詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(24)

2019-01-12 09:15:13 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
24 サトラップ領

 サトラップは古代ペルシャの行政官名で、相当な権限をもって地方のサトラップ領を支配するなかば自治的な職。

 池澤の注を読んでも、私には何もわからない。池澤が書いていることを、こうやってコピーすることはできるが、コピーでは「読んだ」ことにはならない。「聞いた」ことにはならない。池澤のことばからは、私は何も聞き取ることができない。

のぞみもしなかったそんなものを、
おまえは絶望から受け入れた。

 この二行は、「絶望」が原因で、サトラップ領を受け入れたことが「結果」のように書かれているが、どういうときでも「原因」と「結果」は結びついているだけで、そこには時間的な前後というものはない。つまり、サトラップ領を受け入れたから(原因)、絶望するしかなくなったのだ(結果)。
 だから詩はつづく。

だがおまえの魂は別なものを求めて泣いている。
別なもの、市会と賢者たちの讃辞を、
アゴラと劇場における得がたく、また
計りしれぬ価値をもつ評判を。

 「絶望」は「魂は別なものを求めて泣いている」と言いなおされている。「別なもの」は「得がたい」「計りしれぬ」とも言いなおされる。ことばを変えて言いなおさないことには気がおさまらない、たとえ言いなおしても気はおさまらない。だからこそ「泣く」のだが、くやしいことに、その「泣く」の主語は「肉体」ではなく「魂」である。つまり、ほんとうに「泣く」ということができない。つまり訴えることができない。これこそ絶望だ。




カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
ここをクリックして2500円(送料、別途注文部数によって変更になります)の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。

オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。



以下の本もオンデマンドで発売中です。

評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする