詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(5)

2018-12-24 08:14:33 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
5 サルペードーンの葬儀

『イーリアス』の一情景をそのまま一篇にしたてている。

 池澤の注釈は、要約するとそうなる。固有名詞への注釈が多いのだが、私は、注釈がついていない次の部分が好きだ。

今や彼は戦車を乗りこなす若い王のように見えた--
年のころは二十五か二十六というところ--
最も速い馬の引く黄金造りの戦車で
競走に出馬し、名誉ある賞を得て戻って
休息しているといったありさま。

 若い男の姿が、若い男の姿のまま見える。それが誰であるかを忘れる。
 「年のころは二十五か二十六というところ」はいかにもカヴァフィスの表現だ。大雑把なようで、細かい。とても関心があるのに、関心を隠すために「大雑把」を装っている。これは「恋」の表現である。
 その若い男に注目している。目が離せない。でも、関心がないように装っている。
 知っているのに、知らないふり。
 「名誉ある賞を得て戻って/休息している」も、とてもおもしろい。
 この「休息している」は「死んでいる」の暗喩なのだが、私は、死んでいることを無視して読んでしまう。
 「若い王」の方も、見られていることを意識している。みんなにみられているのではなく、「ひとり」にみられていることを意識している。みんなに見られていると意識しているなら「休息」などしない。手を振って、歓声に答えているだろう。

 『イーリアス』を下敷きにしているのではなく、カヴァフィスは「恋」の瞬間を『イーリアス』のなかに隠しているのだと、私は「誤読」する。



カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


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