「現代詩手帖」12月号(10)(思潮社、2022年12月1日発行)
朝吹亮二「イチゴ、木イチゴ、黒スグリ」。
イチゴ
木イチゴ
黒スグリ(グーズベリーだね)
揺らす七月の朝
(グーズベリーだね)は、「わざと」だね。「イチゴ、木イチゴ、黒スグリ」とたたみかけるリズムは、そのままつづけてもいいのだが、つづけるのはかなり緊張をともなう。そのリズムを一旦断ち切る。断ち切るといっても、完全にではなく、ふっと息抜きみたいな感じで。「だね」という口語の響きが効果的だ。
朝吹は、この「わざと」を強調しない。繰り返さない。そこが、いいところだ。
池井昌樹「放鳥譚」。ある朝を境に、見知らぬ鳥が部屋に飛びこんでくる。
未知の、未見の小禽。それは私自身が私を覗き込むような瞳で凝と私を視たのだ。
これは、私なら「わざと」書くが、池井は「わざと」は書かない。「自然に」書く。「見る」「覗く」「視る」のつかいわけも「わざと」ではないし、「わざわざ」でもない。「自然」なのだ。繰り返される「私」によって、繰り返されただけ「私」が増えていく。つまり、
その朝から私は何処か、何処が、ではない何もかも凡て変わった。
「何もかも凡て変わった」にことばを補うとしたら、何もかも凡て「突然に」変わった、ではなく、何もかも凡て「自然に」変わった、になる。
このあと池井のことばはとまることを知らないモーツァルトの音楽のように「自然に」動いていく。この「自然に」というのは、なかなかむずかしい。「自然」はどうすることもできない。
だから、読んでいる私の体調がいいときは、それはとても気持ちがいい。しかし、不機嫌なときにこれを読むと、いらいらする。
けれどもほんとうに遠退いてゆくらしい意識閾の外で囁く声が、さあお逃げ、おまえもはやく。
進められるままに、私は逃げよう。
川口晴美「光の中庭」。
夢のなかでツジツマをあわせると
という一行が、書き出しから七行目に出てくる。このタイミングは、詩が長くなることを暗示している。そして、実際に長いのだが。
夢のツジツマは、現実の論理とは違う。夢は辻褄をあわせなくても、辻褄が合ってしまう。池井の詩を読み返せばわかる。だから、池井の詩は「自然に」書かれた、と私は言うのである。夢のなかでは、辻褄は合わせるものではなく、合わせられるもの、自分ではどうすることもできないものなのである。
もういないわたし
それとも生まれたことのないわたしの子どもか
えいえんにいないものがそこで
朝の光を浴びている
「もういないわたし」とは「かつてはいたわたし」であり、その瞬間の「時間」の挿入、夢のなかへの「時間」の挿入が、「過去」と「永遠」を「それとも」ということばでツジツマあわせ(論理の整合性)を求めて動く。
最後は、
名付けられない
中庭は
わたしだけのもの
と開き直る。「ツジツマ」はいつだって「わたしだけのもの」である。妙に論理的すぎて、夢の実感が私には伝わってこない。
別な言い方をすると、川口の詩は、私の体調にかかわらず、同じ調子で読むことができる。それが、モーツァルトや池井の世界とは違う。
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