詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

破棄された詩のための注釈12

2020-08-13 14:55:38 | 破棄された詩のための注釈
破棄された詩のための注釈12
             谷内修三2020年08月13日

 「胃の痛みについては」、別の詩でこう書つづけている。「何も語らなかった。川の流れを見ていた。去っていくものを頼りに、痛みを流しているようだった。」
 別の詩では、ことばを複数の人間に分け与えている。
 「頭の中で、全部考えた。感情を動かさないようにするために、川を見に行った。」
 「感情を読みたくない。不謹慎だ。散文だけで充分だ。」
 「痛みは、不道徳だ。」
 しかし、文体の変更はむずかしい。反論を重ねてしまうという癖があらわれ、登場人物をひとりに集約させてしまう。
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長嶋南子『海馬に乗って』

2020-08-13 09:52:05 | 詩集
長嶋南子『海馬に乗って』(空飛ぶキリン社、09月01日発行)

 長嶋南子は、私にとっては「おばさんパレード」の先頭を行くだけではなく、その先頭さえもひっぱっていくひとだ。長い間、そうだった。一度も、そこからずれたことはない。
 でも、今度の詩集は「ひっぱっていく」という感じがなくなった。長嶋が変わったのか、私の読み方が変わったのか、よくわからない。歩くのをやめたわけではないが、「先頭」であることをやめ、いままで見なかった部分を見つめている。「先頭」にいるときは、「行先」があった。いまは「行先」がなく、周りを見ながら、ときどき振り返ったりしている。そういう印象がある。これはこれで「おばさん」なのだが。     
 「仕事」という作品がある。

長い間ご苦労様と花束と拍手に送られて
カイシャを出される

やりたいことだけすればいいのです
耳もとでささやく声がする
やりたいことってなんだっけ
仕事をサボることだった

やめてみればひまで仕事をしたくなる
四十年働いて
私の身体は仕事で出来ている
仕事が服着て食べて寝て生殖して排泄して

身体から仕事が抜け落ちていく
からっぽになった
服着たからっぽが
昼間からうたた寝している
 部屋の掃除でもしなよ
と抜け落ちた仕事がいっている

役立たずになった
服着た役立たずがちんまり座って
せんべいなんかかじっている

 この作品を読むかぎり、長嶋はカイシャ(仕事)をやめた。そのことが、長嶋のことばに影響を与えているようだ。
 「身体」ということばが二度出てくる。「身体」を長嶋は「服を着て」「仕事」をすると定義している。「仕事」をするとき「服を着る」。「服」が「仕事」をしている。これは言い直せば、「服」で「身体」を隠しながら「カイシャの仕事」をしてきた、ということだろう。そして、ときどき「服を脱いで」、私は「こんな身体だ」と言って見せる。それが、これまでの長嶋だったのか、と思う。
 「おばさんの身体」は、こういう言い方は失礼になることを承知で書くのだが、どこか「怖いもの見たさ」を刺戟してくる。なんというか、「理想の身体」とは違うだけに、平気で批判できる。批判してもかまわない、という気分を誘う。長嶋は、そういう「気分」を誘っておいて、「批判できるなら、批判してみな」と反撃してくる。批判すると、返り討ちに遭うという「毒」を含んでいる。「毒」の魅力があった。
 どうも、その「毒」が弱くなっている。
 「カイシャ」に代表される「男社会」と戦う「場」を奪われたからかもしれない。「カイシャ」が長嶋を支えていた部分があったのかもしれない。「カイシャ」が長嶋におしつけくるものとと戦うことであらわになっていたものが、一歩後ずさりしたのかもしれない。「戦う相手」がいなくなったために、「毒」のまきちらしようがなくなったのかもしれない。
 気になったことばがある。最終連に出てくる「役立たず」である。二回繰り返されている。「仕事」の「役に立たない」ということだが、こういう批判に対して、これまでの長嶋ならどう向き合ってきたのか。
 二連目に「仕事をサボる」ということばが出てくる。「仕事をサボる」ことも仕事である、というのが「おばさんパレードの先頭をひっぱる」長嶋の生き方だったと思う。ことばの運動だったと思う。「仕事という服」を着せられたままじゃ窒息するよ。「身体」は生きてるんだから、好きなときに裸になって「身体」をさらしてみせる必要があるんだ、と言ったと思う。この「身体の主張」に対しては、「役立たず」という批判は、き下がるしかない。なんとういか、「身体」というのは、「役立たず」という批判をしているひとをもつくっているから、反論がむずかしいのだ。「身体」そのものの「定義」から始めなおさないと反論できない。だから、だまってしまう。長嶋は「身体」を主張することで「カイシャ(男)」の論理を笑い飛ばし、唾(毒)を吐いてきたのだ。
 それがいま「役立たず」に対して「毒」をまきちらす反論をせずに、「受け入れている」。「役立たず」というのは「カイシャがまきちらす毒(男の毒)」なのだが、それを「せんべい」のようにかじっている。この「身体」の有り様を、知らん顔して、超越していると言えば、言える。「男の毒」なんて、食べてしまえばいいだけなのだ。「男の毒」なんかで「身体」は壊れない。平気だもん。

 ああ、そうなんだろなあ。

 長嶋は「平気」というものを手に入れたのだ。「毒」に対して「毒」で対抗するというような、面倒くさいことをするよりも、「毒」を「毒」で食ってしまう。自分の「毒」さえものみこんでしまう、ということになるのかなあ。
 余裕だなあ。
 でも、これは、危険だなあ、とも思う。「干し柿」という作品。

渋柿をもらった
皮をむいてベランダに干す
いっしょに
わたしもベランダに干す

しわしわになって食べごろ
こんなに甘くなるんだったら
もっと前に干せばよかった

ベランダで
陽をあびて風にふかれ
水分が抜けていく
張りがなくなったこのからだ
いまさら甘くなったって

つやつやの渋柿のころがなつかしい
誰にもかじられず
ふくれっ面でななめ向いて
タバコふかしてエラそうにしていたあのころ

 「身体」は「からだ」と言い直されている。ここに、長嶋の大きな変化がある。
 この詩は、いわゆる「抒情詩」で、しかもその構造は、清水哲男とか松下育男とかが絶賛しそうな「敗北」の寂しさで読者をひきこむ。敗北を美学と考える「青春」、敗北することで「青春」を乗り越え、大人になるという論理。そこには、説明しにくいが、「資本主義」の「企業優先」の論理、「資本主義を受け入れることが成長を支える」というようないやあな感じが見える。会社を辞めた人間には、この美学は無縁なのだが……。でも、通じるものがある。「敗北」を差し出し、生き残るずるさ、それを「青春の悲しみ」と呼ぶ「嘘」が、「論理的」に書かれている。それが、いやなのである。
 こんな「論理抒情詩」は、長嶋には書いてほしくなかった。
 この詩を一篇だけ取り出して読んだときは、こんなことは感じないかもしれないが、詩集の中に収められ、「通奏低音」のような位置を占めているのを見ると、どうも気持ちが悪くなる。

 私は長嶋の詩が大好きなので、今回はあえて、この詩集は「大嫌い」と書いておく。詩集の「帯」に「新境地を示す新詩集」とあるが、これを「新境地」にしてほしくはない。




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「自己責任」では?

2020-08-13 09:31:53 | 自民党憲法改正草案を読む
「自己責任」では?
   自民党憲法改正草案を読む/番外376(情報の読み方)

時事ドットコムニュース(2020年08月13日07時07分)、
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020081200884&g=pol&fbclid=IwAR0ilMQbyuz4Y2uGQMUvRzflwtGhEZyhh7U1ETYexrC03jA6xr3NQ5bPNuc

安倍首相の夏休み、中ぶらりん コロナ禍で定まらず

 という見出しで、こんなことを書いている。

 お盆シーズンが本格化する中、安倍晋三首相の夏休みが中ぶらりんの状態になっている。地元の山口県入りを検討していたが、新型コロナウイルスの感染再拡大を受け、東京都の小池百合子知事が旅行や帰省の自粛を都民に呼び掛けたことで立ち消えになった。こうした状況で東京を離れれば批判を招きかねないとの懸念もあるようだ。

 安倍が夏休みをとれない、ということを淡々と書いているように見えるが。つまり、「事実」を書いているように見えるが。
 これって「事実」?
 コロナ感染が拡大している。小池が「旅行、帰省の自粛」を呼びかけた。安倍は、都内から出ることができない。
 「背景」もきちんと書いている。
 安倍がかわいそう、ということか。

 しかし、ここに書かれている「背景」の、その「背景」は? コロナ感染拡大の原因は?
①クルーズ船のとき、コロナ感染を封じ込める対策をとらなかった。
②感染が終息していないのに、非常事態宣言を解除した。
③二度目の感染拡大がはじまったのに対策をとらないばかりか、拡散要因になる「goto」キャンペーンを実施した。
④国会を開いて対策を検討すべきなのに、何もしていない。
 ほかにもいろいろなるが、これって、だれが指揮しないといけない問題?
 安倍がしないといけないことではないのか。

 簡単に言い直そう。
 安倍が夏休みをとれないのは、安倍がコロナ対策をとらなかったからだ。安倍の「自己責任」だ。
 自分のやるべきことをやらずに、国民に「自己責任」を求める。国民には、休業や移動の自粛、3密をさけ、健康管理するよう求めるくせに、安倍は国民から委託された権利(国会を開き、日本の問題を審議し、道筋をつける)を放棄し、「ぼくちゃん、夏休みがない。みんながぼくちゃんをいじめている」と駄々をこねている。
 そんなばかばかしい「甘えん坊の駄々」を批判せずに、安倍に同情している。

 マスコミの仕事って何?
 安倍にすり寄って、安倍から電通経由で広告をまわしてもらって、会社を維持すること? 自分の給料を確保すること?










*

「情報の読み方」は9月1日から、notoに移行します。
https://note.com/yachi_shuso1953
でお読みください。
 

#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 



*

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https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

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