詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

山本育夫「しのふことは」

2021-09-01 10:27:18 | 詩(雑誌・同人誌)

山本育夫「しのふことは」(「妃」23、2021年08月21日発行)

 山本育夫の詩は「博物誌」で読み続けてきた。「博物誌」の最新号も最近発行されたのだが、きょう読むのは「妃」に発表された「しのふことは」。
 で、読むのは読んだのだが、感想を書こうとして、私は戸惑うのだ。詩が「清潔」になっている。それが「妃」という「場」の力のような気がする。私は、その詩がどこに書かれているかはあまり気にしたことがない。手書きであろうと活字であろうと気にしない。つもりだった。しかし、妙なのである。この「妃」に発表された詩は。
 山本の詩で一番印象に残っているのは『ヴォイスの印象』である。それは茶色っぽいざら紙の上に印刷された非常に読みにくい詩集だった。誤字脱字の「正誤表」までついていて、それを引き合わせながら読むのも面倒だった。まだ若いときに読んだからよかったが、目が弱くなった今なら読んだかどうかわからない。で、その読みにくい詩集。そのなかで、ことばが頑張って生きている。ことばをかき消しにくる「ノイズ」にあらがって、声をことばの奥から振り絞っている、という印象があった。
 「博物誌」に発表されている詩も「ノイズ」と戦っている。あるいは「ノイズ」そのものになろうとしている。ぐちゃぐちゃ。活字の大きさが違ったり、連構成になっているのか、レイアウトの都合で二つに分けているのか、なんだかよく分からない。面倒くさいものに出会いながら、そこにあることばを見つけだして、私の肉体のなかに取り込んで、そのことばになって動いてみる。そのときの肉体感覚、セックス感覚のようなものが、「妃」ではどうも伝わってこない。
 「01 たいらな 干潟」を引用してみる。

引喩 か はかれた
ことは
か ならんている
夏の 干場 えんえんと

ときに 干からひて
ささくれも
めたつ
(遠く潮の匂う理髪店か つなかれている

問題は
ささくれ

に つきてる レリーフみたいな
ことは
イメージ する る
あるいは 横に すへる
ことは は を

それか はしまり

 「干場」「問題」という漢字でかかれたことばには濁音があるが、ひらがなには濁音がない。濁音はないが、意味を追いかけるときは濁音つきのことばで追いかけてしまう。追いかけしてしまうけれど、追いついたら、その瞬間に濁音が奪いさられ、清音に戻る。これが、いやあな感じ。清音が濁音にかわったときの、「ノイズ」のいやらしさではなく、漂白されてしまったいやらしさ。濁音が嫌いという人もいるが、私は濁音を発音するときの喉の解放感が好きである。抑圧感がない。で、この山本の詩の濁音隠し、清音の強要は、どうも私の肉体を拘束してくる。自由がなくなる感じがする。
 「博物誌」のように、紙面の周辺に(あるいは活字そのものに)「ノイズ」があれば、それに肉体を任せ、清音を、遠い声として聞くことができるかもしれないが、清潔な(高貴な?)「妃」の紙面の中では、この清音はほんとうにいやあな感じしかしない。
 というのも。

イメージ する る

 この一行の、「イメージ」ということばのなかにある濁音の力が、「する」というこばのなかから「る」を追い出していく。「る」をこぼしてしまう。ここには、いつもの山本の「ノイズパワー」がある。その一瞬に私の肉体は安心するが、安心するという一瞬があるからこそ、他の部分の「清音」の強要が、いっそう窮屈な「拘束」に感じられてしまう。
 「03 ならへる」の

こともたね
たね
たね

みんなて うなつく
音かさ



 という展開は、まあ、美しいんだけどね。あ、これが書きたかったのかと思ったりもするし、ここから書き始めれば「おと に/ききみみたてて/すきゅん」という部分に感動したとも書けるだろうけれど、それはなんだか書きたくない。

 私が書いていることは感想でも批評でもないかもしれない。私は、どこかで、そこにあることばに対して拮抗する「ノイズ」そのものでありたいという気持ちがある。私という音によって、そこにあることばが、それまでとは違った音に変わっていく、その瞬間のなかへ入っていきたいという気持ちがある。私も変わるし、そこにあることばも変わる。セックスのようにね。でも、「妃」の作品では、もしセックスというものが可能だとしても、それは山本の愉悦をガラス越しに見ているというような空々しさがある。

 

 


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「沈黙作戦」は、ここまできた。

2021-09-01 09:17:45 | 考える日記

「沈黙作戦」は、ここまできた。

 8月31日の読売新聞夕刊(西部版・4版)、
↓↓↓↓
(見出し)二階幹事長 交代へ/衆院選10月17日検討

 それが9月1日の朝刊(西部版・14版)
↓↓↓↓
(見出し)首相、9月中旬解散意向/衆院選10月17日投開票
(記事) 菅首相(自民党総裁)は31日、党役員人事と小規模な内閣改造を6日にも行い、9月中旬に衆院解散に踏み切る検討に入った。衆院選は10月5日公示・17日投開票の日程とし、自民党総裁選(9月17日告示・29日投開票)は先送りする意向だ。ただ、総裁選の先送りには反発が必至で、総裁選を行った上で「任期満了選挙」とする案も残っている。
 複数の政府・与党幹部が明らかにした。総裁選前のタイミングで人事を行うのは極めて異例。人事を刷新し、求心力を回復したい考えだ。二階幹事長は交代させる。党副総裁への起用を求める声が一部にあるものの、処遇しない方向だ。

 なぜ、突然の二階の「更迭(?)」があり、それが衆院選とセットになっているかは、岸田が二階の任期が長いのに反発し、幹事長は「任期1年、3期まで」という方針を打ち出して総裁選に出馬するからだ。
 菅は、二階が総裁選の争点になることを避けるため(不人気の要因を外すため)に、二階を更迭することにしたようだ。
 ここから思い出すのは、安倍のやった平成の天皇に対する「強制生前退位」。安倍は、天皇を沈黙させ、さらには国民を沈黙させるという「沈黙作戦」を展開した。国民の議論を封じる、民主主義の根幹である議論を封じ、沈黙の中で自分の思いのままの「独裁」をすすめるという作戦。それを引き継いだ菅は、自民党内部の異論を封じる「沈黙作戦」へと転換させた。
 菅はすでに「政府の方針に反対する人間は異動(左遷)させる」と明言していたが、官僚だけではなく自民党議員をも沈黙させようとしている。議論さえ封じれば、いったいどこに問題があるのか、誰にもわからなくなる。幹事長が長期間同じ人間だとなぜ問題なのか、二階が幹事長をやっている間にどんな問題が起きたのか、そういうことが議論を通して明確になる機会がなくなる。
 総裁選をめぐる動きは「自民党内部」の問題に見えるが、そうではない。この反対意見が「表面化」するのを防ぐ、反対意見を沈黙させるという作戦は、どこまでも拡大していく。
 それは次の記事からもわかる。
↓↓↓↓
(見出し)臨時国会見送り野党に方針伝達
↑↑↑↑
 野党はコロナ対策の予算の積み増しのために臨時国会を求めていたが、政府は5兆円の予備費の半分が残っているから不足しないという理由で国会開催を拒んでいる。
 国会はコロナ対策はもちろんだが、アフガン問題など、いろいろ議論しなければならないことがあるはずである。議論の過程で菅の政策ミスが追及されるだろう。そういうことを避けるため、菅の失敗が「言論」として明確になることを避けるために国会を開かない。安倍が責任を追及されるのを恐れて国会を開かなかった「沈黙作戦」が継承されているのだ。

 二階更迭をめぐる問題は、自民党内部のごたごたですむのではなく、国民全体が「沈黙させられる」ことにつながる。そして、それは「天皇強制生前退位」からの、同じ流れなのである。

 それにしても。
 若者への抽選ワクチン接種もそうだが、若い世代(国会議員は年齢的には若くはないかもしれないが)はなぜ声を上げないのか。議論しないのか。ネットでは誹謗中傷があふれているようだが、もっと現実の場で声を上げるべきだろう。ワクチン接種の抽選会場で座り込み抗議をするとか、会場で(あるいは近くで)小池批判演説をするとか、二階更迭の前に岸田が提唱した幹事長任期問題を議論しろとか、なぜ、言わないのか。
 権力ににらまれるのが「怖い」というのはわからないでもないが、権力に対して無言でいれば「出世」できるというわけではない。抽選に漏れて、黙って家に引き返したからといって小池が「正規雇用」の職を斡旋してくれるわけではない。菅のイエスマンをやっていれば幹事長に抜擢されるわけではないだろう。
 若者が「怒りのことば」をなくしたのは、これも安倍が始めた「沈黙作戦」の絶大な効果かもしれない。天皇さえ沈黙させられた、国民は政権に異議を言うことが許されない、という意識が浸透してしまっているのかもしれない。
 菅は、このまま「沈黙作戦」を強行すれば、総裁選も衆院選も勝利できると確信している。ばかばかしく、また恐ろしいことだが、私は半分以上の確率で、菅の「沈黙作戦」は勝利をおさめると思っている。(予想がはずれてほしいが。)野党があまりにもだらしないし、ジャナーリズムが菅を応援しているからである。きのうも書いたが、読売新聞は、国会開催の重要性、議論こそが民主主義の基本であるということにそっぽをむいて、菅のよいしょだけをしている。
 オリンピックもパラリンピックも、議論を封じる形で開催が強行された。開催への賛否の議論は、観客を入れるか無観客にするかという議論にすり替えられた。菅でいいのか、という議論は、二階をやめさせるという議論にすり替えられた。そして、これからは総裁選は衆院選の後がいいのか、その前がいいのかという議論にすり替えられていく。だれが相殺にふさわしいかという議論がなくなれば、必然的に「現職」が有利になる。その菅の狙い通りに政治の世界が動き始めている。
 「沈黙作戦」を許してはいけない。

 

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