詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(10)

2018-12-29 08:50:27 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
10 中断

 人間の子に永遠の生命を与えようという神々の好意が、その子この親の浅慮のために成就しない。(略)ギリシャ神話における神々と人との関係は詩人のよくとりあげたところ

 と池澤は書いている。しかし、詩がギリシャ神話の要約ならば、何の面白みもない。詩を読むよりもギリシャ神話を読めばすむ。
 私は、ここでも「恋」の詩として読んでみたい。

盛大な炎と濃い煙の中で見事に業を進める。しかし、
かならずやメタネイラは王の間から
恐れおののき髪をふり乱して駈けこむし、
かならずやペーレウスはおびえて邪魔をするのだ。

 「盛大な炎」と「濃い煙」は、ある意味では矛盾している。炎に煙はつきものだが、炎だけなら「盛大」だが、「濃い煙」がつきまとうなら単純に「盛大」とはいえない。「豪華」とは違ったものが含まれる。何もかもを見えなくさせてしまう「黒い」ものがある。その「矛盾」のなかで「進む」ものがある。
 これを「肉体」と読み直してみるとどうだろうか。完璧な美しさの肉体。けれど、どこかに邪悪なものが動いている。だからこそ、ひとは肉体に引きつけられる。その肉体に触れたら、わけのわからないもの、邪悪なものに飲み込まれてしまうのではないか。
 精神はその予感に、「恐れおののく」、そして「おびえる」。
 だが、それを含めて「恋」なのだ。
 神が与えたものが肉体なら、その絶対的な強さ、美しさにおののくのは精神である。
 肉体の望むがままにまかせておけばいいのだが、精神はそれを邪魔する。その戦いをギリシャ神話の神々と人間との関係に託している。


カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


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