詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

江里昭彦「風さえも共犯者となり船が岸を去るのを助けた」

2022-12-05 23:18:28 | 詩(雑誌・同人誌)

江里昭彦「風さえも共犯者となり船が岸を去るのを助けた」(「左庭」51、2022年11月25日発行)

 江里昭彦「風さえも共犯者となり船が岸を去るのを助けた」は俳句である。しかし、古典的な俳句ではない。

出航やわが血液も唄いだす

正面に長患いの城がある

 「古典的ではない」と書いたが、「古典的」かもしれない。いまそのものを感じさせることばがない。確固としたイメージがある。響きが鍛えられている。
 こういう俳句について感想を書くのはむずかしい。「意味」を語り直してみてもはじまらない。

呪詛として岬でひらく十指かな

 「血液」「長患い」「呪詛」とつづけば、闘病している人間を思う。「血液」が、古い病気といっていいのかどうか分からないが「結核」を連想させる。結核患者が病棟を抜け出して、岬で風に吹かれている。吐血したとき、血を受け止めた手、その指を開いてみる。運命を見る感じか。などと、つづければ、何か、どんどん「悲劇的な意味」がつながってくる。それも、第二次大戦までの、古い感じの風景として。
 まあ、これは、何と言うか、江里の「体験」ではなくて、私の「読書体験」をかたるようなものだが。
 あ、ことばというのは、誰のことばか分からないが「過去」をもっているんだなあ、どうしても「過去」から逃げきれないものなんだなあ、と思う。といっても、これはあくまで私のことばが「過去」から逃げきれないのであって、江里は振り切って別の時間を生きているのかもしれないのだけれど。

偏西風を蓄えきれぬ砦かな

炙っても鸚鵡は飛ばぬ海のうえ

倦まず仰ぎ虹が授くるもの知らず

船乗りがみるは匂いのなき性夢

渡り鳥まぢかで見たきその素顔

ねむる耳朶(みみ)が磁石となりて砂鉄吸う

酔いどれの体臭(におい) 飛雪も消せないなら


 最後に、おさえきれないリズムが破調となって展開するが、それが、とても気持ちがいい。破調は「古典的」ではないかもしれないが、破調を抱え込む力のあり方が「古典的」というか、ゆるぎないなあ、という感じになって残る。
 「呪詛」と「船乗り」からあとの四句が好きだ。「渡り鳥」は「まぢか」が強烈でいいなあと思う。今回の江島の句の全体を象徴するとすることばがあるとすれば「まぢか」だろうなあ。何か遠いものがある。それを「まぢか」でとらえたい。「出航する船」は、すでに江里から遠い場所にある。それなのに「酔どれの体臭」は「血液」よりも「まぢか」にあって、夢を掻き削る。そのときの「肉体の内部に響く音」が全部の句を貫いている。

 

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