28 神がアントーニウスのもとを去る
「見えない」と「聞こえる」の対比がおもしろい。カヴァフィスは「見える」ものよりも「聞こえる」ものを信じている。人間で言えば「声」を重視している。ことばで言えば「音」を重視している、と私は感じている。
だから、こういうことばがある。
「耳にだまされた」とは「ことばにだまされた」である。ことばにだまされるとき、ひとは「意味 (内容) 」にだまされることもあるだろうが、むしろ「声(の調子)」にだまされることがあるだろう。「意味」よりも「声」の方が強い。肉体に直接入ってくる。
「楽隊」 (音楽) なら、さらにそう言えるだろう。まず響きが耳に入ってくる。かきたてられた感情が「意味」を探り始める。
いつでも「音/声」というのは愉悦である。
池澤は「アレクサンドリア」という名前が女性形であることに注目し、カヴァフィスは都市と女神を結びつけ、「女神が去っていった」を「街が去っていった」と書き直したと注で指摘している。
私はギリシャ語を知らないので、よくわからないが、たぶん「ア」で終わることばは女性なのだろう。男性の名前は「ソクラテス」とか「アリストテレス」とか「ス」で終わることが多いと思うが。
その場合も、女性/男性を判断しているのは「音(声)」だと思う。
ひとはことばを選ぶとき「意味」と同時に「音」を選ぶ。カヴァフィスも、そういう詩人の一人だと私は感じる。
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
ここをクリックして2500円(送料、別途注文部数によって変更になります)の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
*
以下の本もオンデマンドで発売中です。
評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
真夜中、突然に、見えない
楽隊が通りすぎるのが聞こえる。
「見えない」と「聞こえる」の対比がおもしろい。カヴァフィスは「見える」ものよりも「聞こえる」ものを信じている。人間で言えば「声」を重視している。ことばで言えば「音」を重視している、と私は感じている。
だから、こういうことばがある。
なによりもまずおのれをあざむくな、夢だったとは、
耳にだまされたとは、言うな。
そんなうつなろ希望でおのれをおとしめるな。
「耳にだまされた」とは「ことばにだまされた」である。ことばにだまされるとき、ひとは「意味 (内容) 」にだまされることもあるだろうが、むしろ「声(の調子)」にだまされることがあるだろう。「意味」よりも「声」の方が強い。肉体に直接入ってくる。
「楽隊」 (音楽) なら、さらにそう言えるだろう。まず響きが耳に入ってくる。かきたてられた感情が「意味」を探り始める。
真情を込めて聞くがいい。
卑怯者のように哀願などせず、
ただ聞け、耳に渡る最後の楽しみを、その声を、
いつでも「音/声」というのは愉悦である。
池澤は「アレクサンドリア」という名前が女性形であることに注目し、カヴァフィスは都市と女神を結びつけ、「女神が去っていった」を「街が去っていった」と書き直したと注で指摘している。
私はギリシャ語を知らないので、よくわからないが、たぶん「ア」で終わることばは女性なのだろう。男性の名前は「ソクラテス」とか「アリストテレス」とか「ス」で終わることが多いと思うが。
その場合も、女性/男性を判断しているのは「音(声)」だと思う。
ひとはことばを選ぶとき「意味」と同時に「音」を選ぶ。カヴァフィスも、そういう詩人の一人だと私は感じる。
カヴァフィス全詩 | |
クリエーター情報なし | |
書肆山田 |
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
ここをクリックして2500円(送料、別途注文部数によって変更になります)の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
*
以下の本もオンデマンドで発売中です。
評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455