谷川俊太郎『こころ』(46)(朝日新聞出版、2013年06月30日発行)
「シミ」という作品も「自画像」である--と書いてしまうと、谷川俊太郎の「罠」にはまってしまうかもしれない。谷川は、そのつど自分ではないだれかに「なる」。だから、どんなに谷川らしく書かれていても、それは「自画像」ではない。
むしろ、それは読者の「自画像」である。そこで読者は自分自身の「こころ」をととのえている。
ほら、思いあたるでしょ?
「思いあたる」ことを思い出しながら、おぼえていることを思い出しながら、そのとき、私たちは自分が自分になったのか、それとも谷川になったのかわからない。区別がつかなくなる。
「なる」ということのなかで重なってしまう。
で、このままでは、なんだか落ち着かない。
自分であることはちょっと面倒くさい。自分ではなくなりたい。自分ではできないことを、谷川のことばを借りて、やってしまいたい。つまり、ほんとうに谷川になってしまいたい。谷川が谷川をことばでととのえるように、自分もととのえられたい。
大丈夫、谷川は最後まできちんと私たちを導いてくれる。ことばをきちんと動かして、知らなかったところへ連れて行ってくれる。あ、こんな道があったのか、こんなととのえ方があったのかと誘ってくれる。
突然の「キラキラ」と「万華鏡」。それは、すぐには何のことかわからない。いや、わかるけれど、自分のことばで言いなおすことができない。谷川が見せてくれた「キラキラ」と「万華鏡」を見つめるだけである。そうか、これが「キラキラ」か。これが「万華鏡か」という感じ。
で、この不思議な誘いが誘いとして成立(?)するためには、それまでのことばは、「ありとある生き物」の「自画像」でなくてはならない。普遍--というより、平凡と言っていいかもしれない。そういうことばをとおって(おぼえていることばを思い出して)、それから突然、ふっと飛躍する。
それは、それまでの「シミ」につながる「意味」からふっきれている。無意味の「キラキラ」「万華鏡」という「もの/こと」。
そこで見るのは「過去の自画像」ではなく、「未来の自画像」でもなく、まだ生まれていない「自画像」である。まだ「生まれていない」から、だれもが谷川といっしょに「生まれる」ことができる。
「シミ」という作品も「自画像」である--と書いてしまうと、谷川俊太郎の「罠」にはまってしまうかもしれない。谷川は、そのつど自分ではないだれかに「なる」。だから、どんなに谷川らしく書かれていても、それは「自画像」ではない。
むしろ、それは読者の「自画像」である。そこで読者は自分自身の「こころ」をととのえている。
妬みと怒りで汚れた心を
哀しみが洗ってくれたが
シミは残った
洗っても洗っても
落ちないシミ
今度はそのシミに腹を立てる
ほら、思いあたるでしょ?
「思いあたる」ことを思い出しながら、おぼえていることを思い出しながら、そのとき、私たちは自分が自分になったのか、それとも谷川になったのかわからない。区別がつかなくなる。
「なる」ということのなかで重なってしまう。
で、このままでは、なんだか落ち着かない。
自分であることはちょっと面倒くさい。自分ではなくなりたい。自分ではできないことを、谷川のことばを借りて、やってしまいたい。つまり、ほんとうに谷川になってしまいたい。谷川が谷川をことばでととのえるように、自分もととのえられたい。
大丈夫、谷川は最後まできちんと私たちを導いてくれる。ことばをきちんと動かして、知らなかったところへ連れて行ってくれる。あ、こんな道があったのか、こんなととのえ方があったのかと誘ってくれる。
真っ白な心なんてつまらない
シミのない心なんて信用できない
と思うのは負け惜しみじゃない
できればシミもこみで
キラキラしたいのだ
(万華鏡のように?)
突然の「キラキラ」と「万華鏡」。それは、すぐには何のことかわからない。いや、わかるけれど、自分のことばで言いなおすことができない。谷川が見せてくれた「キラキラ」と「万華鏡」を見つめるだけである。そうか、これが「キラキラ」か。これが「万華鏡か」という感じ。
で、この不思議な誘いが誘いとして成立(?)するためには、それまでのことばは、「ありとある生き物」の「自画像」でなくてはならない。普遍--というより、平凡と言っていいかもしれない。そういうことばをとおって(おぼえていることばを思い出して)、それから突然、ふっと飛躍する。
キラキラ
万華鏡
それは、それまでの「シミ」につながる「意味」からふっきれている。無意味の「キラキラ」「万華鏡」という「もの/こと」。
そこで見るのは「過去の自画像」ではなく、「未来の自画像」でもなく、まだ生まれていない「自画像」である。まだ「生まれていない」から、だれもが谷川といっしょに「生まれる」ことができる。
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パウル・クレー,谷川 俊太郎 | |
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