詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

たけむらさとし「庇」、八城裕貴「子どもたち」

2021-09-28 10:05:38 | 詩(雑誌・同人誌)

たけむらさとし「庇」、八城裕貴「子どもたち」(「現代詩手帖」2021年10月号)

  たけむらさとし「庇」は投稿欄に掲載されている作品だ。小池昌代、岡本啓のふたりが選んでいる。短い作品。

向こう岸にわたる飛び石の上で女の子が川面を覗いている。おんなじようにしてみると逆立った髪の毛の下で青黒く笑っている他人のような自分が流されずにこっちを見ていて胸元に水草と苔のついた石も空き缶まで抱えていて、そこから銀色の魚が逃げていった。
ときどき混ざる冷たい風は、その影の外へ僕の顔をおしている。

 「おんなじように」から始まる長い文章がとてもおもしろい。視線の動きをそのままつなげて、視線が動くままにしている。「抱えていて、そこから」という部分に読点があるが、これは読みやすくするためか、あるいは書きやすくするためか。読点なしの方が、よりおもしろくなったと思う。
 というのは。
 「他人」と「自分」がここでは区別がない。その区別のなさが自分の胸と川底の石、いや空き缶か、と重なり、他人なのか自分なのかわからないものが魚となって逃げていくという感じは区別のなさがない方がいいと思う。読点によって意識をととのえると、この微妙な動きがそこなわれるとまでは言わないけれど、あ、もう一度読み返してみたいという気持ちが少し薄れる。
 一呼吸でつづく不思議な連続性。どこかでずれ、どこかで重なる。そのまま意識で再現できないけれど、何かが動いたという感じ、意識が肉体の無意識のように動いていて、そこに私の肉体ではないたしかな別人の肉体を感じる。
 小池はほかにも短い詩を選んでいる。八城裕貴「子どもたち」。

子どもが鳴いている、
深い、
草の匂いのなかで。

夏は子どもたちのなかで傾き、
すべての心理が
すべりおちていった。

大きくなった主体が鳴きごえのなかをすすんでいる。

 たけむらの作品と「相似形」をなしている。ともに自分ではないもの「女の子」「子どもたち」をとおりぬけて、そのときに「胸」「心理」が動いている。たけむらは「水底」とか「水のなか」ということばをつかわず、「影の外」と「外」ということばをつかうことで、「内」を暗示しているが、八城は「なか」を三回もつかって強調している。八城の方が論理性が強い。あるいは何を書きたいかということに対する意識が強い。そして、それがあまりにも整理されすぎているので、もう一度読んでみたい、という感じがしない。かといって続きが読みたい(先が読みたい)という感じでもない。「心理」「主体」ということばがうるさくて、あ、ここで終わってよかった、という感じがある。
 これに対してたけむらの作品は、「外」ということばが出てきて、広がりを感じさせるにもかかわらず、「外」、あるいはことばの続きではなく、いま読んだばかりのことばのなかへ引き返し、もう一度読んでみたいという気持ちを起こさせる。つづきがあるとすれば、その読み返したことばのなかにある、読んだけれど、私にはきっと読み落としがある、それを見つけたい、という気持ちに誘われるのだ。
 どちらが好きか、と言えば。
 私は間違いなくたけむらの作品を選ぶ。何かよくわからなかったが何かが書いてあるのはたしかだ。それをもう一度読んでみたいという気持ちにさせられるからだ。

 

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