北川透「なんとかと」ほか (「KYO峡」最終号、2018年12月31日発行)
北川透「なんとかと」は「ひらがな」だけで書かれている。一行が「五七五」になっている。もちろん俳句ではないが。
五行目まで引用してみた。何が書いてあるか。何も書いていない。書き出しを「なん」という音でそろえ、そのあと「五七五」のリズムでことばを動かしていく。
しかし。
「かんかかん」は単なる音か。それとも「意味」をもっているか。漢字まじりでどう書き直すことができる。「斯く書かん」(こう書くとしよう)と読むこともできる。「斯く書かん」の「く」は、私の発音では「無声音」になる。だから、どこかで「っ」とか「ん」とかの不完全な音とつながる。そういうこともあって「斯く書かん」という文字が思い浮かぶのだが、これは「音(発音)」が先か「表記(漢字まじりのことば)」が先か、よくわからない。どこかで交錯し、一緒になって立ち現われてくる。「肉体」がことばを勝手につかみとり、あとからこじつけしているとも言える。
こんなことは、もちろん北川の意図したことではないだろう。北川が書いているとき、想像したことでもないだろう。私が勝手にそう読むだけなのである。
ことばというのは、実際、困ったものだと思う。読むと、どうしても「意味」をでっちあげてしまうものだ。このことばのあり方を「パロール」というのか「ラング」というのか知らないが、私は、そこから逃れることができない。書いている北川はどうか。そういうものを突き破りたいのだろうと思う。いや、私は、北川のことばの運動に、そういう暴力を期待したいのだが、これはなかなかむずかしい。「現代詩」は、どこまでことばの拘束力を解体できるか。
というような、ちょっと面倒くさいことを書いてしまうのは。「脱走四六韻プラス一」という詩がある。
と始まる。「五七五」が繰り返され、その最初の「五」のあたまを拾っていくと「あいうえお」と五十音図になる。それがわかるように、最初の「五」のはじまりの部分だけをゴシック文字にしている。
ところが。
「な行」がおかしい。
どこがおかしいかというと、「な」なかまど、「ニ」ヒリズム、「ぬ」ばたまの、「ね」んねこや、「野」山超えとゴシックにならないといけないのに「色」づくおまえの「色」がゴシックになっている。
これは誤植? それとも、わざと? わざとだとしたら、どうして?
読者がほんとうに読んでいるかどうかを確かめるための罠?
この詩の最後「わ行」からあとは、こうである。
「ん」のかわりに「疑問符」の「疑」がゴシックになっている。これは、軽い疑問をもったとき「ん(?)」と首を傾げるところを利用したのだろう。「肉体」の反応を「音」として借りてきているのだろう。
こういう凝ったことをやっているのに、なぜ「色」がゴシックなのか。
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「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
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北川透「なんとかと」は「ひらがな」だけで書かれている。一行が「五七五」になっている。もちろん俳句ではないが。
なんぱせん ふるびたひゆに あきれはて
なんかんに やぶれたわれの しずむふね
なんきつに しにものぐるい こえもでず
なんぱせず ゆっくりねむり ふはいする
なんぎする なにほどのこと なんななん
五行目まで引用してみた。何が書いてあるか。何も書いていない。書き出しを「なん」という音でそろえ、そのあと「五七五」のリズムでことばを動かしていく。
しかし。
なんとかと かんとかとかが かんかかん
なんとなく このままいきが たえるはず
「かんかかん」は単なる音か。それとも「意味」をもっているか。漢字まじりでどう書き直すことができる。「斯く書かん」(こう書くとしよう)と読むこともできる。「斯く書かん」の「く」は、私の発音では「無声音」になる。だから、どこかで「っ」とか「ん」とかの不完全な音とつながる。そういうこともあって「斯く書かん」という文字が思い浮かぶのだが、これは「音(発音)」が先か「表記(漢字まじりのことば)」が先か、よくわからない。どこかで交錯し、一緒になって立ち現われてくる。「肉体」がことばを勝手につかみとり、あとからこじつけしているとも言える。
こんなことは、もちろん北川の意図したことではないだろう。北川が書いているとき、想像したことでもないだろう。私が勝手にそう読むだけなのである。
ことばというのは、実際、困ったものだと思う。読むと、どうしても「意味」をでっちあげてしまうものだ。このことばのあり方を「パロール」というのか「ラング」というのか知らないが、私は、そこから逃れることができない。書いている北川はどうか。そういうものを突き破りたいのだろうと思う。いや、私は、北川のことばの運動に、そういう暴力を期待したいのだが、これはなかなかむずかしい。「現代詩」は、どこまでことばの拘束力を解体できるか。
というような、ちょっと面倒くさいことを書いてしまうのは。「脱走四六韻プラス一」という詩がある。
あさぎりに 行く手阻まれ 敗けいくさ いずくへか われのゆく
道 われ知らず うしろには ピンク・フロイド アニマルズ 遠
近法 通るべからず この道は 尾をたれて へつらっている ひ
とやいぬ
と始まる。「五七五」が繰り返され、その最初の「五」のあたまを拾っていくと「あいうえお」と五十音図になる。それがわかるように、最初の「五」のはじまりの部分だけをゴシック文字にしている。
ところが。
「な行」がおかしい。
な
なかまど 色づくおまえに 犯される ニヒリズム 鉤十字の旗 う
ち振られ ぬばたまの 夜神楽に酔い けつまずく ねんねこや ね
ずみ落としに ねこいらず 野山超え 国境超える テロリズム
どこがおかしいかというと、「な」なかまど、「ニ」ヒリズム、「ぬ」ばたまの、「ね」んねこや、「野」山超えとゴシックにならないといけないのに「色」づくおまえの「色」がゴシックになっている。
これは誤植? それとも、わざと? わざとだとしたら、どうして?
読者がほんとうに読んでいるかどうかを確かめるための罠?
この詩の最後「わ行」からあとは、こうである。
われに似て ごつごつしている 鰐よりも 疑問符の と
どかぬ空を 脱走する
「ん」のかわりに「疑問符」の「疑」がゴシックになっている。これは、軽い疑問をもったとき「ん(?)」と首を傾げるところを利用したのだろう。「肉体」の反応を「音」として借りてきているのだろう。
こういう凝ったことをやっているのに、なぜ「色」がゴシックなのか。
*
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
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「詩はどこにあるか」12月の詩の批評を一冊にまとめました。
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オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
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(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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(3)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
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(4)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
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