ガルシア・マルケス 文体の秘密(2の追加)
『Cronica de una muerta anunciada (予告された殺人の記録)』の109ページ。前回書いた、次の文章。
Le habló de las lacras eternas que él había dejado en su cuerpo, de la sal de su lengua, de la trilla de fuego de su verga africana.
私は、この部分が本当に好きだ。マルケスの文章の特徴をあらわしている。構造がわかりやすいように書き直すと、こうなる。
Le habló de las lacras eternas(que él había dejado en su cuerpo),
de la sal de su lengua,
de la trilla de fuego de su verga africana.
一行目、que以下は「las lacras eternas」の説明なので省略する。この(que él había dejado en su cuerpo)は厳密に言うと違うが、読んだときの印象としては、二行目、三行目のあとにもつづいているように感じられる。同じことばを繰り返したくないから一行目だけに書いている。
彼女は話した。何についてか。あらためて、そこだけ取り出す。
de las lacras eternas
de la sal de su lengua
de la trilla de fuego de su verga africana
ことばがだんだん長くなっている。一行目と二行目は見た目が同じ長さに見えるが、二行目には「de」が二回。最初の「de」は「habló de」だから、実際は、一回。一行目が「形容詞/eternas」だったが、二行目は「名詞」になっている。名詞が二個。
三行目は「de」がもう一回増えている。さらに長くなっている。名詞が三個、形容詞が一個。
でも、長さを感じさせない。
なぜか。一行目で想像力をかきたてられ、二行目でそれが加速され、三行目で暴走していく。
わいせつな「妄想」というのは、一度火がつくと、簡単にはおさまらない。それだけでなく、加速したことにひとはたいてい気がつかない。
この「妄想力/想像力」をマルケスは利用している。リズムがいいのだ。
これが逆だったら、きっとつまらない。
Le habló
de la trilla de fuego de su verga africana
de la sal de su lengua
de las lacras eternas
違いが鮮明にわかるでしょ?
マルケスは、口語のリズムを活用しているのである。そこにマルケスの文体の魅力がある。