詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

梁川梨里『ひつじの箱』

2017-06-10 11:35:26 | 詩集
梁川梨里『ひつじの箱』(七月堂、2017年03月26日発行)

 梁川梨里『ひつじの箱』に「揺れる」という作品がある。

風は、気孔を空に向けるゆびさきを持つ
なめらかな所作で
ひかり、なのか、花、なのか
ひかりの花なのか
分からないことは
わからないままのほうが
うつくしい

 一行目が魅力的だ。意識がひっかきまわされる。書かれていることを「理解した」とは言えないが、その「ひっかきまわされた」という感覚が詩なのだろう。
 梁川にもわかっていないのかもしれない。だから、言いなおすのだ。「やわらかな所作」という別のことばで。「ゆびさき」と「やわらか」「所作」が結びつき、ゆじが空に向かってゆらゆら揺れるように感じる。
 「ひっかきまわされ、ごちゃごちゃになったもの(混沌)」が、少しずつ落ち着き、濁り水が透明になるように澄んでくる。
 それが「ひかり」と「花」とさらに言いなおされる。ただし、その言い直しは一行目から二行目への言い直しとは違う。

ひかり、なのか、花、なのか
ひかりの花なのか

 区別がなくなり、ひとつになる。融合する。この融合は、むしろ「結晶」と読んだ方がいい。言いなおすことは、「結晶」をうながすことなのだ。ことばの運動が「結晶」の「触媒」なのだ。
 思い返せば、最初の一行、二行も「融合」である。ただし、それは「結晶」ではなく、複数のものが複数のまま、からみあった融合、「混沌」というものだ。「混沌」のまま、ひとつになっている。
 そこから「気孔」ということばが出てきて、「ゆびさき」ということばも出てくる。書き出しの「風」は最初は「風」ではなく、何かが「融合」したひとかたまりのものだった。それが「風」と読んだ瞬間から「気孔」ということばを誘い出し、「空」を誘い出し、「ゆびさき」ということばにもなる。
 何が絡み合っているかがわかったあと、絡み合ったものが、他のものと誘い合うのだ。新しい結びつき、「結晶」になることを求めて動き始める。
 「風」がつぎつぎにことばを生み出、生み出したものがまた結びついて「ひとつ」になる。「風」が「風」ではなく、「ひかり、花、ひかりの花」という「ひとつ」になる。「ひとつ」になったとき、最初の「風」が「美しい結晶」としてよみがえってくる。
 ここには往復運動がある。「融合(混沌)」から「結合(結晶)」へと「往復」する。その「運動」こそが「うつくしい」。

 感覚的に見えて、この「往復」は「論理的」である。つまり、そこからさらに「論理」の運動を利用して世界を広げていくことができる。
 少し省略するが、

わたしの右側を駆け下りていく
サラリーマンの鞄からこぼれ落ちている
ひかり、
(落しましたよ)

 「ひかりの花」は、そこに唐突に復活してくる。風がさっと吹き抜けたように新鮮な空気がひろがる。「ゆびさき」が、その「ひかり、」を拾おうとする動きが見える。

 「さかなをかく」の一連目。

雨が降る、ずんずんと降る
傘に長靴、から、ボートに変わってから
かれこれ三ヶ月が経つ頃、二階の窓から出入りをはじめた
こんなにたくさんの水は何処に隠されていたのだろうか
牛乳瓶に入れて流された言葉でうおうさおうしていたわたしたちは
半年で雨がやまないことに同意した

 「論理」は「物語」へとつながっていく。これはことばの宿命なのかもしれない。しかし、

傘に長靴、から、ボートに変わってから

 この行の「、から、」という分断と接合の意識が、物語をつなぎながら切断する力になっている。詩がときどき噴出してくる。それがおもしろい。

詩誌「妃」17号
クリエーター情報なし
妃の会 販売:密林社
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安倍の手口(「天皇生前退位特例法」をめぐって)

2017-06-10 09:11:40 | 自民党憲法改正草案を読む
安倍の手口(「天皇生前退位特例法」をめぐって)
               自民党憲法改正草案を読む/番外84(情報の読み方)

 天皇を生前退位させる「特例法」が06月09日に成立した。読売新聞2017年06月10日朝刊(西部版・14版)の1面の見出し。

 退位特例法 成立/天皇陛下 来年末にも上皇に/新元号選定 本格化

 私は「天皇の生前退位」は安倍が仕組んだ憲法改正の第一歩と認識している。「護憲派天皇」の追放が目的である。憲法について何も言わせない、第二次大戦について発言させないための強行手段である。
 安倍は天皇をどうやって国民のあいだから消し去ろうとしているか。
 見出しに「新元号選定 本格化」とある。いつから新元号にするかは、特例法が成立する前から新聞を賑わした話題である。最初は2019年01月01日から新元号という「説」がひろがった。年の途中でかわると、わかりにくく、国民生活に影響がある、というのだが。私にはとても信じられない。元号がいつかわっても、私なんかはぜんぜん影響されない。何一つ困ることはない。カレンダーも「日付/曜日」を確認するものであって、元号を確認するために見たりはしない。
 いちばん国民生活に関係するものは何かといえば、「祝日」だろう。「12月23日の天皇誕生日」はどうなるか。「特例法全文」によれば、祝日について「2月23日 天皇の誕生日を祝う」と改めると書いてある。これは、いいのだが、そのあと、

「天皇誕生日 12月23日 天皇の誕生日を祝う。」を削る。

 とある。天皇ではなくなるのだから「天皇誕生日」ではなくなる。だから削る。あたりまえのようだが、私には「違和感」が残る。
 昭和天皇の誕生日「04月29日」は「みどりの日」になって、祝日のまま残った。どうして、平成天皇誕生日は「名称」を変えて残らないのか。
 12月の祝日がなくなる、というのは、元号の変化以上に国民生活に影響するだろう。どうして誰も話題にしなかったのか。昭和天皇の誕生日がそのまま祝日として残ったのだから、平成天皇の誕生日も残るだろうと思い込んでいたのかもしれない。それとも、私以外は祝日ではなくなるということを知っていたのかな?
 で。
 疑り深い私は思うのである。なぜ、「平成天皇の誕生日」を削除するのか。「平成天皇」を思い出させないためである。護憲派の天皇、被災地を訪問し被災者によりそう天皇を思い出させないためである。平成天皇を思い出させるものは、国民の目につくところから消してしまう。
 平成天皇を封印して、憲法を改正する。戦争のできる国にする。
 これも、安倍の「手口」のひとつである。
 憲法改正の動きが加速し、独裁が進む。
 憲法が権力を拘束するものであるように、法律も権力を拘束するものでなくてはならない。「生前退位特例法」が権力(安倍)の意思によって天皇を交代させるという動きに利用されないか、その点をもっと真剣に点検しなければならないはずなのに、点検されなかった。
 この特例法は、皇太子が天皇になって、天皇としてどう振る舞うかをみきわめたとき、どう動くのか。安倍にとって気に食わない存在とわかれば、すぐに「特例法」を適用させて、天皇を交代させるに違いない。

 権力の暴走をどう防ぐか。
 森友学園にしろ、加計学園にしろ、権力の暴走である。権力が、自分に都合のいい人間だけを優遇し、支配を強めている。秘密保護法も共謀罪も同じ。
 いま、あらゆる法律が権力の暴走を手助けするためにつくられている。「天皇の生前退位特例法」も同じである。
 安倍の、反対者を沈黙させて、やりたい放題をするという手口は天皇制にまで及んでいる。それを野党は見逃した。共産党も民進党も法案に賛成した。高齢の天皇に配慮するとは聞こえのいい言い分である。やっていることは天皇の封印である。

#安倍を許さない #憲法改正 #加計学園 #天皇生前退位
詩人が読み解く自民党憲法案の大事なポイント 日本国憲法/自民党憲法改正案 全文掲載
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安倍の手口(「加計」文書をめぐって)

2017-06-10 00:55:39 | 自民党憲法改正草案を読む
安倍の手口(「加計」文書をめぐって)
               自民党憲法改正草案を読む/番外83(情報の読み方)

 読売新聞2017年06月09日夕刊(西部版・4版)の1面の見出し。

 「加計」文書 再調査へ/文科相表明 聞き取り対象拡大

 「総理の意向」をめぐる文書について、文科省は「確認できない」と言っていた。再調査はしないと主張し続けてきた。菅は、「怪文書」と断定し、前川前文部次官の人格攻撃までしていた。
 それが突然の方針転換である。
 なぜだろう。世論の声に抗しきれなくなったのか。2社面には

「国民の声」受け一転

 という見出しがある。
 私は疑り深い人間であるから、こういう「方針転換」は信じない。「裏」があると勘繰る。
 気になったのが、再調査を決めた松野文科相の次の発言である。

「総理からは徹底した調査を速やかに行うよう指示があった」

 安倍が「徹底した調査」を指示した。しかも、「速やかに行うように」。
 どうもおかしい。「徹底した調査」は「速やかに」はできない。どうしても時間がかかる。ほんとうに「徹底した調査」をするのならば、まず文部省(職員)が調査するのではなく、第三者が調査すべきだろう。調査対象も、文部省の職員全員のパソコン、サーバーを調べないといけない。単に文書が残っているかだけではなく、「削除」した形跡がないか調べないといけない。パソコンだけではなく「紙(プリントアウトしたもの)」も調べないといけないし、個人のパソコンやメールも調べる必要が出てくる。「徹底」とは、そういうことだろう。
 そして、この「徹底」は「速やか」とは相いれない。
 ポイントここである。
 「速やかに」は「嘘」である。「時間をかけろ」と安倍は言っているのである。
 国会審議は、とどこおっている。09日は「天皇の生前退位特例法」が可決されたが、「共謀罪」の審議は「加計学園」をめぐる「文書」のせいで、なかなか進まない。何度も質問が繰り返される。
 これをストップさせる(加計学園問題を審議させない)ためには、どうすればいいか。簡単である。「調査中」という状態をつくればいい。
 きっと、月曜日からの国会審議では、「その問題については、文部省が調査中である。調査結果が出るまで、その問題については答えられない」という答弁が展開されるだろう。
 「口封じ(質問封じ)」のための「方便」である。
 安倍の政策は、いかに「沈黙」をつくりだすかということで一貫している。「沈黙」し、押し切る。説明などしない。
 2社面には、文部省の職員の声が載っている。

「これまでの対応を一転させたのには驚いた」

 そう、みんなが驚いたはずだ。そして、驚くとき、人は一瞬何が起きたのかわからなくなる。衝撃で、何か、大事なものを見落とす。
 「徹底調査」は「罠」である。「速やかに」というのは、「速やかに着手する」ということに過ぎない。結論はできるかぎり遅く、言い換えると国民が忘れてしまうまで、ほうっておけ、という指示なのである。安倍の指示は。
 「共謀罪」が強硬可決されたときは、そのショックで、もうみんな「加計学園」のことを忘れている。忘れてしまう。それを狙っている。
 民進党などは、どこか「共謀罪」を成立させないために「加計学園」問題を追及するというような「論理の混同」があるから、この安倍の作戦に「コロリ」と騙されてしまうだろう。
 このままでは、国会を延長させずに、「共謀罪」を成立させるという安倍の作戦が成功する。さらにその勢いで東京都議会選を突破するつもりなのである。

 昨年の参院選の「沈黙作戦(選挙報道をさせない作戦)」が顕著だったが、誰が安倍のブレーンかしらないが、この「沈黙活用作戦」は、非常に手が込んでいる。いままでは誰も気がつかなかった方法である。

#安倍を許さない #憲法改正 #加計学園
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