詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

天皇のことばへの弾圧

2016-12-27 13:01:37 | 自民党憲法改正草案を読む
天皇のことばへの弾圧
               自民党憲法改正草案を読む/番外58(情報の読み方)

 2016年12月27日読売新聞朝刊(西部版・14版)の2社面に、次の見出し。

天皇陛下/新年の感想取りやめ/来年から 負担軽減の一環

 「負担軽減」については、「生前退位」の報道の頃からしきりに登場することばである。宮内庁の西村泰次長彦の記者会見のことばが引用されている。

「年末年始に行事が続くなか、お言葉をいくつも作成することは大きな負担だ。陛下の了解をいただいたうえで、新年の感想を見直した」

 ここで疑問。
 年末年始の行事というのは、具体的には何か。年末の「行事」としては「天皇誕生日」がある。これは、すでに過ぎた。「お言葉」は質問に答えるという形で発表された。
 年始は「新年にあたっての感想」と「新年一般参賀」が国民にわかりやすい行事である。ほかに何があるか、私は知らない。
 いくつかある「行事」のなかで「新年にあたっての感想」はどれくらいの重要性を持っているのか。その位置づけが読売新聞の記事ではよくわからない。
 私は「一般参賀」よりも「新年にあたっての感想」の方が重要だと思う。「お言葉」は文字として「記録」に残る。一般参賀は「ことば/文字」の「記録」を伴わない。どんなときでも、ある「事実」をどうことばで残すかということが大切。
 天皇の「お言葉」は、抹殺されようとしている。
 西村の発言で非常に気になるのは、

陛下の了解をいただいたうえで、

 という表現である。
 天皇が「新年の感想をまとめることが負担になったから、やめたい」と言ったのではない。自発的に天皇が行動を起こしたのではない。「やめたらどうですか」と天皇に働きかけ、「了解」を取り付けたのである。いや、むりやり「了解させた」。
 これは籾井NHKが「生前退位」の意向をスクープし、その後「象徴としてのつとめ」について天皇がビデオで発言した経緯に似ている。天皇が自発的に「お言葉」を言ったのではなく、籾井NHKがつくりだした「状況」のなかで強いられた発言である。
 2016年12月24日の毎日新聞(西部版・14版)は「生前退位」を巡る意向の「公表」について

宮内庁/昨秋官邸に退位意向/公表見送り「政権の事情」

 という見出しで、8月の「生前退位意向公表」の経緯をスクープしている。それによると、

 天皇陛下の退位の意向について風岡典之・宮内庁長官(当時)が2015年秋、官邸に対して正式に伝えていたことが明らかになった。陛下のおことば原案を文書で示し、同年12月の天皇誕生日に合わせた記者会見での公表を打診したが、官邸との調整がつかず、公表が見送られた。

 補足して、こう書かれている。

 15年12月の公表が実現しなかった理由について宮内庁側は「受け入れ側の態勢だ」として官邸側の事情を説明する。政権が16年夏の衆参同日選を検討していたことが背景にあると見られる。

 「生前退位」の問題が国民の話題になると、16年夏の衆参同日選がやりにくくなる。みんなが「争点」として注目する。選挙に関心が向けられると、投票率が高くなる。自民党に不利になる。だから、公表「させない」。(籾井NHKはこの「不利」を回避するために、夏の参院選では選挙報道を避ける、知らせない作戦を実行し、自民党の勝利を後押しした。)
 そして参院選で大勝すると、その直後に、今度は籾井NHKを利用して、「天皇生前退位の意向」というニュースを流す。選挙に影響しないから、天皇を引っぱりだした。
 それも「口封じ」のために、である。「生前退位」を強要するために、である。
 天皇は政治に関与することができない。しかし、政権(安倍)は天皇を利用している。天皇の発言をあるときは強制し、あるときは封じるという操作を行っている。
 今回の「新年の感想」の中止も、安倍の圧力だろう。発言させたくないのである。

 2016年12月27日読売新聞の記事にもどる。「お言葉 準備に長い時間」という「解説」がある。とてもおもしろい。

 天皇陛下が元日に発表される感想の取りやめは2015年も検討されたが、戦後70年の節目で「陛下のお言葉は必要だ」という声もあり、見送られた。
 同年の元日、陛下が発表された「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、いま、極めて大切なこと」という感想の一節は反響を呼んだ。

 私はいつも「時系列」を疑う。
 天皇は、新年の感想を発表するか、しないかを「検討」したあとで、感想をまとめ始めたのか。
 逆なのではないのか。
 「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、いま、極めて大切なこと」という一文があったために、これを新年のことばとして発表していいかどうか、宮内庁と官邸(安倍)の側でやりとり(交渉)があったのではないのか。
 官邸(安倍)が「削除しろ」と言った。しかし「戦後70年の節目なのに、戦争に触れないわけにはいかない」と天皇(宮内庁)が主張した。安倍はさらに「削除できないなら、新年の感想そのものをやめろ」と反論した。しかし、「中止」を発表するには時間が押し迫っていてできなかった、ということだろう。今回は、まだ間に合うと安倍が判断した。「生前退位」が国民の話題になり、「負担軽減」ということばも広まった。国民を納得させる「理由」がある、というわけだ。
 解説には、次の文章もある。

 実践に裏打ちされた陛下のお言葉は年々、重みを増している。だが、準備には大変な労力を伴う。事実関係を確認し、憲法上の立場に配慮し、語句を選びながら文章を構成する作業は、ここ数年、長い時間を要するようになっている。

 「事実関係を確認し、憲法上の立場に配慮し、語句を選びながら文章を構成する」には、多くのことばが省略されている。
 どうやって事実関係を確認するのか。天皇がひとりで資料を読み、確認するのか。
 憲法上の立場に配慮するとき、天皇はやはりひとりで配慮するのか。あるいは官邸側の「助言」を仰ぐのか。
 「語句を選ぶ」とき、天皇は天皇だけで「選ぶ」のか。あるいはその選択に官邸が関与するのか。
 私は、天皇のことばは「事前検閲」を受けていると思う。そこに「政治的発言」がないか、官邸が「事前検閲」しているはずである。何のチェックもせずに天皇のことばを公表すれば、内閣は天皇に「助言する」という義務を放棄したことになる。
 文章の作成に「長い時間」が必要になったのは、天皇だけの問題ではない。天皇のことばに対して安倍が苦情を言い、その調整に時間がかかるようになったということだ。
 天皇のことばは記録として残る。いわば「歴史文書」だ。何を言うか、その文言をどうするか、は簡単には決められない。「外交文章」のように、どの立場から、どういう解釈ができるか、ということろまで検討されているはずである。

 今回も、すでに「新年の感想」は出来上がっているだろう。少なくとも「原案」は書かれているはずである。いまから書き始めるということは、私には考えられない。いまから書き始めるのでは時間的に余裕がないから、精神的・肉体的負担が大きいから中止するというのではないだろう。
 書かれている「原案」を見て、安倍が「だめ」と言ったのである。
 その「だめ」だしされた文言をどう調整するか。その「時間」がなくなったのである。安倍は真珠湾慰霊に出発し、日本にいないということも関係しているかもしれない。文言の調整は必ずしも日本にいないとできないことではないが、安倍はハワイでオバマにあったりしないといけないので、時間的な余裕がない、ということだろう。天皇ではなく、安倍に時間がないのである。ここでも「政権の都合」が優先されている。あるいは、「時間的余裕」をなくすために安倍は真珠湾慰霊を利用しているのかもしれない。
 天皇はフィリピン慰霊など戦後と正直に向き合っている。そうやって諸外国の、そして日本国民の「信頼」をつかんでいる。安倍は、そういうことは天皇ではなく、自分でもできる、と「実践」してみせようとしているかもしれない。
 2016年12月27日読売新聞の一面には安倍が真珠湾慰霊に出発したと書かれている。出発前に、安倍は記者団に、こう語っている。

「日本国民を代表し、慰霊のためにハワイ真珠湾を訪問する。戦争の惨禍は二度と繰り返してはならないという未来への誓い、そして和解の価値をオバマ大統領とともに世界に発信したい」

 天皇には「戦争」に関する発言や慰霊の行為をさせないぞ、という「決意」とも読むことができる。
 天皇を国民(世界)から見えないところにおいやり、都合に合わせて利用する。そういうことが着々と進められている。

 しかし、読売新聞のこの記事の扱いは疑問が残る。他のメディアがどう報じているか、私は知らないのだが、天皇が「発言をやめる」というのは大ニュースである。安倍の真珠湾慰霊を上回る「歴史的ニュース」である。
 「起きる」こともニュースだが、「なくなる」こともニュースである。先にも書いたがてんのうのことばは「歴史的文書」である。「歴史」が記録されなくなるのである。私たちは「歴史」を失うのである。
 一面のトップニュースでないことが、私には信じられない。安倍の「天皇の口封じ作戦」(歴史の抹殺/修正主義)にメディアが加担していることになる。

(追加)

天皇のことばへの弾圧(2)
               自民党憲法改正草案を読む/番外58(情報の読み方)

 天皇が「新年の感想」を取りやめるということに関する感想のつづき。
 朝日新聞、毎日新聞(ともに西部版・14版)と西日本新聞はどう報道しているか。

朝日新聞(第3社会面、2段)
「新年のご感想」取りやめ/宮内庁 天皇陛下の年齢考慮

毎日新聞(第3社会面、2段)
「年頭所感」取りやめ/天皇陛下 高齢、負担軽減目的

西日本新聞(第3社会面、1段半見当=横組み)
陛下の新年感想取りやめ

 読売新聞が一番丁寧に報道していたことがわかった。
 どうしてこんなに扱いが小さいのだろうか。天皇の「ことば」の意味を軽く見ているのか、背後にある問題点を「高齢、負担軽減」とだけだとみているのか。なぜ、いま発表されたのか、疑問を感じないのだろうか。

 こんなに簡単に「新年の感想」を中止できるのはなぜか。憲法は「天皇の所感」を「国事行為」と定義していない。「公務」になるのか、あるいは「私的行為」になるのか。たぶん、安倍は「私的行為」にしてしまいたいのである。天皇がかってに述べる「感想」である。
 「新年の感想」が「私的行為」と定義されてしまえば、これまでの発言もすべて「私的行為/私的発言」と定義しなおされることになる。
 先に発表された、

「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、いま、極めて大切なこと」

 ということばも、単に天皇の「私的発言」。安倍の見解とは違っていても問題はない。いや、安倍の見解と違うから、それを「正式発言」と認定するわけにはいかない、という具合に「過去のことば」が読み直されていくことになる。
 安倍の真珠湾慰霊、たぶん発表される安倍のことばが、これからの日本の「歴史観」の基本になる、ということなのかもしれない。
 あす、安倍が何を言うのか、ということも関連付けてとらえなおす必要もあるだろう。

 
詩人が読み解く自民党憲法案の大事なポイント 日本国憲法/自民党憲法改正案 全文掲載
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今井好子「白いちじく」

2016-12-27 11:25:44 | 詩(雑誌・同人誌)
今井好子「白いちじく」(「お休みの時間」、2016年11月発行)

 今井好子「白いちじく」は、「こちらの方が甘いよ」と勧められた白いいちじくを食べるときの詩。

小ぶりの黄緑色のそれは
成熟途中にしか思えない

あえぎの口から芳香が漏れる傍らで
少女の乳房は頑なに慎ましく
沈黙をきめている

 今井は少女だった時代を思い出しているのだろうか。
 「傍らで」ということばをこういうときにつかうのかどうか、私にはわからない。「傍ら」と言っても離れているわけではない。ひとつのいちじくの描写である。「ひとつ」なのに「傍ら」と書くことで「距離」をつくりだしている。
 このために「少女を思い出す」という感じが強くなる。いま現在の「肉体」が、ここにある。その「傍らに」少女だった時代の「肉体」がある。乳房はどう反応していいかわからず「沈黙」している。
 「芳香の漏れる口」、何も漏らさず「沈黙」を守る「乳房」。その「守る」を「頑なに」「慎ましく」という。

ぺしりと軸を折り一気に皮をむく
飛び散る濃厚な香り
真っ赤な無数の花 咲かない花
白い乳がこぼれてくる
乱暴にしてはいけない
優しく掌で受け止めて
乳の伝う手で次の皮をむいていく

 今井はいちじくの皮をむきながらいちじくになっている。「一気に」が若くていいなあ。いちじくになることが少女の今井を思い出す方法なのだ。
 次の連で「思い出す」という動詞は「記憶」ということばになる。

光の記憶を蓄え
甘美な喜びを内包していた
無口な果実
あらわになった白い
しなやかな体躯を
ほとぼりのさめた風が
渡っていく

 単なる「記憶」ではなく「光の記憶」。直接的にはいちじくが光を浴びて熟成している(そのいちじくの中にある太陽の恵み)をあらわしている。間接的には今井の少女時代の記憶を語っているだろう。光に満ちて輝いていた少女。「甘美な喜びを内包していた」のは「肉体」か「こころ」か。区別などできない。いちじくと少女の今井を区別できないのと同じである。
 比喩は区別できない存在になるときが美しい。
 「ほとぼりのさめた風」は、記憶から、現在の時間にもどってきたということだろう。もどってこないで、少女の「肉体/こころ」のままで生きるのが詩だと私は思うが。もどってくるのは「抒情詩」にしたいからかもしれない。

 ところで。
 いちじくって、皮をむいて食べるもの? 私はあるとき、桃の皮をむいて食べるという詩を読みびっくりしたことがある。梨と柿は皮をむくことが多いが、リンゴはむかない。いちじくはむいたことがない。

佐藤君に会った日は
今井 好子
ミッドナイト・プレス
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