詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(39)

2019-01-27 10:32:14 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
39 できるかぎり

のぞむことのすべてをなすのが不可能だとすれば、
少なくともできるかぎりを求めて、
力を尽くすべきだ。世間との
つきあいに淫したり、動いたり喋ったりで
人生をおとしめてはいけない。

 池澤は、

カヴァフィスには珍しく道徳的な作品。

 と書いている。
 そうなのかなあ。道徳の定義がむずかしいが、「道徳的」というとき、誰にむけての道徳なのか。他人に対して忠告しているのか。私には、そうは思えない。カヴァフィス自身に向けて語っている。世間など気にせず、もっと自分の欲望に忠実になるよう力を尽くすべきだと言っているように思える。自分の「恋」に忠実になれ、と。

ぐずぐずと人生を引きまわして、
日々の愚行や
人々との社交の場などに
さらしていれば、
人生はただしつこくつきまとう他者と化してしまう。

 池澤は、こう書く。

 最終行は見事な表現。「他者」と訳した語はクセノス、客人であり、外国人であり、他者である。

 「他者」の定義がまたまたむずかしいが、私にはこの「訳語」がどうもわからない。
 自分の欲望に忠実に生きるよう力を尽くさないかぎり、その人生はただの「客人」のようになってしまう、という感じではないのだろうか。池澤が「客人」という訳語もあると書いているが、そのことばの方に「実際」を感じる。
 「客人」の反対のことばは、「主人」だ。自分の人生の「主人」になるためには、世間や社交なんか気にするな。でも、それは言うのは簡単だが、実行はむずかしい。だからこそ、ことばのなかで夢見る。これも、ことばによる「先取り」の一種だろうなあ。
 「他者」だと、内面的な自他の対話、哲学的になる。私はやはり恋の詩と読みたい。





カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
ここをクリックして2500円(送料、別途注文部数によって変更になります)の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。

オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。



以下の本もオンデマンドで発売中です。

評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする