三田洋「悲の舞」(「この場所 ici」10、2014年04月25日発行)
三田洋「悲の舞」は、音が美しく感じられる。繊細すぎるかもしれない。現代的ではないかもしれないが……。
音だけでなく、文字のバランス(漢字とひらがなの組み合わせ)もいいのかもしれない。私は音読はしないのだが、音読を誘われる感じがする。「悲しみ」ではなく「悲」と書くときに消える「しみ」がいいのかなあ。「しみ」と書いたが「しみ」ではなく、私の耳からは「しい」が消えていく。
こういうことばの形、「形容詞(終止形)+の」という日本語はないから「悲(名詞?)+の」という形になっているのだと思うけれど、黙読するとき動く音は、三田には申し訳ないが、私の場合「ひのまい」という形をとらない。いや、「ひのまい」という音も存在するのだけれど、私は「悲(ひ)」ということばを単独ではつかった習慣がないので、「ひのまい」と意識では思うけれど、耳は「悲しいの舞」から「しい」が消えて、その緒とが消えることが影響して「かな」が「ひ」に変わっていくような……うまく言えないが、そこに「音の化学変化」のようなものを感じてしまう。
その言いようのない「音の化学変化」と「斜めうしろから/すくうのがよい」の漢字とひらがなの組み合わせ、さらに音の組み合わせが、なんとなく気持ちがいい。美しいと感じる。
「喉」という「肉体」が「指」よりも先に出てくるのも、「音」の感覚を刺戟する。「声」の感覚を刺戟する。「指」のあとに「呼吸」が出てきて、また「喉」にもどる感じが複雑だけれど、とても自然に感じる。
三田はことばを「喉(音)」で書いている、「喉」が手を動かしている。目に働きかけているという印象がある。
こういうことは「感覚の意見」であって、説明はしにくいのだが……。
いろいろことばが動いて、最終連。
抽象的になりすぎて、少しつらい(?)のだけれど、音の交錯が軽やかで美しい。「ひ」は「ひ」か「り」の「り」ゅうしに、ひ「つ」ぜんの「つ」れあい、「ひ」おうの「ひ」のまい、複数の行にわたる「悲(ひ)」、「ひ」つぜん、「ひ」おう、「ひ」そかの、その「音」。
三田の書こうとした「意味(内容)」は、私にはわからないけれど、この音へのこだわりが作品を支えている。美しくしていると思った。
三田洋「悲の舞」は、音が美しく感じられる。繊細すぎるかもしれない。現代的ではないかもしれないが……。
悲は斜めうしろから
すくうのがよい
音だけでなく、文字のバランス(漢字とひらがなの組み合わせ)もいいのかもしれない。私は音読はしないのだが、音読を誘われる感じがする。「悲しみ」ではなく「悲」と書くときに消える「しみ」がいいのかなあ。「しみ」と書いたが「しみ」ではなく、私の耳からは「しい」が消えていく。
悲(しい)の舞
こういうことばの形、「形容詞(終止形)+の」という日本語はないから「悲(名詞?)+の」という形になっているのだと思うけれど、黙読するとき動く音は、三田には申し訳ないが、私の場合「ひのまい」という形をとらない。いや、「ひのまい」という音も存在するのだけれど、私は「悲(ひ)」ということばを単独ではつかった習慣がないので、「ひのまい」と意識では思うけれど、耳は「悲しいの舞」から「しい」が消えて、その緒とが消えることが影響して「かな」が「ひ」に変わっていくような……うまく言えないが、そこに「音の化学変化」のようなものを感じてしまう。
その言いようのない「音の化学変化」と「斜めうしろから/すくうのがよい」の漢字とひらがなの組み合わせ、さらに音の組み合わせが、なんとなく気持ちがいい。美しいと感じる。
悲はすくえなかった小さな喉の
白すぎる紙の指で
呼吸をほどこすように
すくうのがよい
「喉」という「肉体」が「指」よりも先に出てくるのも、「音」の感覚を刺戟する。「声」の感覚を刺戟する。「指」のあとに「呼吸」が出てきて、また「喉」にもどる感じが複雑だけれど、とても自然に感じる。
三田はことばを「喉(音)」で書いている、「喉」が手を動かしている。目に働きかけているという印象がある。
こういうことは「感覚の意見」であって、説明はしにくいのだが……。
いろいろことばが動いて、最終連。
そのとき
悲はひかりの粒子にくるまれて
必然のつれあいのように
すくいのみちをめざしながら
秘奥の悲の舞を
ひそかに演じるのでしょうか
だれもいない開演前の舞台のように
抽象的になりすぎて、少しつらい(?)のだけれど、音の交錯が軽やかで美しい。「ひ」は「ひ」か「り」の「り」ゅうしに、ひ「つ」ぜんの「つ」れあい、「ひ」おうの「ひ」のまい、複数の行にわたる「悲(ひ)」、「ひ」つぜん、「ひ」おう、「ひ」そかの、その「音」。
三田の書こうとした「意味(内容)」は、私にはわからないけれど、この音へのこだわりが作品を支えている。美しくしていると思った。
仮面のうしろ | |
三田 洋 | |
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