「現代詩手帖」12月号(11)(思潮社、2022年12月1日発行)
岸田将幸「無題(ラブソング)」。
悲しいからこれ以上
何も言わないでほしい「生」を僕らは生きるのだから
この二行目の書き方は「わざと」である。二行に分けた方がリズム的に読みやすい。しかし、それをあえて二行にせずに一行にしている。そして、それを「わざと」一行にしたとき、不思議なことが起きる。もし、あえて二行してみると、
何も言わないでほしい
「生」を僕らは生きるのだから
なのか
何も言わないでほしい「生」を
僕らは生きるのだから
なのか、わからなくなる。
どちらでもないのだ。
二行にしてしまったら、リズムは読みやすくなるが、それは「単なる「音」のリズムである。「音のリズム」を優先させたとき、「意味の連続のリズム」がくずれてしまう。
「生」はどちらにつながることばなのか。
わからないまま、一気に動いていく。
これがこの「意味の連続のリズム」なのである。「意味のリズム」ではなく「意味の連続のリズム」が、「自然に」このことばが一行であることを要求しているのである。「ねじれ」のようなものを要求するリズムである。
信念なんてないさ
あるのは独り言だけた
賭けていよう
うまくゆく
このまま口笛を
口笛をこのまま
「このまま口笛を/口笛をこのまま」は「意味の切断のリズム」であると言える。「ラブソング」というか、愛(恋)というのは、二人の人間のつくりだす「連続」と「切断」の交錯かもしれない。それが、そのまま行の形になっている。
「わざと」と最初に私は書いたが、それは「自然」を優先させるための「わざと」であることがわかる。
金時鐘「二つの部屋」。
鍵を下さい。
ご臨終の
母がいます。
ここを開けて下さい。
閉ざせない眼が
あいたなりです。
部屋(扉)によって、切断されている二人。息子は、接続を求めている。死んでしまった母もまた接続を求めているだろう。それは「閉ざせない眼」によって象徴されている。「あいたなりです」という息子の絶望がそれをくっきりと浮かび上がらせる。
「開ける」「閉ざす」「あいたなり」。この切断された接続は、とても強烈だ。つまり、「自然」がそのままあふれている。「あいたなり」の「なり(なる)」がとてもいい。
この「なる」は、岸田のことばでいえば「生」である。英語で言えば「be」である。ハムレットの「to be or not to be」の「be」。それは「生きるべきか、死ぬべきか」と翻訳されるときもあれば「なすべきかなさざるべきか」と訳されることもある。
竹内敏喜「L・Bに倣って 2」。「L・B」とは、何か。一時期「BL」という略語が飛び交った時代があった。「Boys Love (男の同性愛)」。
詩のなかに、
きみは話をそらせるとき、たいてい異性に眼をむけさせたね
でもたしかに女性の後ろ姿はより女神に似ている
この「きみは話をそらせるとき、たいてい異性に眼をむけさせたね」なかの、「わざと」の感覚が、「Boys Love 」の感覚か。「わざと」異性に眼を向けさせる。
でも、「女性の後ろ姿はより女神に似ている」とは、どういうことか。「わざわざ」付け足している(?)ことばが、私にはピンと来ない。「わざと」とも感じられない。ただ、とても「不自然」だと感じる。
「納得できない」を「不自然」と言っているだけなのかもしれないが。
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