詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

ウェス・アンダーソン監督『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(★★★★)

2022-01-29 15:01:25 | 映画

ウェス・アンダーソン監督『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(★★★★) (2022年01月28日、中州大洋、スクリーン2 )

監督 ウェス・アンダーソン 出演 手作りのセット、いろんな人たち

 たいへんたいへんたいへんたいへんたいへん、おもしろい。でも、★ひとつ減点。だってさあ、最後の最後で、おもしろさを「解説」してしまっている。シェフが記者に答えた「セリフ」。「毒は、とてもうまかった。初めての味だった」と言わせている。しかし、その「初めての味」はぜんぶことばにできる。つまり「知らなかった味」ではなく「知っている味」の組み合わせ。つまり「組み合わせ方」が新しかったのだ。そして、この「解説」は単に「解説」しているだけではなく、長くなるからと言って切り捨てた「記事」を拾い上げてみたら、そこに書いてあった。それを「採用する」という手の込んだ仕掛けなのである。
 この「手の込んだ仕掛け」をいちいち言っていてもしようがない。でも、いちいちいわないとほんとうは「味わった」ことにならない。シェフが「毒の味」をひとつずつ語ったようにね。私は、そういうことは好きだけれど、大嫌いでもある。めんどうくさいからね。なかには「知らない味」もあり、それを書かないと、きっと「あの味が抜けている」ということを言う人がいる。まあ、それでいいんだけれど。
 「正確」がどうかわからないが、ひとつだけ書いておく。
 この映画ではセットが魅力。ほんものそっくり、というのではなく、手作り感がある。つまり、セットとすぐにわかる。そこに、「手作り」して遊んでいる感じがあって、とても気持ちがいい。できた料理を、入り組んだ階段をのぼって届ける。その、なんでもないけれど、単純で変な入り組み方の「リズム」。瞬間的に、ジャック・タチを思い出した。「ぼくの伯父さん」だったかなあ、パリの下町、入り組んだ街の高いところに住んでいる。その「住処」の雰囲気に似ているねえ、この手作りのセットの感じ。「ぼくの伯父さん」は、自分の家を出るときに、遠く離れた建物の鳥籠の鳥に、鏡で太陽の光を反射させて合図する。朝を送る。そのシーンが私は大好きだが、そういう「誰の迷惑にもならない自分だけの遊び」という感じが全体を支配していて、それがとっても、とっても、とっても、とってもいい。
 でもね、これは、やっぱり言ってはいけないことなんだと思う。言いたいけれど、ぐっとこらえて、ときどき、ついもらしてしまうという感じくらいがいい。最後にまとめて言ってしまっては、「わからないやつは馬鹿だ」といわれた気持ちになる。まあ、言われたって、平気だけれど。
 役者も、みんないいなあ。「演じない」ことを演じている。あるいは「演じる」を演じていると言えばいいのか、よくわからないが。登場人物になってしまわない。つまり、「役(登場人物)」を見ているというよりも、役者をみているという感じにさせてくれる。「登場人物」なのだけれど、登場人物であることを忘れさせて、この人、こういう人だったんだあと錯覚させてくれる。「あれは、役なんですよ。私じゃないんですよ」「えっ、でも、あなたにしか見えない。役じゃないでしょう」というような、とんちんかんな会話をしてしまいそう。そのうちに役者の方で、まあ、どう見るかは観客の自由だけれどという声をもらすだろうなあ。
 というような、どうでもいいことまで、私は考えてしまう。感じてしまう。この妄想している時間が楽しい。映画を忘れる。(笑い)
 映画にもどると。
 最初に「料理」が出てきて、最後にもまた「料理」が出てくる、という、「ほら、きちんと終わったでしょ」という感じも好き。
 最後の「ことばの解説」がなければ、★10個つけたいけれど、と思いながら★4個。こんな変なことで悩むというのも、まあ、快感ではあるね。

 

 


**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、skypeでお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。

★skype講座★
随時受け付け。ただし、予約制(午後10時-11時が基本)。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

**********************************************************************

「詩はどこにあるか」11月号を発売中です。
142ページ、1750円(送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
リンク先をクリックして、「製本のご注文はこちら」のボタンを押すと、購入フォームが開きます。

https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=1680710854

(バックナンバーは、谷内までお問い合わせください。yachisyuso@gmail.com)

オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

なぜ、期間短縮?

2022-01-29 13:56:01 |  自民党改憲草案再読

 読売新聞の、次の記事。

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220128-OYT1T50179/ 

濃厚接触者の待機期間、7日間に短縮…首相「社会経済活動とのバランス取る」

 岸田首相は28日、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」対策として感染者の濃厚接触者に求める待機期間について、現在の10日間から7日間に短縮すると表明した。エッセンシャルワーカーは2回の検査を組み合わせ、5日目に解除する。首相官邸で記者団に語った。
↑↑↑↑↑
 これは、あまりにも状況を無視した政策だ。感染者が現象に向かっている、ワクチンの接種が進んでいるという状況なら、まだわからないでもないが、感染者は急増している。28日の感染者は8万人を超えた。それなのに、3回目の接種をすませた国民は、たった2・7%にすぎない。
 私の知っているスペイン人は、3回目の接種を受けているが感染したという。2歳の孫が感染したという人もいれば、家族6人が感染したという人もいる。私でさえ、そういう情報をもっているくらいだから、政府はもっと情報をもっているだろう。
 いまは、濃厚接触者の待機期間を短縮するかどうかではなく、ワクチン接種をどれだけはやく進めるか、それを考えるべきだろう。
 なぜ、突然、こういうことを打ち出したのか。

 岸田首相が28日、首相官邸で後藤厚生労働相らと協議して決めた。オミクロン株の感染拡大で濃厚接触者も急増し、職場を欠勤する人が増えているため、一定の感染拡大リスクを受け入れつつ待機期間を短縮しなければ、医療機関や企業の業務継続が困難になると判断した。
↑↑↑↑↑
 「医療機関や企業の業務継続が困難になる」と書いてあるが、医療機関の問題なら、医療機関に限定して期間を短縮すればいいだろう。医療ではなく「企業」が問題なのだ。
 安倍が登場して以来、情報操作で株は上がったかもしれないが、実質的な経済は悪化をたどっている。円高でも売れるヒット商品が何もない。円安が進むから、輸出商品をもっている企業は潤うが、輸入品を加工して販売している企業は赤字になり、それが日本で消費される商品の値上げにつながっている。国民は、どんどん貧乏になっている。「企業の業務」を優先するために、貧乏な国民は健康を無視して働かされる。そして、実際に、働かなければさらに貧乏になる、なけなしの貯金を取り崩し生きていくということになる。 あまりにもひどい。
 すくなくともワクチン接種3回が、国民の過半数になるまでは、まず感染防止を最優先に考えるべきだろう。

 さらに、米軍関係者の外出制限を31日で解除するとも言う。感染状況が改善しつつある、というのが理由だが、米軍関係者が市中で感染し、ふたたび基地内で感染が爆発し、それがさらに市中に広がるとは考えないのか。

 で。
 コロナとは一見関係ないのだが、こういうニュースもある。

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220128-OYT1T50176/ 

「佐渡島の金山」世界遺産推薦へ、首相表明…韓国は相星駐韓大使を呼び抗議

 岸田首相は28日、「佐渡島の金山」(新潟県)を世界文化遺産の候補として国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)に推薦する方針を発表した。来年の登録を目指し、2月1日の閣議了解を経てユネスコに推薦書を提出する。
 首相は首相官邸で関係閣僚と協議後、「早期に議論を開始することが登録実現への近道との結論に至った」と記者団に述べた。
 昨年12月、佐渡島の金山が国内推薦候補に選ばれた際、文化庁は「推薦の決定ではなく、今後政府内で総合的な検討を行う」と異例の付言をしていた。
↑↑↑↑↑
 一時は「推薦見送り」と報道されていたが、方針転換である。何があったのか。読売新聞は、こう書いてる。

佐渡金山推薦、政権安定へ保守派に配慮…首相が「正面突破」

 岸田首相は28日、「佐渡島さどの金山」を世界文化遺産候補として、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)に推薦すると決断した。反発する韓国への配慮などで先送りすれば、自民党内や保守層の理解が得られないと判断し、「正面突破」を選んだ。
 「色々な意見があった。それぞれの立場で色々なことを言っていたが、冷静に検討を続け、判断した」
 首相は28日夜、首相官邸で記者団に、こう強調した。これに先立ち、推薦を求める「立場」の安倍元首相にも電話で自ら説明した。安倍氏は「いい判断だと思う」と評価したという。首相は表明後、「自分一人で決めた」と周囲に漏らした。
↑↑↑↑↑
 なぜ、安倍に電話で説明しなければならないのか。
 安倍との対立を避ける、ただ、その一点だろう。何も考えていない。対立を避けると書くと、まるで岸田が自分で何事かを判断しているように見えるが、そうではなく、安倍の指示に従っているということだろう
 コロナ対策も、岸田が主導しているのではなく、アベノミクスの安倍が主導し続けているということだろう。
 安倍と、安倍をよいしょしつづける読売新聞のために、日本はひたすら「壊滅」へ向かっている。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする