長谷川龍生「途上(みち)」、荒川洋治「錫」、加納由将「空に」(「現代詩手帖」2014年12月号)
長谷川龍生「途上(みち)」(初出「愛媛新聞」1月1日)は「途上」を「みち」と読ませている。そして、そこに「みち」という表記もでてくる。
1連目の「途上(みち)」は、水軍がとおった水路(海路)というよりも、水軍が大暴れしながら勢力を拡大していった「歴史」という感じなのだろうか。海のうえを通りながら長谷川の思いは、単なる「水路」というよりも歴史を呼吸している。だから「途上」なのだろうか。
そうすると2連目は?
「肉体」で追認せず、ただ想像力で追いかけている「みち」? さまざまな「みち(道)」があるなあとは思っても、それを「途上」として肉体に引きつけて具合的に感じてはいない、ということか。
「肉体(胸)」で感じるものと、「頭」で感じるものを区別しているのだろうか。
違うなあ、きっと。
3連目は、「俳句」とひとことでいってしまうけれど、その「俳句」にもいろいろな「みち」がある。「別のみち」と書いているのがおもしろい。「同じ」にみえても、ほんとうは「別」のみち。
子規、碧梧桐、虚子、山頭火にも、それぞれ「途上」という感覚はあっただろう。長谷川は、いろいろな「みち」を「途上」として確かめられたらおもしろいだろうと考えているのだろう。
「途上」というのは、「途中」。それこそ「胸いっぱいエネルギーが湧く」感じだ。それが爆発して「途上」をつきやぶって、確立される。それが「みち」かな?
だとしたら「みち」よりも、「途上」の方がおもしろいかも。どこで爆発する? 爆発したらどうなる? わからない、わくわく。
「みち」を「途上」にかえて、追体験する。追体験をとおして、新しい「みち」になるまで自分を暴走させる--というのは楽しいだろう。
*
荒川洋治「錫」(初出「奥の細道」1、2月)は、2連目が非常におもしろい。
どこの店だろう。詩のつづきを読むと「大垣」という地名が出てくる。「大垣の内側にいる」という行が最後の行だ。きっと「大垣」にある店。あまり客も多くないのかもしれないけれど、あ、そこへ行ってみたい。店員が「練習」しているのを聞いてみたいと思う。
きっと何を食べてもおいしい。
「おいしい」のなかには「人間」がいる。食べ物をつくって、出してくれるひとがいる。そういうひとと「出会う」という感じが「おいしい」。
最終行の「内側」とは、そういうひとの動き。何かをつくりだす「動き」。
荒川は、それを「ありきたり」の感じ、「無意識」の感じにまでならして(ことばの技巧、いいかえると「わざと」を消して)、ことばにする。
ほかの連にもいろいろなことが書いてあるのだが、2連目だけで私は「満腹」になる。「とてもおいしい」と満足してしまう。
*
加納由将「空に」(初出『夢見の丘へ』2月)。
「獣の鋭い視線」ではなく「鋭い獣の視線」。「鋭い」という「印象」が最初に加納をつかまえている。「鋭い」をそのあとで「獣」「視線」とつないでゆく。見えない何か(隠れているもの)をさがそうとする意識の動きが、そのことばの動きのなかにあって、ここが詩のハイライトだなと思うのだが、「それは大きい/空白なのか」は、私の感じでは「嘘っぽい」。「獣」と「空白」は、どうもなじまない。私が「固定観念」にとらわれているのかもしれないが。
この最終連は、とてもつまらない。「箱庭」はほんとうの「箱庭」か、自分の家の庭を「箱庭」と比喩にしたのかわからないが、空の向こうと対話しきれずに「箱庭」にもどってしまうのだったら、空の向こうを見る必要もないだろう。
空の向こうへの「途上」を突き破って、空の向こう側に行ってしまうのが詩ではないのだろうか。空の向こう側を「内側」にしてしまうのが詩ではないのだろうか。
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購読ご希望の方は、谷内修三(panchan@mars.dti.ne.jp)へお申し込みください。1800円(税抜、送料無料)で販売します。
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長谷川龍生「途上(みち)」(初出「愛媛新聞」1月1日)は「途上」を「みち」と読ませている。そして、そこに「みち」という表記もでてくる。
瀬戸内の弓削島から
宇和内の日振島まで
中世水軍の海の途上(みち)を追う
胸いっぱいエネルギーが湧く
古代湖沼のみち 古墳へのみち
湯のみち 戦乱のみち
遍路のみち 百姓一揆のみち
鉱山へのみち 自由民権へのみち
俳聖へのみち
正岡子規から河東碧梧桐 高浜虚子へ
別のみちが走っている 種田山頭火
1連目の「途上(みち)」は、水軍がとおった水路(海路)というよりも、水軍が大暴れしながら勢力を拡大していった「歴史」という感じなのだろうか。海のうえを通りながら長谷川の思いは、単なる「水路」というよりも歴史を呼吸している。だから「途上」なのだろうか。
そうすると2連目は?
「肉体」で追認せず、ただ想像力で追いかけている「みち」? さまざまな「みち(道)」があるなあとは思っても、それを「途上」として肉体に引きつけて具合的に感じてはいない、ということか。
「肉体(胸)」で感じるものと、「頭」で感じるものを区別しているのだろうか。
違うなあ、きっと。
3連目は、「俳句」とひとことでいってしまうけれど、その「俳句」にもいろいろな「みち」がある。「別のみち」と書いているのがおもしろい。「同じ」にみえても、ほんとうは「別」のみち。
子規、碧梧桐、虚子、山頭火にも、それぞれ「途上」という感覚はあっただろう。長谷川は、いろいろな「みち」を「途上」として確かめられたらおもしろいだろうと考えているのだろう。
「途上」というのは、「途中」。それこそ「胸いっぱいエネルギーが湧く」感じだ。それが爆発して「途上」をつきやぶって、確立される。それが「みち」かな?
だとしたら「みち」よりも、「途上」の方がおもしろいかも。どこで爆発する? 爆発したらどうなる? わからない、わくわく。
「みち」を「途上」にかえて、追体験する。追体験をとおして、新しい「みち」になるまで自分を暴走させる--というのは楽しいだろう。
愛媛という場所は不思議だ
飽きない歴史が積みかさなっている
二十一世紀のはじめ
新しい途上(みち)は 何か
老いも 若きも 身を震わしている
*
荒川洋治「錫」(初出「奥の細道」1、2月)は、2連目が非常におもしろい。
女性の店員が
急に視角をはずれ
厨房のかげで
練習をはじめる
「いらっしゃいませ」
「………………」
「ご注文の品、これで
おそろいでしょうか」
何回か繰り返し
特別な店ではないのに
出てくるものは なにもかもおいしく
どこの店だろう。詩のつづきを読むと「大垣」という地名が出てくる。「大垣の内側にいる」という行が最後の行だ。きっと「大垣」にある店。あまり客も多くないのかもしれないけれど、あ、そこへ行ってみたい。店員が「練習」しているのを聞いてみたいと思う。
きっと何を食べてもおいしい。
「おいしい」のなかには「人間」がいる。食べ物をつくって、出してくれるひとがいる。そういうひとと「出会う」という感じが「おいしい」。
最終行の「内側」とは、そういうひとの動き。何かをつくりだす「動き」。
荒川は、それを「ありきたり」の感じ、「無意識」の感じにまでならして(ことばの技巧、いいかえると「わざと」を消して)、ことばにする。
ほかの連にもいろいろなことが書いてあるのだが、2連目だけで私は「満腹」になる。「とてもおいしい」と満足してしまう。
*
加納由将「空に」(初出『夢見の丘へ』2月)。
縁に
座って
ぼんやり考える
あの空の向こうには
何かが
隠れている気がする
空の向こうに
鋭い
獣の
視線を感じて
睨み返す
それは大きい
空白なのか
「獣の鋭い視線」ではなく「鋭い獣の視線」。「鋭い」という「印象」が最初に加納をつかまえている。「鋭い」をそのあとで「獣」「視線」とつないでゆく。見えない何か(隠れているもの)をさがそうとする意識の動きが、そのことばの動きのなかにあって、ここが詩のハイライトだなと思うのだが、「それは大きい/空白なのか」は、私の感じでは「嘘っぽい」。「獣」と「空白」は、どうもなじまない。私が「固定観念」にとらわれているのかもしれないが。
空には
きりがなくて
箱庭の対話が広がっていく
この最終連は、とてもつまらない。「箱庭」はほんとうの「箱庭」か、自分の家の庭を「箱庭」と比喩にしたのかわからないが、空の向こうと対話しきれずに「箱庭」にもどってしまうのだったら、空の向こうを見る必要もないだろう。
空の向こうへの「途上」を突き破って、空の向こう側に行ってしまうのが詩ではないのだろうか。空の向こう側を「内側」にしてしまうのが詩ではないのだろうか。
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