詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

「パイドン」再読(2)

2022-01-10 22:07:23 | 考える日記

「パイドン」再読(2)(「プラトン全集」1、岩波書店、1986年6月9日第三刷発行)

われわれが生身の肉体をもち、われわれの魂がそのような悪にすっかり混じり合っている(184)

ということばは、こう展開していく。

魂の、肉体からの解放と分離が、死と名づけられている、のではないのか(188)

 「分離(する)」だけではなく「解放(する)」ということばがつかわれており、「解放(する)」を方が先に書かれている。「解放する」は「自由にする」である。これは「悪」から「解放する」という意味である。
 ここから、あの有名な、つぎのことばが生まれる。

ただしく知を求めるひとは、まさに死ぬことを練習している(188)

 論理としてはわかるが、「魂」の存在を認識していない私には、これは「空論」。実感できない。困ったときは「ソクラテス先生」と呼びたくなるのだが、どうしてもついていけない。「魂」ということばをつかうと、「生身の肉体」を裏切るような気持ちになる。
 では、どうするか。
 前の日記で「思惟のはたらき/ことばの運動」と書いたが、これをそのまま「魂」のかわりにつかえるのではないのか。
 「思惟のはたらき/ことばの運動」が「生身の肉体」から「分離」されて、「運動」として残る。言い換えれば、書かれた(記録された)「ことばの肉体/思惟のはたらき/ことばの運動」が「生身の肉体」から分離されて残る。これは、実際に「見る」ことができる。たとえば、死んでしまった人の「日記」「文章」。それが「肉体のことば」である。そして、そういう「肉体のことば」は「生身の肉体」から「切り離されてしまう」(分離されてしまう/分離する)と、誰でもが自由につかえる。もちろん「自分のことば」ということはできないが、その「他人がつかったことば」をつかいながら、「生身の肉体」は「思惟の肉体/ことばの運動」を展開できる。
 私が実際にやっていることは、これだ。
 いまもソクラテスの「生身の肉体」から「分離したことばの肉体」を借りながら、私の「思惟」を動かしている。ソクラテスの残した「肉体のことば」を自分の「肉体のことば」動かす手がかりにしている。
 ソクラテスから「分離したことばの肉体」は、「自由」にかって動いているわけではない。かってには動けない。別な人間が(たとえば私が)、ソクラテスの「意図」とは無関係に動かすということもできるのである。それはソクラテスのことばにとっては「解放」ではなく、新しい「拘束」だろうなあ。そして、その「拘束」はソクラテスのことばの方からやってくることはできない。私がソクラテスのことばを思いださない限り、存在しているとは言えない。
 「解放」とか「自由」ということばは、違うなあ、と思うのである。

 これはもちろん、私の考え方(ことばの運動)が間違っているから、そうなってしまうのだということかもしれない。

 しかし、まあ、私は自己中心的な人間であるから(この世界に確かに存在するといえるのは私の肉体だけと考える人間だから、自分の都合のいいようにソクラテスを引用する。

われわれが学び知るというのは、じつは想起にほかならない(206)

 何か知っていることを思い出すのである。そのとき、私が思い出すのは「魂」というものではない。もっと具体的な人間の動きである。生きている人間は、動いている。そして、そのとき動いているのに「生身の肉体」だけれど、「他人の肉体の動き」を見ると、自分の「肉体」も動く。そこから、こういうことが起きる。
 たとえば、道で誰かが腹を抱えてうずくまっている。それう見ると、自分が腹を抱えてうずくまったときのことを思い出す。そして、腹が痛いのだと思う。「ことば/思惟」はこの人は腹が痛いのだと動く。
 これはわかりやすい例だが、ほかのときだって、きっとこれに似ている。自分の知っていることを、他人の肉体を通して思い出す。これはソクラテスの書いている「想起」とは少し違うかもしれないが、「想起する」のは自分の知っていること、体験していることだけである。
 「ことばの肉体」を引き継ぐとき、「ことばの肉体」を「想起する」ときも、きっとこれだな、と思う。そのとっかかりのようなものの「数」を増やしていくというのが「学ぶ」ということだろうなあ。自分の肉体と他人の肉体の重なる部分を増やし、他人が感じているかもしれないことを「ことば」で獲得していく。「ことばの肉体」が「生身の肉体」をときにはリードして何かを教えてくれるということもある。それが「学ぶ」であり、「知る」だろうなあ、と思う。
 「学ぶ」というのは「想起する」練習なのだ。

 ことばが走りすぎた。きょうは、ここでやめておこう。

 

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