谷川俊太郎『こころ』(50)(朝日新聞出版、2013年06月30日発行)
「買い物」という作品はかなり奇妙な作品である。
何を買ったのか。「隠しているのではない」とわざわざ書くのは「隠している」ということの強調である。そのあとの「秘密」「やましいこと」も否定することで、逆に「秘密」と「やましさ」を浮かびあがらせる。「隠しているわけではない」が「隠している」ということを知ってもらいたい。
矛盾したものが、私たちのこころにはある。その矛盾は、そしてこんなふうに少しずつもらすような形で解きほぐすのかな?
もし、買ったものが「形」のあるもので、人の前でつかうことのあるものだったら、それは「買った」と言わなくても「買った」ということがわかる。人の目の触れるところでつかうものではないのかな?
--という具合に「妄想」を拡大していくと、うーん、これは「買った人」の秘密ではなく、読者の秘密を暴くようなものだね。秘密が暴かれるようなものだね。
どこか「共犯者」になったような気持ちになる。
こういう不気味な「ひとつ」へと誘う詩もあるのだ。
谷川が何を買ったか、「いつか忘れてしまう」ように、読者(私、谷内)も、そのことばによってどんな「妄想」を抱いたのか忘れてしまうだろう。でも、そういう「忘れてしまったこと」を含めてたしかに「私」という人間はできあがっている。
その一方、私たちは、そういうことを忘れながらも「覚えている」。覚えているので、ときどき思い出す。思い出しながら、「覚えていること」の、たぶん「覚える」という動詞のなかで「ひとつ」になる。
言い換えると「隠しているのではない」「秘密ではない」「やましいことはない」という否定の仕方で自分を納得させたという「矛盾」のなかで「ひとつ」になる。「矛盾」と書いたけれど、まあ、それは「矛盾」ではなく、もっとほかのことばの方が適切なのだろうけれど。
「買い物」という作品はかなり奇妙な作品である。
隠しているのではない
秘密にしておきたいわけでもない
やましいことは何一つない
誰に話してもかまわない
ささやかな買い物 でも
知っているのは世界中で
自分ひとりだけ
何を買ったのか。「隠しているのではない」とわざわざ書くのは「隠している」ということの強調である。そのあとの「秘密」「やましいこと」も否定することで、逆に「秘密」と「やましさ」を浮かびあがらせる。「隠しているわけではない」が「隠している」ということを知ってもらいたい。
矛盾したものが、私たちのこころにはある。その矛盾は、そしてこんなふうに少しずつもらすような形で解きほぐすのかな?
もし、買ったものが「形」のあるもので、人の前でつかうことのあるものだったら、それは「買った」と言わなくても「買った」ということがわかる。人の目の触れるところでつかうものではないのかな?
--という具合に「妄想」を拡大していくと、うーん、これは「買った人」の秘密ではなく、読者の秘密を暴くようなものだね。秘密が暴かれるようなものだね。
どこか「共犯者」になったような気持ちになる。
こういう不気味な「ひとつ」へと誘う詩もあるのだ。
いつかは忘れてしまうだろう
私の心のジグソーの一片
でもそんなかけらが合わさって
私という人間がいる
不思議
谷川が何を買ったか、「いつか忘れてしまう」ように、読者(私、谷内)も、そのことばによってどんな「妄想」を抱いたのか忘れてしまうだろう。でも、そういう「忘れてしまったこと」を含めてたしかに「私」という人間はできあがっている。
その一方、私たちは、そういうことを忘れながらも「覚えている」。覚えているので、ときどき思い出す。思い出しながら、「覚えていること」の、たぶん「覚える」という動詞のなかで「ひとつ」になる。
言い換えると「隠しているのではない」「秘密ではない」「やましいことはない」という否定の仕方で自分を納得させたという「矛盾」のなかで「ひとつ」になる。「矛盾」と書いたけれど、まあ、それは「矛盾」ではなく、もっとほかのことばの方が適切なのだろうけれど。
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