詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(12)  

2018-12-31 08:33:01 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
12 テルモピュライ

 池澤の注釈を読む前はそうでもなかったのだが、読んでしまうと、カヴァフィスの詩はすべて「恋」の詩、許されない恋の運命を描いているように見えてしまう。

そしてなお一層の栄誉を与えよ、
最後にはエピアルテスが立ち現れると、
メーディア勢が押しよせると予見する
(多くのものは予見するのだ)その時のかれらに。

 池澤澤は「エピアルテス」について、こう書いている。

祖国を裏切ってペルシャに通じ、ギリシャ勢の背後にぬける間道を教えた男。ためにギリシャ勢は全滅した。

 「裏切り」と「全滅(完全なる破壊)」は、誰にとっても好ましいことではない。けれど「恋」というのは、いつもそうなるのが運命ではないだろうか。
 そして運命がわかっていても、たぶん人間は恋してしまうのだ。

 タイトルの「テルモピュアイ」については、中澤は、こう書く。

テルモピュアイはペルシャ戦争の際 (ギリシャ側にとって)最も悲壮な戦いの行われた場所。

 これをカヴァフィスは、こう書き出している。

その人生においてそれぞれのテルモピュアイを
定め、また護る人々にこそ栄誉あれ。

 「人生」における「テルモピュアイ」とは、場所ではなく、「時間」であり「出会い」だろう。そのとき何を「護る」のか。自分の人生か。あるいは出会った人の人生か。
 恋は、あるいは愛は、自分がどうなってもいいと覚悟して出会った人についていくことである。だからそのとき「護る」のは自分の人生とは言い切れない。他人の人生を護るために生きなければならないときがある。
 こういうことは、運命の出会いならば、その瞬間に「予見」してしまうことかもしれない。





カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
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