詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

エリック・ポッペ監督「ヒトラーに屈しなかった国王」(★★★)

2018-01-14 21:34:00 | 映画
監督 エリック・ポッペ イェスパー・クリステンセン、アンドレス・バースモ・クリスティアンセン 

 ナチスが「中立国」ノルウェーに侵攻する。降伏を迫る。それに対して当時の国王がどう向き合い、どう判断したか。その三日間を描いている。
 結果的にいうと、国王は降伏を拒む。その結果、ナチスはさらに侵攻し、最終的には国王はイギリスに亡命、ノルウェーは降伏する。解放は第二次大戦の終結を待たなければならなかった。見方によっては、国王の決断がノルウェーの戦争被害を拡大したといえるかもしれない。戦力的に圧倒的に劣り、勝てる見込みがないのだから。
 でも、その国王の判断は国民から支持された。戦後、亡命先のイギリスから帰国し、再び王の位に就いたし、皇太子もそのあとを継いだ。いまは孫が王になっている。
 何が支持されたのか。なぜ、国王が慕われたのかが、この映画のポイントだ。
 王であるけれど、民主主義を貫いた、ということにつきる。自分は国民に選ばれた王である。国民が自分を支持してくれているのだからヒトラーの要求にしたがうわけにはいかない。その主張はまた、民主主義そのものへの「信頼」を語ることでもある。この民主主義について語る部分は、非常にすばらしい。力がみなぎっている。いま世界各地で極右勢力が台頭しつつあるが、それに対する「抵抗」がこのシーンにはこめられているかもしれない。
 ということを書き始めると、あまりおもしろくなくなるなあ。「意味/意義」は「意味/意義」として、わきにおいておいて。

 登場人物の「人間」の描き方が、なかなかおもしろい。国王は「腰痛」を抱えている。だから腰を折って、膝を抱えるような姿勢で痛みをこらえる。そういう不格好な姿も丁寧に描いている。人が来ればきちんとした姿勢をとるために苦労する姿も描いている。毅然とした態度しか人には見せないが、その毅然の背後に誰にでも起こりうる苦痛を抱えている。「精神」ではなく、「肉体」として、それを描いている。空爆から森へ逃げるときの右往左往も、ひとりの人間として描いている。最初は国王を守ろうとしている人がすぐそばにいるが、だんだんばらばらになる。森にたどりついたころには、国王のまわりには側近はいない。ひとは誰でも、それぞれが自分のいのちを守る。そういうことが「自然」に描かれている。
 逃げ込んだ森の中のシーンでは、幼い子供が木の影でうずくまっているのを見つけ、助けようとする(力づけようとする)エピソードがとてもいい。王は子供をかばう。空爆の合間に、母親が子供の名前を呼びながら子供を探している。母親の声を聞くと、子供は王の手を振りほどき、母親の方へかけだす。親子がしっかり抱きしめあう。それを王は、じっと見ている。家族がいっしょに生きているその「幸福」をあらためて実感している。王であることを忘れて、あるいは王であることを思い出して、かもしれない。王である、王でない、という区別がなくなり、「人間」として迫ってくる。国王は国王であるがゆえに、家族がいっしょにいられない。その決断をしたばかりなので、その親子の姿が胸に響くのだが、このシーンはなかなかおもしろい。
 一方で、ドイツ側の外交官の苦悩も丁寧に描いている。彼にも家族がある。妻がいて、子供がいる。家族を守りたい、家族といっしょにいたい。その気持ちが、ナチスによって邪魔される。仕事と家族との間で、苦悩し、苦悩を抱えたまま国王との交渉に当たる。このあたりの、なんというか、サラリーマンっぽい揺らぎが、気弱で、貧弱な(?)人相と相まって、簡単に拒絶できない。ドイツ人(悪)だから、どうなってもいいという感じにはならない。こういうドイツ人の描き方には、ノルウェー人の「度量」の大きさのようなものを感じた。
 生きているのは、いつでも「ひとりの人間」という視点が、映画全体を支えている。それがあって、国王の「民主主義」への信頼のスピーチが強く響く。
(KBCシネマ1、2018年1月14日)



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カヴァフィス全集を読む

2018-01-14 19:38:42 | 詩集



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天皇報道の変化

2018-01-14 00:21:33 | 自民党憲法改正草案を読む
天皇報道の変化
             自民党憲法改正草案を読む/番外166(情報の読み方)

 2018年1月13日読売新聞(西部版・14版)2社の見出し。

両陛下 3月沖縄訪問/初の与那国島も/宮内庁検討

 記事の内容は見出しの通り。
 私が気になったのは、この記事がなぜ1面ではないのかということ。
 12日の「尖閣接続水域 中国潜水艦か」よりも注目に値するニュースだと思う。
 なぜ、注目に値するか。
 記事にこう書いてある。

天皇陛下は19年4月30日に退位されるため、天皇としての沖縄訪問は最後になる。

 ここがポイント。天皇は沖縄を忘れてはいないというアピールをしたいのだ。天皇は、沖縄戦終結の日、広島原爆の日、長崎原爆の日、終戦の日を「記憶しなければならない日」と語っていた。沖縄には未解決の問題がある。基地の問題がある。そのことを思い起こさせるためでもあるだろう。
 これから開かれる国会で「改憲」が議題になる。自衛隊を憲法に書き加えることもテーマになる。天皇は「国政に関する権能を有しない」、つまり発言はできない。だから、「ことば」ではなく「行動」で憲法に対する「姿勢」を示すだと思う。

 この記事が一面に載らなかったのは、いわゆる「忖度」というものだろう。
 安倍は、憲法改正を狙っている。安倍は、護憲派の天皇は、なんとしても存在を「隠したい」と思っている。即位するとき「皆さんとともに日本国憲法を守り、これに従って責務を果たすことを誓い」と語った天皇が国民の目の前に姿をあらわしていると、改憲が進めにくい。
 「天皇隠し」がはじまっている。それに同調している、と読むのは「深読み」だろうか。

 全国の新聞は知らないが、福岡市で発行されている新聞では毎日新聞が一面にこの記事を載せていた。

*

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詩人が読み解く自民党憲法案の大事なポイント 日本国憲法/自民党憲法改正案 全文掲載
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