詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

「生前退位」の行方

2016-12-23 12:12:58 | 自民党憲法改正草案を読む
「生前退位」の行方
               自民党憲法改正草案を読む/番外58(情報の読み方)

 2016年12月23日読売新聞朝刊(西部版・14版)に御厨貴のインタビュー(前紹介)が載っている。天皇の「生前退位有識者会議」の座長代理である。見出しは、

特例法で実質制度化/「退位」有識者会議 御厨氏が見解

 見出しに相当する記事部分には、こう書いてある。

御厨氏は(略)皇室典範を改正して退位を高級制度化するのは困難との認識を示したうえで、「いったん特例法で退位が実現すれば、同じような事態が起きても特例法で対応することになる。自動的に先例化する」と語った。特例法であっても退位は事実上制度化するとの見解を示したものだ。

 これでは「特例法」が憲法や皇室典範より上位にならないか。また先に「一代限り」と言っていたことと矛盾しないか。
 制度をつくるのではなく「実質」制度化を目指す。これでは、「特例法」をつくったひとの思いのままである。
 「同じような事態」と御厨は「あいまい」に言っている。
 「同じような事態」とはどういうことか。天皇が高齢化し、退位の意向をビデオをとおして表明したときか。
 私は今回の「生前退位」騒動は、安倍が天皇を退位させるために仕組んだものだと見ている。安倍は天皇と国民の接触(国民が天皇に寄せる信頼)が気に食わない。憲法改正の動きの障害になると見ている。何としても「退位」させたい。「信頼」を集めない「地位(肩書)」にしてしまいたい、と安倍は思っている。
 安倍が「特例法」を狙っているのは、恒久的な制度ができれば、安倍が口をはさむ余地がなくなる。次の天皇がどう動くか、確定していない。天皇の動きを見ながら「特例法」を適用する。新たに「特例法」をつくる。そうして、自分に都合のいい天皇を誕生させる。その「方便」につかわれてしまう。
 さらに4妄想」すれば、いまの皇太子には男子のこどもがいない。皇太子が天皇になれば「新皇太子」はいなくなる。皇位継承をスムーズにするために、秋篠宮をはやく天皇にしてしまえ、ということも起きる。そのときの「新皇太子」が年齢的に天皇にふさわしくないなら、「摂政」を設置すればいい、という具合に……。安倍は、安倍が簡単に「あやつることができる」天皇(摂政/システム)を誕生させようとしている。

「いったん特例法で退位が実現すれば、同じような事態が起きても特例法で対応することになる。自動的に先例化する」

 これはさまざまに読み替えることができる。

天皇の存在が気に食わないという理由で、いったん政権が圧力をかけて天皇を退位させるということが実現すれば、同じような事態(天皇が気に食わない)が起きても政権は特例法で対応することになる(圧力をかけて退位させることになる)。だれを天皇をするかということは、政権の恣意的な判断にゆだねられる。政権が好き放題にできる。自動的に先例化する。

 私は、どうしても、そう読んでしまう。安倍の「本音」丸出しである。
 ほんとうに「自動的に先例化」することを目的とするなら、憲法改正、皇室典範改正が最善だろう。「法が定めるままに自動的に」が最善である。「自動的」というのは恣意的な操作が入らない制度のこと。それを目指さないのは、「恣意的操作」をもぐりこませようとする意図があるからである。

 天皇誕生日なので、同じ紙面に

天皇陛下、議論「深く感謝」きょう83歳

 という見出しで、天皇のことが書いてある。そこに、以下の注目すべき一文がある。8月の「お言葉」を巡って、こう書いている。

お言葉が退位規定がない現行の皇室制度の改正につながり、憲法が禁じた政治的関与にあたるのではないかという議論もあるが、「内閣とも相談しながら表明しました」と、憲法上の立場に配慮した点を強調された。

 「内閣と相談しながら」というのは、天皇の「お言葉」の文言は天皇が独断で決めていないということである。外交の「共同声明」のように天皇側と内閣(安倍)側が、このことばの「定義」はどうなるか、ということを突き合わせながら「妥協点」として具体化したものであるということを示している。
 その結果、表現にとても不自然なところがあった。
 これは何度も書いたが「思われます」というような形で言語化されていた。(「天皇の高齢化に伴う対処の仕方が、国事行為や、その象徴としての行為を限りなく縮小していくことには、無理があろうと思われます」という具合につかわれている。)「思います」ではなく「思われます」。そのとき誰が「思う」のか。天皇は、自分で「思う」ときは「思います」と書いている。「縮小すればいいじゃないか」と「思う」ひとがいて、それに対する反論として、それは「無理があろうと思われます」と言っているのである。天皇が「思います」とは直接言っていないのだ。
 83歳の「会見」全文には「思われます」という主語をぼかした妙な表現はない。
 「うれしく感じました」「うれしく思っています」「心を打たれました」「感謝しています」と、すっきりした言い方をしている。主語が天皇であることが、すぐにわかる。
 「思われました」にいくらか似ている表現は、フィリピンを訪問したときの感想のなかにあるにはある。

当時のマカパガル大統領が笑顔で迎えてくださったことが、懐かしく思い出されました。

 「思い出しました」ではないのは、ガマパガル大統領夫妻への「敬意」が自然とにじみ出てきたためにそうなったのだろう。ガマパガル大統領夫妻を「主役(意識上の主語)」にして、彼らが天皇に働きかけている(思い出させている)のである。
 こういう「尊敬する対象」を「主役」にして、天皇自身が「脇」へ引いて「敬意」をあらわすということばづかいは、昨年の天皇誕生日の会見全文のなかにもある。ノーベル賞受賞者に触れた部分。

11年前、スーパーカミオカンデを訪問したことが思い起こされました。

 科学研究の地道な努力に対する「敬意」が自然に「思い起こす」という働きかけを天皇にしたのである。
 「思い起こされる」「思われる」というとき、そこには天皇以外の「ひと」や「事実」がある。

 「高齢化」の問題に対しては、即位二十年の次のことばを思い起こす必要がある。(現在とは年齢が違うが、考え方の基本として抑えておく必要がある。)天皇は、「高齢化・少子化」問題に触れて、こう言っている。

高齢化が常に「問題」としてのみ取り扱われることは少し残念に思います。本来日本では還暦、古希など、その年ごとにこれを祝い、(略)90歳、 100歳と生きていらした方々を皆して寿ぐ気持ちも失いたくないと思います。

 高齢者を「祝う」という気持ちの大切さ。天皇は、それをことばにしていた。
 ここから逆に、今の政権は少しも天皇の「高齢化」を祝っていないではないか、といういらだち、悲鳴が聞こえる。天皇は直接ことばにしていないけれど、私には、そう聞こえる。

 (私は「天皇制」を支持しない。出生がその人の「権能/価値」を決定するというのは民主主義に反している。廃止すべきである、と思っている。私がなぜ天皇のことばから怒りや悲鳴を感じるかといえば、天皇だけへの攻撃ではなく、憲法、民主主義への攻撃と感じるからである。安倍・麻生が組んではじめた「知らせずに実行する/隠したまま実行する」という作戦があらゆるところで進んでいる。7月の参院選、籾井NHKを使った報道しない作戦は自民党に大賞をもたらした。その直後に表面化した天皇の生前退位問題も、「知らせず実行する作戦」のひとつ。「静かな環境」と安倍は何度か言っているが「静かな」とは「議論しない」という作戦である。
 民主主義の否定である。
 安倍は天皇を退かせたがっている。安倍が押しつけた退位ではないと偽装するために、籾井NHKを使ってスクープというかたちで問題を表面化させ、「有識者会議」という組織を利用している。安倍の結論ではない、「有識者会議」の結論であると装っている。今回の御厨の発言は、安倍の意図を隠そうとしなければならないはずなのに、とんとん拍子に進んでいるために、思わず「漏らしてしまった」ということかもしれない。)


詩人が読み解く自民党憲法案の大事なポイント 日本国憲法/自民党憲法改正案 全文掲載
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千人のオフィーリア(メモ28)

2016-12-23 00:55:02 | オフィーリア2016
千人のオフィーリア(メモ28)

自称オフィーリアは早く来すぎた。
独断的告白をしたいのに噂好きの聴衆はおろか
くそったれハムレットもいない。
               こういうとき、
日に焼かれていく花の色が何を意味するか
わからないものは誰もいない
くそったれ、
      純潔ばかり心配するくそ親父のせいだ。

教会の鐘の音はひとつ、ふたつ、みっつ、いつつ、ななつ、じゅうさん、
それぞれが違う音程で自称オフィーリアの希望を無視して答えた
--全部、無効だ。
  高貴が悲劇の始まりだ。
自称オフィーリアの耳には、まるで教科書に書かれた絶対定理に聞こえた。
スカートの下の腿の白さを赤い血が流れ、
尖塔の影は歩道を二分割して伸びていく。
自称オフィーリアは葉の裏側の細かいささくれを堅くして枯れていく
春の花、夏の花、

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