詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

三権分立は、どうなるのか

2018-02-17 12:00:40 | 自民党憲法改正草案を読む
三権分立は、どうなるのか
             自民党憲法改正草案を読む/番外178(情報の読み方)

 2018年02月17日の読売新聞朝刊(西部版・14版)の2面に自民党の改憲案が載っている。きのうの夕刊「合区解消 改憲案を了承/自民本部 参院 都道府県1人以上」の続報。「一票の格差」に対する「違憲/違憲状態」という判決を踏まえて16年夏の参院選から「合区」が導入された。この「合区」については最高裁が「合憲」という判断を下している。自民党の改憲案は、この「合区」を解消し、都道府県ごとに1人の議員を配分するというもの。

 47条と、92条が改憲の対象になっている。
 現行と比較してみる。

47条
(現行)
選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
(自民党案)
1項 両議院の議員の選挙について、選挙区を設けるときは、人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数を定めるものとする。
参議院議員の全部又は一部の選挙について、広域の地方公共団体のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選後とに各選挙区において少なくとも一人を選挙すべきものとすることができる。
2項目 前項に定めるもののほか、選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

 現行憲法に大幅に文言を追加している。
 狙いは「衆院選で市区町が複数の選挙区に分割される状況を是正する」「参院選の合区を解消する」。(いずれも、読売新聞の解説)
 でも、これを実施すると「一票の格差」はどうなるだろうか。人口の最小の「選挙区(市区町村、都道府県単位)」を1として、他の選挙区の議席を増やさないかぎり「格差」は解消できない。つまり、議院が大幅に増えてしまう。
 議院を増やしたいだけの「憲法改正」である。

 92条の改正は、辻褄合わせである。言い換えると、「47条」で書いてある「広域的地方公共団体」とは何かを定義したものである。

(現行)
地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
(自民党案)
地方公共団体は、基礎的な地方公共団体及びこれを包括する広域の地方公共団体とすることを基本とし、その種類並びに組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。

 追加されていることばが多いが、特徴的なのが「広域の地方公共団体」。これは「都道府県」を想定している。(読売新聞の解説)
 だから、これを「47条」にあてはめると、

1項 両議院の議院の選挙について、選挙区を設けるときは、人口を基本とし、「広域の地方公共団体(都道府県、あるいは市区町村)」、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して(言い換えると、「広域の地方公共団体(都道府県、あるいは市区町村)」を勘案して)、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議院の数を定めるものとする。(都道府県、市区町村の「区分」を重視して、選挙区の分区、合区をしない。)

参議院議院の全部又は一部の選挙について、広域の地方公共団体(都道府県)のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選後とに各選挙区(都道府県)において少なくとも一人を選挙すべきものとすることができる。

 ということになる。
 こんな「ややこしい」いい方をわざわざするのは、現行の「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」では、「法律」次第で、選挙区の「合区/分区」ができるからである。法律で「合区/分区」をさせないために、憲法で「都道府県に1人の参院議員」と決めてしまうのである。

 そうすると、14条との整合性が難しくなる。
 14条は、こう書いてある。

すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 「一票の格差」は「平等」の定義に反する。「平等」を保障するためには、どうしたって人口の一番少ない「選挙区(都道府県、あるいは市区町村)」に1議席をわりふり、それにあわせて他の選挙区の議席を増やしていくしかないことになる。
 国民(住民)のための議員ではなく、議員のための国民(住民)になってしまう。

 これはまた、こう言いなおすこともできる。
 現行憲法は、「天皇」「戦争の放棄」「国民の権利及び義務」「国会」「内閣」「司法」「財政」「地方自治」という順序で構成されている。(あとは、省略)
 14条は「国民」、47条は「国会」、92条は「地方自治」である。優先されるべき「国民の権利」が「国会(国民によって選ばれる議員)」「地方自治」によって制限されることになる。
 これは「憲法の構成」としておかしい。整合性がとれない。矛盾している。つまり、「違憲」である。
 憲法は重要な順序で書いてある。重要な順に書き、一回では書けないことを少しずつ補足する形で「完成」を目指している。

 (何度も書いてきたので省略するが、昨年6月に公表された「自衛隊加憲」の自民党案では、国民、国会を飛び越して、9条に「内閣総理大臣」が登場し「最高指揮官」であると宣言するという、「独裁」丸出しの文言になっている。「独裁」を完全にするために、戦争をし、国民を「御霊=戦死させる」にしてしまうことを狙った文言になっている。)
  
 また、この自民党の案では「三権分立」が完全に無視されている。
 参院選の「合区」は「一票の格差」で「違憲(違憲状態)」という判決が相次ぎ、それを解消するために国会で決めたことである。
 毎日新聞(2017年9月28日朝刊)は、「一票の格差訴訟」について、こう書いている。

 「1票の格差」が最大3・08倍だった昨年参院選を巡り、二つの弁護士グループが選挙無効を求めた16件の訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は27日、「合憲」との統一判断を示した。国会が史上初めて都道府県選挙区の枠組みを崩して「合区」を含む定数是正を行った点を「これまでにない手法を導入し、数十年続いた5倍前後の格差を縮小させた」と評価。「違憲の問題が生じる著しい不平等状態とは言えない」と結論付けた。

 「合区」は「合憲」である。それは国会で「定数是正」をおこなった結果である、と評価して「合憲」にしたのである。
 この判決を踏まえるなら、自民党は改憲で「合区」を実現するではなく、まず国会で「合区」を解消し、都道府県に1議席という法律を成立させるべきなのである。
 現行の47条は、はっきり

選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

 と書いている。「法律」次第で、運用は変更できる。それを認めている。
 憲法を変えなくてもできることを、憲法を変えることで、押し通そうとしている。
 (これは9条についてもいえる。「集団的自衛権(アメリカの戦争を補完するために海外へ自衛隊を派遣する、自衛隊員に戦争させる)」ために戦争法をつくったのに、さらにそれを憲法に明記する。)
 これでは何のために法律があるのか、「立法府(国会)」があるのか、わからない。
 「国会」を無視し、「司法(裁判所)」も無視し、「合区で自民党議員が減るのは困る」という理由で、憲法を改正しようとしている。 
 自民党が「都道府県に最低1議席(参院議員)」を実現したいならば、それは「国会」で「法律改正案」をだせばすむことである。「自民党の47条」は憲法で決めることではない。「国会で決めたこと」が「司法」で支持された。国会も司法も気に入らないから、国会も司法にも何も言わないために憲法で決めてしまうというのは、憲法が「独裁」の手段になる。
 国民のことなど何も考えていない。憲法の構成の整合性も何も考えていない。ただ、自分の権利を守るため、独裁を強行するために憲法をかえようとしている。
 安倍の「独裁」体質を、自民党議員全員がそのまま引き継いでいる。

 三権分立が自民党によって否定されている。そのことが自民党の改憲案から明確に見える。独裁が始まっていることがわかる。


#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 
 


*

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憲法9条改正、これでいいのか 詩人が解明ー言葉の奥の危ない思想ー
クリエーター情報なし
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水の周辺15

2018-02-17 10:24:59 | 
水の周辺15

冬の色の水に
映る。

木の影。
雨が

幹に滲む。
輪郭。

光る。
空間。

新しい水輪。
の、

黒い影、
円。

中心、
が、外縁に。

広がる、広げる、
その中心へ。

雨。
天へ帰る一滴。

へ、
伸びる枝。

まっすぐに、
曲がっている。





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谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(6)

2018-02-17 10:17:31 | 谷川俊太郎『聴くと聞こえる』
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(6)(創元社、2018年02月10日発行)

 「それぞれの唄」は声を求めている。一連目の構造を他の連が引き継いでいく。音が記憶を呼び覚まし、記憶が新しい音を生み出していく。少しずつ変化していく。音の変化は意味の変化でもある。そして、それが同じ音でしめくくられることで、連がそれぞれ完結する。
 こんな具合。

公園の遊動円木の上で
ふたりは初めて会ったのさ
ふたりが六つと七つのとき
それがどうしたの それがどうしたの

裏町の日影の路地の片隅で
ふたりは初めてキスしたのさ
ふたりが十五と十六のとき
それがどうしたの それがどうしたの

 一種の「かぞえうた」とも言える。ふたりは愛し合い、別れる。「歌謡曲」ともいえるかもしれない。「かぞえうた」「歌謡曲」の印象が「声を求めている」という印象を引き起こす。
 最後は、

なんにもどうもしやしない
ふたりは愛しあったんだ
ただそれだけのことなのさ

 これは「反歌」のようなものか。繰り返される「それがどうしたの それがどうしたの」に「結論」を出している。「歌謡曲」に似ている。

 と、書いたら、感想も終わりそうなのだけれど。

 最初読んだとき、余白に書いたメモがある。「それがどうしたの それがどうしたの」と「ただそれだこのことなのさ」を線で結び、「それだけ」とは何か、と書いてある。これは、左のページ。
 そして右のページ(詩の書き出しの方)には、「ふたりとは何か」「わたしとあなたである」「ふたりは、わたしとは何かを問うこと」。「六つと七つのとき」の「ときとは何か」と書いてある。
 それから、少し離れた「ある、とは何か」と書いてある。
 何かを考えようとしたのである、私は。
 何を考えようとして、そのメモを残したのか。

 たぶん、こういうことである。この詩には「ある」という「動詞」が省略されている。谷川の詩を少し書き換えながら「ある」を補ってみる。

公園に遊動円木が「ある」。その上に
ふたりは「ある」(いる)、そうやって初めて会ったのさ
ふたりが六つと七つで「ある」そのとき
それがどうしたの それがどうしたの

 こう補うと、「それがどうしたの それがどうしたの」は、繰り返されている「ある」はどうしたのか、どういうものかと問いかけていることになる。
 「わたし」とは私という「自己存在」だが、それはさらに突き詰めていくと「あるとき(たとえば六歳、七歳のとき)」と切り離せない。「とき」とともに変化していく。「私とは時である」と言いなおすことができる。「時」と切り離せないなら、それは「変化」と切り離せない、「変化」と同じということになる。
 「変化」にとって、「ある」とは、どういうことだろう。「変化」とは「ある」が「ない」になることだ。「六つ」で「ある」は、六つで「ない」ことによって「十五」になる。十五として「ある」。
 キスして、愛して、別れる。愛で「ある」ものが愛で「ない」になる。

 さて、「ある」とは何か。
 谷川は最後で「それだけ(のこと)」と言っている。
 ここからわかることは、実は、ないにひとしい。何もわからない、と言ってしまえば、たぶんそれでおしまいなのだが。
 気になることがある。
 「それ」と指示代名詞で呼んでいること。
 定義できないもの。
 でも、「それ」と呼ぶことができる。
 あいまいに、ことばにすることができる。

 このことばにならない「それ」は、「未生のことば」であり、谷川が言っている「静けさ」(沈黙のことば)かもしれない。
 最初に読んだとき、どう思ったのか、手探りしていると、ことばは、こんなふうに動いた。





*


「詩はどこにあるか」1月の詩の批評を一冊にまとめました。

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目次

瀬尾育生「ベテルにて」2  閻連科『硬きこと水のごとし』8
田原「小説家 閻連科に」12  谷川俊太郎「詩の鳥」17
江代充「想起」21  井坂洋子「キューピー」27
堤美代「尾っぽ」32  伊藤浩子「帰心」37
伊武トーマ「反時代的ラブソング」42  喜多昭夫『いとしい一日』47
アタオル・ベフラモール「ある朝、馴染みの街に入る時」51
吉田修「養石」、大西美千代「途中下車」55  壱岐梢『一粒の』59
金堀則夫『ひの土』62  福田知子『あけやらぬ みずのゆめ』67
岡野絵里子「Winterning」74  池田瑛子「坂」、田島安江「ミミへの旅」 78
田代田「ヒト」84  植村初子『SONG BOOK』90
小川三郎「帰路」94  岩佐なを「色鉛筆」98
柄谷行人『意味という病』105  藤井晴美『電波、異臭、工学の枝』111
瀬尾育生「マージナル」116  宗近真一郎「「去勢」不全における消音、あるいは、揺動の行方」122
森口みや「余暇」129
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聴くと聞こえる: on Listening 1950-2017
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