監督 ジョナサン・デミ 出演 メリル・ストリープ、ケビン・クライン、メイミー・ガマー
メリル・ストリープはすごい。売れっ子なのに、落ちぶれたロック歌手を演じていて、その落ちぶれ加減が、とてつもなくリアルなのだ。髪や肌に、いきおいがない。まあ、年相応といえばそうだけれど、スターなのだからきちんと手入れをしているはず。それを荒んだ状態にしている。体型も、あえて自堕落な感じ、ウエストというか、くびれがきえてしまっている感じ、胸のふくらみをたよりに、その下あたりがくびれ(ウエスト)といえばいえる、という感じの体型をさらけだしている。私は、こういう「外形」から入る演技というのは好きではないのだが、うーん、見とれてしまったなあ。特に、アイシャドーの演技(?)に。目で演技する前に、アイシャドーに演技をさせている。目の在りかはここと主張させている。演技派なのに、そのアイシャドーに演技をさせているところが、なんともすごい。
で、それでは落ちぶれたままの姿で演技しつづけるのかというと、そうでもないのだ。メリル・ストリープには子どもが何人かいる。離婚したため、いっしょには暮らしていない。そのうちのひとり、娘(実際の娘、メイミー・ガマー。これがメリル・ストリープの夫そっくりの顔、特に目をしている)が離婚して自殺未遂したをおこしたために、彼女のケアのために元の夫(ケビン・クライン)に呼ばれて、その家へゆく。しかし、後妻から追い出される。そのあと、バンドにもどり、そこでギターを弾いている男と、離婚して子どもを抱えているものどうしの慰め合いという感じで、愛しあう。ここからの表情が、うわーっ、すごい。落ちぶれていない。いや、あいかわらず落ちぶれたロック歌手なのだが、自分のことを理解してくれる男がいて、好きな歌が歌える喜びで、実にいきいきしてくる。見ていて、静かな幸福を感じてしまう。
そして、すごいのは、これがきちんとした「伏線」になっていること。メリル・ストリープのこどものひとり(男)が結婚式をする。そこに招待される。「上流階級」の結婚式なので、メリル・ストリープは出席したくない。息子を祝福したいのはやまやまなのだが、ほかの出席者から冷たい目で見られることを恐れているのだ。実際、出席してみるとみんなから冷たい目で見られる。テーブル席も息子の母親なのに、遠ざけられて、冷遇される。その披露宴で、メリル・ストリープはスピーチがわりにロックを歌う。出席者からはいやな目で見られるのだが、息子が花嫁を誘ってダンスを踊りはじめる。ここからにぎやかなクライマックスになるのだが、息子が自分の歌を喜んでいるとわかり、メリル・ストリープの表情がいきいきしてくる。落ちぶれたロック歌手ではなくなる。恋人とステージでキスをしながら歌う。その喜びが、彼女はなつ輝きが、会場全体に広がる。
映画とはわかっているのだが(つまり、実際にこういうことがあるとは思わないのだが)、映画であることを忘れて(あるいは映画であることのなかにのみこまれて)、楽しくなってくる。映画っていいなあ、こうい映画は、個室でDVDで、つまり小さなモニターで個人で見ていてはおもしろくない。やっぱり劇場で、ぜんぜん知らない人に囲まれて、知らないにもかかわらず、「幸福」を分かち合って見るのがいい。まわりに座っているひとの「幸福感」が伝わってくる、その瞬間がとってもうれしい。
(天神東宝ソラリア9、2016年04月06日)
*
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映画館で見た映画(いま映画館で見ることのできる映画)に限定したレビューのサイトです。
https://www.facebook.com/groups/1512173462358822/
メリル・ストリープはすごい。売れっ子なのに、落ちぶれたロック歌手を演じていて、その落ちぶれ加減が、とてつもなくリアルなのだ。髪や肌に、いきおいがない。まあ、年相応といえばそうだけれど、スターなのだからきちんと手入れをしているはず。それを荒んだ状態にしている。体型も、あえて自堕落な感じ、ウエストというか、くびれがきえてしまっている感じ、胸のふくらみをたよりに、その下あたりがくびれ(ウエスト)といえばいえる、という感じの体型をさらけだしている。私は、こういう「外形」から入る演技というのは好きではないのだが、うーん、見とれてしまったなあ。特に、アイシャドーの演技(?)に。目で演技する前に、アイシャドーに演技をさせている。目の在りかはここと主張させている。演技派なのに、そのアイシャドーに演技をさせているところが、なんともすごい。
で、それでは落ちぶれたままの姿で演技しつづけるのかというと、そうでもないのだ。メリル・ストリープには子どもが何人かいる。離婚したため、いっしょには暮らしていない。そのうちのひとり、娘(実際の娘、メイミー・ガマー。これがメリル・ストリープの夫そっくりの顔、特に目をしている)が離婚して自殺未遂したをおこしたために、彼女のケアのために元の夫(ケビン・クライン)に呼ばれて、その家へゆく。しかし、後妻から追い出される。そのあと、バンドにもどり、そこでギターを弾いている男と、離婚して子どもを抱えているものどうしの慰め合いという感じで、愛しあう。ここからの表情が、うわーっ、すごい。落ちぶれていない。いや、あいかわらず落ちぶれたロック歌手なのだが、自分のことを理解してくれる男がいて、好きな歌が歌える喜びで、実にいきいきしてくる。見ていて、静かな幸福を感じてしまう。
そして、すごいのは、これがきちんとした「伏線」になっていること。メリル・ストリープのこどものひとり(男)が結婚式をする。そこに招待される。「上流階級」の結婚式なので、メリル・ストリープは出席したくない。息子を祝福したいのはやまやまなのだが、ほかの出席者から冷たい目で見られることを恐れているのだ。実際、出席してみるとみんなから冷たい目で見られる。テーブル席も息子の母親なのに、遠ざけられて、冷遇される。その披露宴で、メリル・ストリープはスピーチがわりにロックを歌う。出席者からはいやな目で見られるのだが、息子が花嫁を誘ってダンスを踊りはじめる。ここからにぎやかなクライマックスになるのだが、息子が自分の歌を喜んでいるとわかり、メリル・ストリープの表情がいきいきしてくる。落ちぶれたロック歌手ではなくなる。恋人とステージでキスをしながら歌う。その喜びが、彼女はなつ輝きが、会場全体に広がる。
映画とはわかっているのだが(つまり、実際にこういうことがあるとは思わないのだが)、映画であることを忘れて(あるいは映画であることのなかにのみこまれて)、楽しくなってくる。映画っていいなあ、こうい映画は、個室でDVDで、つまり小さなモニターで個人で見ていてはおもしろくない。やっぱり劇場で、ぜんぜん知らない人に囲まれて、知らないにもかかわらず、「幸福」を分かち合って見るのがいい。まわりに座っているひとの「幸福感」が伝わってくる、その瞬間がとってもうれしい。
(天神東宝ソラリア9、2016年04月06日)
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