詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

森雄治『蒼い陰画』

2018-12-13 08:10:22 | 2018年代表詩選を読む
森雄治『蒼い陰画』(ふらんす堂、2018年11月15日発行)

 森雄治という詩人は初めて知った。『蒼い陰画』は硬い言葉で書かれている。崩れてゆかない、という意味である。「蒼い陰画」という作品はない。「陰画」ということばは「降霊術」に「ネガ」というルビ付きでつかわれている。

もうひとつの準備された世界の陰画(ネガ)が浮上する

 「陰画」とは「もうひとつの世界」である。「の」でふたつは結ばれている。けれども、私はそれを「言い直し」と「誤読」する。「意識」という作品が、そういう「誤読」を誘う。

ガラス玉の風景
そこに指紋をつけてはならない
なぜならつけるまでもなく
繊細にどよめき崩れてゆくだけだから

 「なぜなら」は理由を語るのだが、「理由」というのは、り言い直しである。だからこそ「つけてはならない」は「つけるまでもなく」と引き継がれる。言い直しは、世界を二重にする。この二重は、陽画(ポジ)と陰画(ネガ)のことである。陽画が「現実」であり、陰画が「虚構」というわけではない。ふたつはしっかり結びついている。けっして分離しない。分離させないために「なぜなら」ということばがある。

瞼におおわれてもいないので
それはごく自然な摂理なのだ
希薄な硝煙のさざなみが表面を擦っている
そのしみいるような静かさに怯える幾千万の粒子の氾濫
薄明の夢の凝縮が
遠い叢林の狂乱を青く染まる

 これらの行に「なぜなら」は書かれていないが、すべての行に「なぜなら」を補ってみるといい。不自然な感じに響くところがあるかもしれないが、「言い直し」であることがわかる。
 「なぜなら」は「理由」を語ることで、新しい「比喩」を生み出す。あらゆる「比喩」は「陰画」なのである。比喩が現実の隠れていたものを象徴し、そこから「意味」を育てていくように、「陰画」は現実の隠れていたものを浮かび上がらせ、陽画という「意味」を育てる。この「意味」はすべて「意識」を構成する。
 タイトルが「意識」となっているのは、そのためである。

遠い叢林の狂乱を青く染まる

 ここには「蒼い」ではなく「青」がつかわれているが、森は「意識」を「青/透明につながる色」と考え、それを重ねることで「世界」の「意味」と「意識」を重ねようとしたのだろう。そのようにして「意味」の構築が「意識」の構築になるのだ。





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蒼い陰画
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