんなふうに踊ってみたいと誘われる。肉体が刺戟される。
 ティルダ・スウィントンの目の変化は見たくない。見たくないけれど、見ると目が離せなくなる。映画ではなく「現実」なら「恐怖」である。
 レイフ・ファインズのダンスは見たい。映画ではなく「現実」なら、ダンスを見る余裕などなく、私のからだがかってに踊りだすだろう。レイフ・ファインズのダンスのように、でたらめに、この音がうれしいといいながら。
                      (KBCシネマ2、2016年11月27日)


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