詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(37)

2019-01-25 10:03:22 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
37 教会にて

ギリシャ人の教会に入る時、
わたしを包む香の煙の匂い、
典礼をつかさどる声と交響曲、

 私は、二連目のこの部分が好きだ。教会のなかは薄暗い。明るい日中に思い扉を押して入ると、特に薄暗い。目がものをつかみ取る前に、鼻が全体の匂いをつかみ取る。それから耳が静けさを聞き取る。ここに、どんな音が響いていたのだろうか。どんなふうに響きあっていたのだろうか。
 書き出しは、

わたしは教会を愛する--六翼の天使を、
銀の祭具を、燭台を、その光を、
聖像を、また説教壇を。

 と視覚から始まっているのだが、ぐいとこころをつかまれることがない。
 たぶん二連目の「入る時」ということば、「入る」という動詞が「愛する」に比べて「肉体」を直接刺戟してくるからだと思う。「愛する」だと、離れている感じがする。想像でも書ける。「入る」によって教会と一体になる。そのとき「肉体」を刺戟するのは、視覚ではなく、野蛮な嗅覚なのだろう。
 目はたくさんの情報を処理するが、欠点は、目の前のものしか見えないということだ。嗅覚や聴覚は、肉体の周り、全方向に開いている。そこに「強み」をもっている。そういうことも思い出させてくれる。

 池澤の註釈。

 カヴァフィスは「教会」を、五感に訴えるその具体的な姿において愛するのであって、それは信仰とは別のものである。













カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


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