22 あの男
その「よそもの」が最終連で、こう変わる。
池澤の注。
つまり、カヴァフィス自身を、その無名詩人に仮託しているというわけである。
その通りだと思うが。
私は、「よそもの」から「あの男」への、ことばの変化に詩を感じる。よそものは「あの」という特定の指示詞を持たない。「あの男」ということばが動くとき、そこには明確な意識がある。「知っている」を意味する。
それだけではない。
「すでに知っている」ではなく、「あの」と指示することで「知る」にしてしまうのだ。知らなくても「知っている」ものにする。
それは逆に言えば「知られる」ことを「知っている」でもある。
詩では、こういう「矛盾」のようなものが起きる。それが、とてもおもしろい。
そして、この作品では「あの男」は「詩人」ということになっているが、それだけではないかもしれない。「よそもの」なのに「あの男」と呼ばれる。この主人公には「あの」ということばで指し示される「独特」のニュアンスがある。「あの男」と呼ばれた男は「あの男だ」という声を聞いた。それは「視線の声/まなざしの声」だったかもしれない。「あの男」と呼ばれたとき、主人公は「その男」を見たのだ。
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エデッサ出身の一人の男--ここアンティオキアではよそもの--
その「よそもの」が最終連で、こう変わる。
けれども、この困憊の内から急にある考えが
浮びあがる--素晴しい「あの男だ」という声、
かつてルキアノスが夢の中で聞いたその声が。
池澤の注。
ルキアノスの「夢」という詩に由来する。彼が若い頃、夢の中で文芸の女神から「(略)人々はおまえを見て隣のものをうながし、おまえを指さして『あの男だ』と言うだろう」と言われて文筆で立つ決意をした。カヴァフィスの作品の中の無名詩人はこの逸話に励まされる。
つまり、カヴァフィス自身を、その無名詩人に仮託しているというわけである。
その通りだと思うが。
私は、「よそもの」から「あの男」への、ことばの変化に詩を感じる。よそものは「あの」という特定の指示詞を持たない。「あの男」ということばが動くとき、そこには明確な意識がある。「知っている」を意味する。
それだけではない。
「すでに知っている」ではなく、「あの」と指示することで「知る」にしてしまうのだ。知らなくても「知っている」ものにする。
それは逆に言えば「知られる」ことを「知っている」でもある。
詩では、こういう「矛盾」のようなものが起きる。それが、とてもおもしろい。
そして、この作品では「あの男」は「詩人」ということになっているが、それだけではないかもしれない。「よそもの」なのに「あの男」と呼ばれる。この主人公には「あの」ということばで指し示される「独特」のニュアンスがある。「あの男」と呼ばれた男は「あの男だ」という声を聞いた。それは「視線の声/まなざしの声」だったかもしれない。「あの男」と呼ばれたとき、主人公は「その男」を見たのだ。
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クリエーター情報なし | |
書肆山田 |
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