詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

「現代詩手帖」12月号(12)

2022-12-21 13:22:56 | 現代詩手帖12月号を読む

 福田拓也「垂直の聖地」は、ジョイスの「フィネガンズ・ウェイク」のようなものかと書くとジョイスのファンが怒るか、喜ぶか。

日々割れたレターの字づらから覗く日の火刈り蚊蛾焼苦る染み

 ことばは「表記」からどれだけ自由になれるか。ジョイスのこころみがどんなものかを理解できるほど私は英語を知らない。福田の書いている部分についてなら言える。
 「火刈り蚊蛾焼苦る染み」には、火に飛びこんできて死んでしまう蛾の苦しみが隠れているが、こういう常套句を「連想定型」のままの漢字をあてはめてみてもおもしろくないだろうなあ。「苦しみ」を「喜び」の漢字で、「官能の愉悦」を「苦しみ」の漢字で書かないことには、「わざと」にはならないし、「わざわざ」に発展しない。。
 福田の詩には、ときどきルビがある。私は引用するとき省略したが、「当て字」をルビつきで読むくらいなら、万葉集の、どう読むべきか特定されていない(いくつか説がある)歌を、万葉仮名で読む方が楽しいだろうと思う。

 細田傳造「まーめんじ」。これは、「わざわざ」の詩である。こんなことは書かなくてもいい。だから、書く。

てんねん好色児童の山崎が
ケッコンケッコンとわめきながら
むりやり美子と挙式しようとして
騒ぎになった
あれからぼくたちはみんな
野球少年になってそれを忘れた

 「あれからぼくたちはみんな/野球少年になってそれを忘れた」が特に「わざわざ」なのだが、「わざわざ」書いたことは、さらに「わざわざ」の方へ動いていく。そのとき、そこに、書かなければ存在し得なかったものが存在する。いや、書かなくてもほんとうは存在していたものが、書くことによって存在としてはじめて姿をあらわす。
 つまり、「発見される」ものがある。
 それは、何?
 それは読者が読んで考えればいい。読んで考えるために、詩集『まーめんじ』を買ってください。とてもいい詩集だ。詩集を売るために(読んでもらうために)、私は「わざと」詩の全体を引用しないのだ。引用を一部に留めているのである。「わざわざ」詩集を買うか、買わないかは、読者に任せる。詩が好きなら「わざわざ」買うだろう。ほんとうにいい詩集かどうか心配なら、「わざわざ」書店まで行って、立ち読みしてから、買うか買わないか判断するだろう。そういう「めんどう」のなかに、実は詩がある、といえば「わざわざ」の意味がよりいっそう伝わるかな?

 望月遊馬「ひょうたん島」。

だれと手をつないでも
つないだ相手が溶けて消える夢をみた

 この二行が簡潔で「わざと」詩に書いたという感じがしない。簡潔で、とても美しい。そのあと「溶ける」「消える」が「わざわざ」書かれているが、それは細田の「わざわざ」を読んだあとでは、別に読まなくていいなあと思う「わざわざ」である。
 こういうとき、私は「わざわざ」それを引用したりしない。

 

 

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