詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

破棄された詩のための注釈06

2020-08-03 23:34:03 | 破棄された詩のための注釈
破棄された詩のための注釈06
             谷内修三2020年08月03日

 「夕刊」には、五年間住んでいたアパートの写真が出ていた。そのため、何度も読み返したが、夕日があたるとモルタル壁の色が変わること、裏側に鉄の非常階段があることは書いてなかった。
 窓から、遠い川がかすかに見えることも。
 干潮には川の底が見え、満潮には橋の上から覗くと顔が映るのが見えた。
 『右岸の水』という詩集を街の印刷屋で百部印刷した。一日五通ずつ封筒に入れて、郵便局まで投函しに行った。その中の一篇は、アパートの扉には、郵便を投げ入れる穴があって、夕刊はその穴にいつも差し込まれていたことをテーマにしている。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

藤森重紀『まちのかたち 凡庸な日常』

2020-08-03 09:59:44 | 詩集
藤森重紀『まちのかたち 凡庸な日常』(龍工房、2020年06月30日発行)

 藤森重紀『まちのかたち 凡庸な日常』の「丘の春」。

ひかりの密度がかわり
陽炎から
春 という妖精

 と始まる。「妖精」というものを見たことのない私は、ここでつまずくのだが、「ひかりの密度がかわり」という一行が気に入ったので、先を読み進む。
 「ひかりの密度がかわ」ると、世界は、どう違って見えるのか。
 こう書き直されている。

ねぎし づし やくし
土地の名がゆくりなく
カナに羽化して
つるかわ みわ ときわ…

 「カナに羽化して」は「陽炎」の言い換えだろう。だとすると、「カナに羽化する」ということと「ひかりの密度がかわる」は関係しているはずである。カナ(文字)になる前、それは「漢字」だったのか、「音」だったのか。二通りに考えられるが、私は「漢字」だったと読みたい。
 「漢字」が意味を表すのに対して、「カナ」は音をあらわす。「意味」から「音」へ変化することは、「羽化」(成長)か。ふつうは、成長ではなく、先祖返りというか、逆戻りと考えるべきなのだろうが、季節のめぐり、循環、春が再び始まるというよろこびが、この「逆戻り」を「逆戻り」とは感じさせない。何か、もう一度、「生きなおす」(生まれ変わる)という感じがする。
 「音」は意味から解放されて、自由に呼吸している。
 その感じが、「ねぎし づし やくし」の脚韻、「つるかわ みわ ときわ」の脚韻になっている。音楽が生まれている。
 「ゆくりなく」は「思いがけず」という意味だと思うが、「ゆくり」のなかに「ゆっくり」という響きが隠れていて、カナの音楽を優しくさせている。

やさしい余韻は
朧月を迎えるまでの
読点
うつくしい春の文体を
なお 継続させる

 「読点」と「文体」ということばが、清潔ですっきりしている。「抒情」によごされてしまいそうな、あるいは「定型」におぼれてしまいそうなことばを屹立させている。
 カナ(ひらがな、音)に対して、あえて「漢字(意味)」をぶつけている。これがこのしを輝かせている。  






**********************************************************************

「詩はどこにあるか」オンライン講座

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、skypeでお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。

★skype講座★
随時受け付け。ただし、予約制(午後10時-11時が基本)。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

**********************************************************************

「詩はどこにあるか」7月号を発売中です。
172ページ、2000円(送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
リンク先をクリックして、「製本のご注文はこちら」のボタンを押すと、購入フォームが開きます。

https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168079705



オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977





問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

嵯峨信之『詩集未収録詩篇』を読む(86)

2020-08-03 09:53:14 | 嵯峨信之/動詞
* (永い時間)

歩きつづけていたので少し疲れた そしてもとめつづけていたものが何かまだわからない
ただ遠いという世界だ

 「つづけていた」が二回くりかえされる。「つづける」が「永い」を生み出す。そして「遠い」をも生み出すのだ。
 つづけなければたどりつかないというよりも、つづけなければ「遠い」は存在しない。「永い」と「遠い」を組み合わせると、「永遠」になる。求めているものは「永遠」なのだが、「永遠」の定義は、きっと「つづける」という動詞のなかに隠れているのだろう。


*

詩集『誤読』は、嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で書いたものです。
オンデマンドで販売しています。100ページ。1500円(送料250円)
『誤読』販売のページ
定価の下の「注文して製本する」のボタンを押すと購入の手続きが始まります。
私あてにメール(yachisyuso@gmail.com)でも受け付けています。(その場合は多少時間がかかります)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする