谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(5)(創元社、2018年02月10日発行)
「ピアノを開く時」は、詩なのか。エッセイなのか。谷川の「音楽環境」がわかる。幼い時からピアノに触れている。
昔を思い出して、ピアノに触れる時がある。
このあとに、プルーストの「失われた時を求めて」のような描写がつづく。(プルーストは読んだことがないので、勝手な想像だけれど。)ここは、詩っぽい。「詩情」というものがある。
で、この直後
「未分化な魂」と「音楽」が融合している。谷川にとって音楽体験は「未分化な魂」の発見だったということだろう。
うーん。
そうなんだろうなあ、と思うしかない。
つづいて、こう書いている。
私は谷川とは違う階級の人間なので、こういうことには深入りしない。
最初に書いたが、音楽環境が、私と谷川では違いすぎる。谷川の体験を「追体験」することは、私にはできない。
そういう私が、この作品から「詩」を感じるのはどの部分かというと。
ピアノの小品(子供の時に弾いたことのある曲)を聞いた時(あるいは弾きなおした時)の思いを書いた部分である。
「反省とともに」の「ともに」、「というよりも」、「また時に」の「また」。この、「同時」にいくつかの「思い」を結びつける文体に「詩」を感じる。
詩は、一言では言えない。
詩は、言いなおすしかないものである。
特に私が詩を感じるのは、「というよりも」という「逆説」の「論理」ではなく、「ともに」「また」という「並列」のことばの運動である。
「逆説」というのは、何かを「掘り下げていく」感じがする。
「並列」は、あることがらを「横に広げていく」感じ。遠いものを呼び寄せる感じでもある。実際、この詩の「また」は「求める」と「逃避する」という違った方向へ動いている。俳句でいう「遠心」と「求心」の結びつきのようなものがある。
音楽が「匂い」を呼び寄せるように(17ページ)広がり、あるもの、あることが、それを離れて別の次元へ広がるとき、谷川の詩(詩情)はいきいきと動く。
それは「未分化」なのものが、「分化」して「もの」になる。谷川の「肉体」の内部にあるものが「外部」のなにかと出会って、そこに結晶する感じだ。
それを「また」で展開し続ける時、そこに「音楽」が響いてくる。
それは、きのうのつづきで言えば「意味の和音」かもしれない。物理的な「音」の和音ではなく。
*
「詩はどこにあるか」1月の詩の批評を一冊にまとめました。
詩はどこにあるか1月号注文
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ここをクリックして1750円の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
目次
瀬尾育生「ベテルにて」2 閻連科『硬きこと水のごとし』8
田原「小説家 閻連科に」12 谷川俊太郎「詩の鳥」17
江代充「想起」21 井坂洋子「キューピー」27
堤美代「尾っぽ」32 伊藤浩子「帰心」37
伊武トーマ「反時代的ラブソング」42 喜多昭夫『いとしい一日』47
アタオル・ベフラモール「ある朝、馴染みの街に入る時」51
吉田修「養石」、大西美千代「途中下車」55 壱岐梢『一粒の』59
金堀則夫『ひの土』62 福田知子『あけやらぬ みずのゆめ』67
岡野絵里子「Winterning」74 池田瑛子「坂」、田島安江「ミミへの旅」 78
田代田「ヒト」84 植村初子『SONG BOOK』90
小川三郎「帰路」94 岩佐なを「色鉛筆」98
柄谷行人『意味という病』105 藤井晴美『電波、異臭、工学の枝』111
瀬尾育生「マージナル」116 宗近真一郎「「去勢」不全における消音、あるいは、揺動の行方」122
森口みや「余暇」129
オンデマンド形式です。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
*
以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料250円)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料450円)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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(3)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料250円)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
「ピアノを開く時」は、詩なのか。エッセイなのか。谷川の「音楽環境」がわかる。幼い時からピアノに触れている。
昔を思い出して、ピアノに触れる時がある。
そんな時、私の心にひろがる風景は、やはり、あのアンファンス
と呼ばれる、青春よりもさらに甘美で物哀しい時期の、匂いのよう
なとらえ難い風景である。 (17ページ)
このあとに、プルーストの「失われた時を求めて」のような描写がつづく。(プルーストは読んだことがないので、勝手な想像だけれど。)ここは、詩っぽい。「詩情」というものがある。
で、この直後
子供のまだ未分化な魂にうつっていた世界は、今では音楽によっ
てしか思い出すことのできぬほど微妙なものだったろうか。 (17ページ)
「未分化な魂」と「音楽」が融合している。谷川にとって音楽体験は「未分化な魂」の発見だったということだろう。
うーん。
そうなんだろうなあ、と思うしかない。
つづいて、こう書いている。
少々飛躍したいい方かもしれないが、それらの曲を聞くたびに、私
は自分の階級とでもいうべきものを意識する。 (18ページ)
私は谷川とは違う階級の人間なので、こういうことには深入りしない。
最初に書いたが、音楽環境が、私と谷川では違いすぎる。谷川の体験を「追体験」することは、私にはできない。
そういう私が、この作品から「詩」を感じるのはどの部分かというと。
ピアノの小品(子供の時に弾いたことのある曲)を聞いた時(あるいは弾きなおした時)の思いを書いた部分である。
それは苦い反省とと
もに、甘い陶酔をももちろん含んでいて、私はそれに抗することが
できない。というよりももっと積極的に私はそこに、自分というも
のを探し求め、また時にはそこへ逃避すらしているのかもしれない。(19ページ)
「反省とともに」の「ともに」、「というよりも」、「また時に」の「また」。この、「同時」にいくつかの「思い」を結びつける文体に「詩」を感じる。
詩は、一言では言えない。
詩は、言いなおすしかないものである。
特に私が詩を感じるのは、「というよりも」という「逆説」の「論理」ではなく、「ともに」「また」という「並列」のことばの運動である。
「逆説」というのは、何かを「掘り下げていく」感じがする。
「並列」は、あることがらを「横に広げていく」感じ。遠いものを呼び寄せる感じでもある。実際、この詩の「また」は「求める」と「逃避する」という違った方向へ動いている。俳句でいう「遠心」と「求心」の結びつきのようなものがある。
音楽が「匂い」を呼び寄せるように(17ページ)広がり、あるもの、あることが、それを離れて別の次元へ広がるとき、谷川の詩(詩情)はいきいきと動く。
それは「未分化」なのものが、「分化」して「もの」になる。谷川の「肉体」の内部にあるものが「外部」のなにかと出会って、そこに結晶する感じだ。
それを「また」で展開し続ける時、そこに「音楽」が響いてくる。
それは、きのうのつづきで言えば「意味の和音」かもしれない。物理的な「音」の和音ではなく。
*
「詩はどこにあるか」1月の詩の批評を一冊にまとめました。
詩はどこにあるか1月号注文
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
ここをクリックして1750円の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
目次
瀬尾育生「ベテルにて」2 閻連科『硬きこと水のごとし』8
田原「小説家 閻連科に」12 谷川俊太郎「詩の鳥」17
江代充「想起」21 井坂洋子「キューピー」27
堤美代「尾っぽ」32 伊藤浩子「帰心」37
伊武トーマ「反時代的ラブソング」42 喜多昭夫『いとしい一日』47
アタオル・ベフラモール「ある朝、馴染みの街に入る時」51
吉田修「養石」、大西美千代「途中下車」55 壱岐梢『一粒の』59
金堀則夫『ひの土』62 福田知子『あけやらぬ みずのゆめ』67
岡野絵里子「Winterning」74 池田瑛子「坂」、田島安江「ミミへの旅」 78
田代田「ヒト」84 植村初子『SONG BOOK』90
小川三郎「帰路」94 岩佐なを「色鉛筆」98
柄谷行人『意味という病』105 藤井晴美『電波、異臭、工学の枝』111
瀬尾育生「マージナル」116 宗近真一郎「「去勢」不全における消音、あるいは、揺動の行方」122
森口みや「余暇」129
オンデマンド形式です。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
*
以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料250円)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料450円)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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(3)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料250円)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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