詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

嵯峨信之『詩集未収録詩篇』を読む(99)

2020-08-31 20:33:29 | 詩集
* (ぼくの意識は収穫をあげているのだから)

ある日の開花

 「収穫」は「開花」と言い直されている。
 そうすると「開花」したのは「意識」だろうか。
 この詩の断片は、そうした「比喩」よりも「だから」という「論理」の方に深みがあるかもしれない。
 「だから」と説明しなくてはいられない苦悩。「論理」しか頼るものがないという苦悩が潜んでいる。




*

詩集『誤読』は、嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で書いたものです。
オンデマンドで販売しています。100ページ。1500円(送料250円)
『誤読』販売のページ
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私あてにメール(yachisyuso@gmail.com)でも受け付けています。(その場合は多少時間がかかります)

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読売新聞の嘘のつき方(安倍へのゴマのすり方)

2020-08-31 08:47:13 | 自民党憲法改正草案を読む
読売新聞の嘘のつき方
   自民党憲法改正草案を読む/番外384(情報の読み方)

 2020年08月31日の読売新聞(西部版14版)。1面「総括 安倍政権」の署名記事。きょうは編集委員・飯塚恵子。

戦後外交に区切り

 という見出し。そして、真っ先に書いているのが、これである。

 特筆されるのは、安全保障政策だ。集団的自衛権の限定的行使を可能にする新たな憲法解釈を行い、2015年、安全保障関連法を制定した。
 日本の近海で警戒監視にあたる米艦が突然攻撃されても、日本は何もできない。果たして米国民はこれを許すだろうか――。日米安保体制のこうした制約に、歴代政権は手を出せなかった。安倍政権は戦後の法制度に風穴を開け、海上自衛隊は平時から米艦を防護できるようになった。

 だが、これは「外交」なのか。「外交」の「交」は「交渉」である。外国からなんらかの「利益」を引き出すのが「外交」だろう。日本はどの国から、どんな「利益」を引き出したのか。
 北朝鮮や中国が、「日本が集団的自衛権を確立したから、日本へは攻撃しません」と文書で約束したのか。
 だいたい「集団的自衛権」は「日本近海」だけで行使されるのではない。アメリカが攻撃されれば、どここであれ、アメリカへの攻撃を「日本の存亡の危機」ととらえ、外国まで自衛隊を派遣し、アメリカ軍と一緒に(アメリカ軍と集団になって)戦うというものである。アメリカ軍一緒にというよりも、アメリカ軍の指揮下に入って戦争するということである。
 「戦争法(安全保障関連法)」は、だれの利益にあるかからみていけば、さらにはっきりする。「米艦を防護できるようになった」と書いてあるように、アメリカ軍の利益になるだけである。日本の利益はどこにあるか。「米国民はこれを許すだろうか」ということばが象徴的だが、「米国民から非難されない」というだけの利益である。
 いいかえれば「戦争法」は「安倍は何をやっているんだ」とアメリカから叱られたくないから、安倍が強行採決したのだ。「ぼくちゃん、アメリカから叱られたくない」というためのものにすぎない。
 「戦争」は、「外交」が失敗したときに起きる。戦争のすすめは「外交」とは相いれない。飯塚が書いているのは、「外交」ではなく「安全保障」の問題である。「戦後の安全保障のあり方」を変更したのが「戦争法」なのだ。そして、それは「憲法」を踏みにじっている。
 そして、このとき安倍は「国民」に対して何をしたか。「国会」で何をしたか。議論を封じ、強行採決をした。国内でさえ「議論封じ」でしか「自己実現」できない人間が、外国相手に「交渉」できるわけがない。国民と憲法は、安倍によって踏みにじられた。それが「戦争法」の制定である。
 「外交」でもなければ、「内交」(こんなことばがあるかどうか知らないが)でもない。「独裁政治」の強行である。つまり、「独裁」という「内政問題」が、このとき露顕したのだ。「独裁」がこのときから暴走し始めたのだ。

 2面には、こんな見出し。

北方領・拉致 解決遠く

 北方領土と拉致問題は、ロシア、北朝鮮が「交渉」の相手である。そういう具体的な「交渉」では何一つ安倍は引き出していない。
 北朝鮮とは「交渉」すらできていない。トランプに「ぼくちゃんのかわりに、金に言って」とアメリカに頼んでいるだけだ。
 ロシアとの交渉も傑作である。「経済協力」の名目で金をつぎ込んだ。そして見返りに北方領土4島のうち2島を返還して、と「交渉」しようとした。ところが、安倍の地元・山口での首脳会談直前、ラブロフが「金をロシアが要求したわけではない(だから、これは交渉ではない。2島返還はありえない)」と「交渉経過(裏話)」を明らかにして、プーチンとの階段前に「決裂」してしまった。だから共同声明も出せなかった。「外交」とはことばで成立させるものなのに、どんなことばも共有できなかった。
 金さえばらまけば、「交渉」に応じてくれるという安倍の「金ばらまき外交」はロシアには通じなかった。
 これが「安倍の実力」である。

 そして、この「金ばらまき外交」という点から、最初に書いた「戦争法」を見つめなおせば、なんのことはない、安倍は「アメリカ軍(と軍需産業)」にもっと金をばらまくと約束しただけなのだ。
 それは、いまもつづいている。「陸上イージス」は飼わないことにしたが、きのうの読売新聞はそれにかわる「ミサイル防衛体制」を報道していた。ミサイルをどう調達するか書いていないが、アメリカから買うのだろう。アメリカに金をばらまきつづけ、アメリカに「安倍はよくやっている」とほめてもらう。これが安倍のやっている唯一の「外交」である。「安倍の利益」のための「金のばらまき」である。

 「外交」の「定義」もせずに、ただ安倍をもちあげることだけを考えて書いているから、こんなでたらめな「評価」になるのだ。そして、このむちゃくちゃな「評価」は、結局、読者に対して嘘をつくことなのだ。
 傑作は、

首相が辞任表明した28日、モリソン豪首相は長文の声明を発表した。「安倍首相は世界を代表する政治家であり、開かれた貿易の積極的な推進者である。日本が誇る傑出した外交官でもある」とし、特に、首相個人の「指導力とビジョン」をたたえた。

 である。
 首相が辞任すれば、よほどのことがないかぎり、ひとは安倍を称賛する。オーストラリアのように、日本が大事な貿易対象国(交渉相手)であれば、なおさらである。豪州牛を買ってくれなくなったら困る。だから「開かれた貿易の積極的な推進者」と讃える。モリソンはちゃんと、「自己主張のことば」を盛り込んでいる。こういうことを「外交」というのだ。

 飯塚は、「外交」とは何か、すぐれた外交にはどういう具合にことばがつかわれているか、それから学びなおすべきだろう。安倍の「外交」を称賛するなら、安倍の「ことば」を引用すべきだ。どういう「ことば」でどういう「成果」を引き出したか。「外交」は武力ではなく「ことば」でおこなうもの。「名言」ひとつ提示できない「すぐれた外交(官)」は存在しない。
 









*

「情報の読み方」は9月1日から、notoに移行します。
https://note.com/yachi_shuso1953
でお読みください。
 

#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 



*

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小池昌代『かきがら』

2020-08-31 00:00:00 | その他(音楽、小説etc)


小池昌代『かきがら』(幻戯書房、2020年09月11日発行)

 小池昌代『かきがら』は短篇集。7篇収録されている。「ブエノスアイレスの洗濯屋」というタイトルに惹かれて、まず、その作品を読んだ。
 ブエノスアイレスが直接登場するわけではなく、主人公の働いている洗濯屋の親方の祖先の末裔がブエノスアイレスで洗濯屋をやっている、という具合に登場する。直接小説の「舞台」になっているわけではない。
 で。
 こんなことから書き始めたのは、実は、この小説が「ブエノスアイレスの洗濯屋」のような「ことば」と、その「ことばをとおして想像すること」を、とても巧みにつかうことで成り立っているからである。このタイトルは、ひとつの「象徴」のような働きをしているのだ。
 「ことば」と「ことばばをとおして想像すること」というのは、いくつも書かれるのだが、象徴的なことにしぼって取り上げると。
 主人公(空也)が住んでいるビルには「おにぎり屋」がある。このおにぎりをつくることを、空也は「むすびかた」と言う。「おむすび」といういい方があるから、それを踏襲したものだが、それを聞いておにぎり屋の店員(ヒロノブ)は、

「つくりかたじゃなくて、むすびかたか。あんた、微妙なことを言うね」

 と感想を漏らす。言っていることはわかるが、「微妙」な違いがある。それは「ずれ」というのでもないなあ。むしろ、逆に「重なり方」「一致の仕方」というものである。
 そういうことが、いくつものことばが出会いながら「重なり」(一致)を深めていく。「ことば」が重層的になるとき、世界が重層的に、立体的に見えてくるという構造になっている。
 洗濯屋にはアイロンがつきもの。空也はアイロンをかけることを仕事にしている。アイロンは「皺」をのばすためのものである。おりぎりは手で握る。その掌には「皺」がある。もちろん掌の「皺」はアイロンでのばすものではないが。
 おにぎりは素手で握ったものがおいしい。「雑菌が調味料」の役割をする。アイロンも完璧に皺がなくなってしまってはいけない。

人間の手作業の「雑味」というものを、残すくらいが、いい仕事だ。

 「雑菌」が「雑味」と言い直されて、アイロンがけとおにぎりをひとつに「結ばれる」。
 キーワードがつぎつぎに変化して、世界がなんとなく重なりひとつになる。このときのキーワードを小池は「雑味」のように、括弧で強調するときもあれば、クライマックスででてくる「人肌」のような、括弧なしでつかうこともある。
 人が死ぬとき、手を握る。そうすると、命が延びる、生きている人から死んでいくひとに向かって血が流れ、同時に時間が逆流するように、死のうとしているひとが引き返してくる感じがある、とヒロノブがいう。その話を聞かされた空也が、ヒロノブに手を握らせてくれ、と頼む。

空也の手から、ヒロノブの手へ、静かに移動していくものの気配があった。空也の手はつめたく大きく、ヒロノブの手はあたたかく小さい。ヒロノブも空也も、久しぶりに人肌に触れた。炊きたての白米とはばかに違う。アイロンの取っ手とはまったく異なる。人の肌。人の肌は。

 この短篇は、この「人肌」の発見、あるいは「人の肌」に「触れる」という、ちょっとなつかしいようなものをことを発見するまでのことを描いている。このあとで、空也は、

空也は初めて、親方の「親戚」に思いを馳せた。(略)合ったことのないブエノスアイレスの洗濯屋を、空也は今こそありありと身の近くに感じた。

 ことばが重なり、それが世界を、他人を身近にする。ことばがあって、ことばをとおして想像することで「ありあり」が初めて存在する。
 それが、先に引用した「雑味」のようなことばをぽつんぽつんとつなぎながら語られていく。括弧のないものも含めて引用すると、「後屈」「事実婚」「果皮(老婆)」「砧/皺」「見えない人」「降臨」「旧世界」などである。どれも「ありあり」を浮かびあがらせるためのことばである。
 補足すると「見えない人」とはドガの「アイロンをかける女・逆光」の絵について触れたところに出てくることばであり、それがブエノスアイレスの「見たことのない人」へとつながり、「旧世界」は富士山が爆発する前の世界をさす。つまり、この小説は、現代が舞台ではなく「未来」が舞台なのである。
 「未来」と断ることで、「ことば」にかかる圧力を軽減し、「ことば」と「ことばを通して想像すること」の関係が巧みに語られるのだが、気になるのは、その語り方があまりにも巧みでつまずきがないことである。書いているうちに「ことば(キーワード)」が生まれてきたというよりも、最初から「キーワード」を散らしておいて、それをつないでいったのではないかという印象がしてしまう。それはそれでひとつの方法なのだと思うが、私が散文を読むときに感じる興奮とは相いれないものである。だから「巧み」という印象が真っ先に出てきてしまった。








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