詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

スティーブン・スピルバーグ監督「インディー・ジョーンズ4クリスタル・スカルの王国」

2008-06-24 08:27:36 | 映画
監督 スティーブン・スピルバーグ 出演 ハリソン・フォード、ケイト・ブランシェット、ジョン・ハート

 映画が始まってすぐ、つまりファーストシーン直後、10秒も、この映画は持ちこたえていない。「あ、だめだ」と直感的に体が反応してしまった。つまらない。
 問題のファーストシーン。「未知との遭遇」の岩山を思わせるオブジェ。その頂上がゆっくり崩れる。すると、そこから鼠(?)が顔を出す。そして、すぐに引っ込む。タイヤの大写し。車が暴走してきた。「激突」みたいである。だが、スペクタクルのファーストシーンにしては鼠が小さすぎて、だめ。大きい、と思っていたものが小さいではなく、小さいと思っていたものが大きい時にひとは感嘆する。たとえば「2001年宇宙の旅」の放り投げた骨がくるくるまわって宇宙ステーションになる。その瞬間に、ひとはびっくりする。声が出なくなる。逆の場合は、笑いが込み上げる。たとえば「ポルターガイスト」。猛烈な車レースと思っていたら、こどもたちのラジコンカーが大人の自転車を追いかけてからかっている。小から大へと、大から小へでは、印象がまったく違う。
 しょっぱなに度肝を抜いて、そのまま猛スピードで駆けて行かないと、もう映像について行く気がしなくなる。だいたい「岩山」が「未知との遭遇」を連想させ、タイヤが「激突」を思い起こさせるようでは、それから先のことは見なくてもわかる。その「未知との遭遇」(あるいは、それ以後のすべてのスピルバーグの宇宙もの)と「激突」の自己模倣も、結局、前の作品を超えることはない。
 自己模倣はクライマックスにもある。クリスタルの頭蓋骨が宇宙人のもとにもどる。宇宙人の超越した頭脳--それに向き合ったときのめまい。感動。「未知との遭遇」の「ディレクターズ・カット版」の宇宙船の内部のようではないか。宇宙人をクリスタルにしてしまうこと自体が、もう、繰り返されすぎた自己模倣で、新鮮さがまったくない。
 自己模倣だけならいいが、さらに悪いことには、どのシーンを見ても他の映画がちらつくことである。軍隊アリは「ハムナプトラ」の黒い甲虫集団を想像させる。森の中のカーチョイスは「スターウォーズ」を連想させる。どちらもオリジナルの方が迫力、スピード感がある。砂がこぼれて、巨大な石の建造物が動くのは、正確なタイトルは忘れたが「ピラミッド」を思い起こさせる。(最後に、砂がこぼれ、ピラミッドが閉じる、という美しいシーンがある。)
 スピルバーグは、いったい、どうしてしまったのだろうか。
 醜悪なのは、冒頭のクライマックスの原子爆弾である。「鉛」でできた冷蔵庫で助かる? シャワーで洗浄すれば放射能を除去できる? シリアスな映画ではなく、ジェットコースター・ムービーだとしても、これはあまりにもひどい。
 前作にはインディー・ジョーンズの父親がでてきたが、それから十数年、今度は息子が出てくるというのも、実にくだらない。冒険というのは常に日常から逸脱していくことである。家族はそういう逸脱を封じ込める力である。最後は、遅い遅い結婚式でしめくくられるのだが、なんというくだらなさ。冒険家が「家族」に帰還して、すべてが終わる。冒険とは、「日常」へ帰還するための巨大な迂回路にすぎないのか。映画である。そんなところに帰還せず、ひたすら日常から逸脱し、いま、ここには絶対にありえないものを映像で驚かせなくて、いったい何になるのだろう。

 今書いたようなこと以上に問題なのは、映像にスピード感がなくなったことかもしれない。たとえ自己模倣であっても、あるいは他の作品のコピーであっても、映像にスピードがあればまだいいのだが、どのシーンももったりとしている。重厚というのではない。切れがないのである。(こういうことは文字では説明しにくい。説明の仕方があるのかもしれないが、私は知らない。)ひとつひとつのシーンが長いだけではなく、ほんとうに「遅い」。映画が舞台としている時代の車のスピードが遅い(今と比較して)から遅くていいのだ、という見方もあるだろうが、映画なのだから(作り物なのだから)、そういう「感覚」(スピード感覚)は嘘であってかまわないのだ。20キロしか出ない車でも、ジャングルを150キロで走ってかまわない。150キロの印象がないとおもしろくない。映画で重要なのは「事実」ではなく、印象なのだ。感覚に訴えてくる力なのだ。

 スピルバーグの映画は見たくなくなる--そういう印象を残す、今年最大の「駄作」である。


*

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ウーピー・ゴールドバーグも若くて新鮮(?)。
色彩がとてもきれいだ。
アカデミー賞の作品賞、監督賞を逃したのが信じられない。
コメント
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