詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

谷川俊太郎「詩の鳥」

2018-01-04 10:28:31 | 詩(雑誌・同人誌)
谷川俊太郎「詩の鳥」(「現代詩手帖」1月号)

 谷川俊太郎「詩の鳥」。不機嫌なのかなあ。

詩でも書くしかない新年だ
言葉は紙上の市場で
天使のいない雲の中で
あれやこれやの大繁盛だが
コケ嚇しに空威張り
でなきゃ泣き言ホラ話
思想観念主義主張
言葉の掃き溜め悪臭紛々
だが待った!
そこに降り立つ〈詩の鳥〉一羽
火の鳥ほどのパワーはないが
生まれは宇宙育ちは地球
言葉の出自がいささか違う
アジプロを拒み抒情に流れず
魂の奥の奥から生まれる言葉を
おずおずと差し出す優雅……
と言いたいのは山々だが
詩の鳥の群れは言葉の森で
鳴かず飛ばずの毎日らしい
一羽でも詩の鳥を見つけたら
あなた どうする?

 「詩でも書くしかない新年だ」と書いているが、発表が「新年」(実際は年末、新年は雑誌の名目)であって、それに間に合わせるために「旧年」のうちに書かれたもの。
 「書く」というよりも「読む」方に重点が移動している。
 ここが、読み落としてはいけないポイントだと思う。
 「書く」ではなく「読む」に重点が移動しているのは、つづく行を読めばあきらかになる。
 「言葉は……」から「……悪臭紛々」までは、流通している「詩」を読んだ谷川の感想である。
 そういう「詩」しかないから、自分で「詩でも書くしかない」と言っているのだろう。「だが待った!」という行をはさみ、ここから「書く」に移動していく。「詩でも書くしかない」と書いているときの「詩」の定義のようなものが展開される。

生まれは宇宙育ちは地球

 というのは、谷川の詩そのものを思わせる。「詩の鳥」とは谷川自身のことになる。だからこそ、それが「書く」という動詞といっしょに動くことになる。「言葉の出自がいささか違う」というのは自負だろう。
 で、そのあと、最後の四行はどうだろう。

詩の鳥の群れは言葉の森で
鳴かず飛ばずの毎日らしい

 これは谷川の「自画像」? 読者からは、そうみられているかもしれないなあ、という不安?
 では、

一羽でも詩の鳥を見つけたら
あなた どうする?

 うーん、これは「詩の鳥」をあなたは見つけられるかと問いかけられている気がする。「詩の鳥」を見つけたら、ひとは「どうする?」と問われるまでもなく、感動する。感動して、そのあと何をするかはわからない。でも、まず感動するということが起きるはずである。そのあと何をするかわからないというのは、感動とは自分が自分でなくなることだからである。そのあと何をするかまでは、だれもわからない。
 それが詩。
 だから、ここでは「どうする?」と問われているのではなく、「見つけられるか」と問われているのである。
 谷川は「詩を書く」。年が改まっても(新年になっても)、それしかできない、と宣言している。そのうえで、谷川の詩が大繁盛の詩とはどこが違うのか、その違いを「見つけられるか」「見分けられるか」と問いかけている。この問いは、一般の読者ではなく、「詩を書く読者」に向けての厳しい問いかけである。

 うーむ。どう答えよう。
 私は、私の書いてきたことが、私の「見つけた」ものであると答えるしかない。
 (1)一行目の「書く」という動詞は、「読む」という動詞(体験)を踏まえたことばであり、「書く」と書きながら意識を「読む」に転換する「書き方」に詩を見つけた。
 (2)最後の「見つけたら」「どうする?」という問いは、「見つけられるか」ということを間接的に言いなおしたものである。その「言い直し」の「間接性」に詩を見つけた。この「間接性」は、「コケ嚇しに空威張り」というような直接的な(露骨な?)批判のことばの裏返しの「態度」である。
 (3)この詩の中では、「書くと読む」、「直接性と間接性」が入れ替わるように動いている。「見つけたら」「どうする?」という間接的な問いは、「見つけられるか」という直接的な批判でもある。
 とても入り組んでいる。その「入り組み方」に私は、谷川の「不機嫌」を感じた。
 「旧年」に書かれたこの詩はこの詩として、私は「新年」になってから書いた谷川の詩を読みたい。

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目次
カニエ・ナハ『IC』2   たなかあきみつ『アンフォルム群』11
林和清『去年マリエンバートで』15   夏目美知子「雨についての思索を一篇」18
北川透「「佃渡しで」を読む」21   野木京子「小石の指」31
疋田龍乃介「ひと息に赤い町を吸い込んで」34   藤本哲明『ディオニソスの居場所』37
マーサ・ナカムラ『狸の匣』40   星野元一『ふろしき讃歌』46
暁方ミセイ『魔法の丘』53   狩野永徳「檜図屏風」と長谷川等伯「松林図屏風」58
暁方ミセイ『魔法の丘』(2)63   新井豊吉『掴みそこねた魂』69
松本秀文『「猫」と云うトンネル』74   松本秀文『「猫」と云うトンネル』78
山下晴代『Pale Fire(青白い炎)』83   吉田正代『る』87
福間明子『雨はランダムに降る』91   清川あさみ+最果タヒ『千年後の百人一首』95
川上明日夫『白骨草』107



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