23 町
一連目を受けて二連目のことばは、こう動く。
「この町」は「同じ道」「この界隈」「同じこれらの家々」と言いなおされる。「同じ道」は「この同じ道」であり、「この界隈」は「この同じ界隈」、「同じこれらの家々」は「この同じ家」である。
詩はことばの順序を入れ換え、「同じ」を省略したり付け加えたりすることでリズムに変化を与えているが「意味」は同じだ。
カヴァフィスは自註で「都市は、幻想の都市は彼の後をつけ、追いこし、同じ道と同じ街区を用意して待ちぶせる。詩人にとってこの詩は普遍的な事実ではなく、一つの特例にすぎない。」と書いている。
これに対し、池澤は、こう追加する。
池澤は、カヴァフィスが「特例」と呼んだものを「普遍的」と言いなおすのだが、このことにどんな意味があるのだろうか。
あらゆることが「個別」であり、同時に「普遍」である。「個別」なものを読者が自分自身の「個別」として引き受ければ、それは「普遍」に変わる。「普遍」と言われるものでも読者が「個別」として引き受けなければ「個別」のままである。
これをこの詩に当てはめて言えば、どの町、どの海へ行こうと、それを自分自身の町、自分自身の海として受け入れれば、それは「いつもの町、いつもの海」、「普遍」の町になってしまう。
カヴァフィスの「生き方(思想/肉体)」が「いつもの町」を生み出すのだ。「いつもの町」があるのではなく、「いつもの肉体」があるのだ。人間は自分の「肉体」から逃れられない。そして受け入れてしまうカヴァフィスがいる。
「おまえ」は、そうやって「私」になる。「この同じ私」に。
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
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おまえは言った、「別の土地へ行こう、別の海へ行こう。
これよりも良い町がきっとみつかるだろう。
一連目を受けて二連目のことばは、こう動く。
新しい土地などおまえにはみつからない。別の海などみつからない。
この町はおまえについてまわるだろう。おまえは同じ道を、
ただうろつくばかり。そしてこの界隈で年老いて
同じこれらの家々の中で色褪せるばかり。
「この町」は「同じ道」「この界隈」「同じこれらの家々」と言いなおされる。「同じ道」は「この同じ道」であり、「この界隈」は「この同じ界隈」、「同じこれらの家々」は「この同じ家」である。
詩はことばの順序を入れ換え、「同じ」を省略したり付け加えたりすることでリズムに変化を与えているが「意味」は同じだ。
カヴァフィスは自註で「都市は、幻想の都市は彼の後をつけ、追いこし、同じ道と同じ街区を用意して待ちぶせる。詩人にとってこの詩は普遍的な事実ではなく、一つの特例にすぎない。」と書いている。
これに対し、池澤は、こう追加する。
自註にもかかわらずテーマはやはり普遍的である。
池澤は、カヴァフィスが「特例」と呼んだものを「普遍的」と言いなおすのだが、このことにどんな意味があるのだろうか。
あらゆることが「個別」であり、同時に「普遍」である。「個別」なものを読者が自分自身の「個別」として引き受ければ、それは「普遍」に変わる。「普遍」と言われるものでも読者が「個別」として引き受けなければ「個別」のままである。
これをこの詩に当てはめて言えば、どの町、どの海へ行こうと、それを自分自身の町、自分自身の海として受け入れれば、それは「いつもの町、いつもの海」、「普遍」の町になってしまう。
カヴァフィスの「生き方(思想/肉体)」が「いつもの町」を生み出すのだ。「いつもの町」があるのではなく、「いつもの肉体」があるのだ。人間は自分の「肉体」から逃れられない。そして受け入れてしまうカヴァフィスがいる。
「おまえ」は、そうやって「私」になる。「この同じ私」に。
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クリエーター情報なし | |
書肆山田 |
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
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