イオン・コッドレスク、伊藤勲『Ikuya's Haiku with Codrescu's Haiga』(論創社、2015年05月20日発行)
イオン・コッドレスク、伊藤勲『Ikuya's Haiku with Cordrescu's Haiga』は、加藤郁乎の俳句とイオン・コッドレスクの俳画を組み合わさせた一冊。伊藤勲が編集し、訳している。イオン・コッドレスクは俳画に自註をつけている。
私はフェイスブックで見かけたイオン・コッドレスクの絵がおもしろくて、本を買ってみた。
俳画は絵と俳句が組み合わされている。ただし、その俳句は英訳されていて、文字も英語である。これはなかなかむずかしい組み合わせだ。俳句は日本語で書かれている(漢字とひらがなで書かれている)ということを私は知っている。そのことが影響していると思う。横書き、アルファベットが、「視覚」になじまない。たぶん「余白」の感覚が違いすぎて、目が追いついていかないのだ。漢字のもっている「表意」の働きをアルファベットの「手書き」のなかに込めているのかもしれないが、私はアルファベットを「表意」として使ったことがないので、その部分でも何か「分断されたもの」を感じてしまう。
で。
イオン・コッドレスクにはたいへん申し訳ないのだが、頭の中で「文字」を消して「画」だけにしてみた。
とても気に入ったのが4枚ある。(原文は「正字」をつかっているが、引用はふつうに使われている字体に変更した。私のワープロは「正字」をもっていない。)
(1)忍び音のいのちなりけり秋迫る
画は抽象的である。筆が速くて、隅がかすれている。そのかすれが、余白と拮抗している。「忍び音」というよりも、精神が「声」を追い越して噴出している感じだ。これが余白の「静寂」をぐいとおさえ、「沈黙」に変える。強い緊張感がある。
(2)夜の秋いのちに聴きて鳥辺山
画は「山」という文字に見える。一筆で書いている。私は「鳥辺山」をみた事がないのだが、山というのは富士山以外はたいてい他の山と連なっている。連なりながら独立している。二画目といっていいのかどうかわからないが、頂上から降りてきた筆がはねあがり、左の山を抱き込むようにして旋回し、右の山に連なる。このとき不思議な遠近感が出てくる。左と右の山が近景で、最初の一角が遠景の頂きになるのかもしれないし、右が近景、左が中景、中央が頂点で遠景かもしれない。しかし、これは「頭」で考え直したときの遠近感で、目の中では、それがない。「余白」が遠近感の中に割り込んできて、それが逆に距離の隔たりを消す働きをしている。
この感覚はいったい何だろう。
(3)江戸を今に一人のうしろしぐれかな
橋がシルエットで描かれている。丸く反った橋で、橋脚が長い。欄干の一つが突き出ている。それは欄干にも人間にも見える。この構図の、橋脚と突き出た欄干のバランスがとてもおもしろい。橋脚は左側にだけ描かれ、突き出た欄干(人?)は右側に描かれている。このままだと右に橋が傾いてしまうのだが、橋全体が反って半円を描いているため、左右対称ではないものだけがもつ動きによって、不安定さを乗り越えている。人が橋を天に向かって吊り上げているのかもしれない。人が生きている。橋が生きている。そして橋のいのちと「一人」のいのちが一つになっている。
そう感じさせる。
(4)桐一葉久遠の君のなほ遠く
鶴が描かれている。それもデザイン化された、とてもシンプルなものだ。余白が背中にまで侵入してきている。鶴が空にとけ込んでいるとも言える。
俳句は「久遠」が「なほ遠く」と言っているが、その「遠い」の重なりの中に「方向」がある。見えない方向は、しかし、鶴の肉体には見える。すでに、肉体の中に、その重なりがあって、それを生きている。
*
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
ここをクリックして2500円(送料、別途注文部数によって変更になります)の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
なお、私あてに直接お申し込みいただければ、送料は私が負担します。ご連絡ください。
「詩はどこにあるか」12月の詩の批評を一冊にまとめました。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168075066
オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
*
以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
(4)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com